*太磨霊園レイドアタック⑨ 合流、補給部隊の顛末


 第三休憩所の戦いは、丁度俺が赤鬣犬レッドメーンを仕留めた辺りで、正面側の戦闘も終息していた。【幻覚スキル】で混乱したところを一気に畳みかけようと、【統率】と【眷属強化】持ちのコボルトリーダーが接近してきたのがモンスター側の運の尽き・・・・だった。


 タイミング良く【幻覚スキル】が止み、その間に接近してしまったコボルトリーダーは、岡本さんの【挑発】に絡めとられ、意に反した接近戦を強要された。その結果、コボルトリーダーは岡本さんの[フランジメイス2号]によってスキルジェム【戦技】に姿を変えられてしまった。


 そうなってしまうと、攻防の立場は一気に入れ替わる。【統率】と【眷属強化】スキルの恩恵を失ったメイズハウンドに対して、幻覚から立ち直った[受託業者]が逆襲を仕掛け、戦闘は終了となったとのこと。


 ちなみに、2階にいたはずの俺と里奈が正面入り口から姿を現した事に、岡本さんは驚いていたが、直ぐに何があったかを察してくれた。それで、


「何匹だった?」

「2匹でした、でも1匹はハム美が」

「いや、それでも凄いな、コータ」


 という岡本さんと俺の会話になる。「凄いな」と言われて嬉しかったのは内緒だ。


 その後は、怪我人の確認・手当になる。ここで里奈が習得した【回復魔法:下級】が早速活躍することになった。このスキル、習得のためのコストが[修練値]150、使用コストは[魔素力]20。既に【操魔素】(コスト500)を習得している里奈に習得できるのか? とちょっと疑問だったが、ギリギリ足りたようだ。


 ということは、里奈はこれまでの[太磨霊園・レイドアタック]期間中に修練値を650まで上げていたということ。11層相当の実力者ということだ。まぁ【操魔素】によって「飛ぶ打撃」を習得した結果の事だろうけど、そうなってくると通常の[受託業者]よりもよっぽど強いという事になる。今後、今のような現場仕事(?)がより多く回ってくることだろう。


 そんな里奈は、主に同士討ちで怪我を負った[受託業者]に次々と【回復魔法】を掛けて回る。そんな彼女の肩の上には魔法少女ルックのハム美が居て、適宜[魔素力]の補充をしている模様。そのお陰もあって、里奈はテキパキと【回復魔法】を配り歩いている感じだ。


「ありがとうございます!」

「いえいえ、気を付けて下さいね」

「一生付いて行きます!」

「お断りします」


 などと言うやり取りを[受託業者]の面々と交わしている。中にはひざまずいて拝みにかかっているヤツもいる。これって、もしかしたら新しい里奈様崇拝に繋がるんじゃ……


(……聖女爆誕の瞬間なのだ!)


 聖女って降臨するんだろ、爆誕ってなんだよ。まぁイメージ的にはしっくりくるけど。


*********************


 怪我人の治療がひと段落したところで、北西側に進出していた[受託業者]集団は「中央慰霊塔」へ戻ることになった。時刻は10:55。作戦開始から1時間経過しており、補給輸送部隊が引き返して来る時間帯、つまり作戦終了時刻が近いことになる。


 移動中はこれと言ってモンスターの姿を見かけなかった。そのため、順調に霊園内を進み「中央慰霊塔」前のバス停へ到着する。この時点で既に、ほかの方面へ進出していた[受託業者]の一部がバス停に居た。その後も[受託業者]は三々五々といった感じで集まって来る。


「特段の被害はありませんか?」


 と呼びかけているのは里奈の同僚の水原さん。重傷者が居るならば、この後に戻って来る自衛隊のトラックに乗せることになっている。だが、見た感じ自力で動けないほどの怪我人は見られなかった。


「なんだか、今日はモンスターが少なかった」


 とは南西側に進出していた[受託業者]の話。同じ様な話が北東側の面々からもあった。それで、点呼したところ、南東側に進出した集団以外が戻っているが分かった。


 ちなみに、南東側は管理棟に最も近い場所で、自衛隊の補給輸送部隊の通り道も含まれている。昨日モンスターから急襲を受けた場所にも近い。そのためランクBが中心となって進出しているのだが、その方面の戻りが遅いということで、[管理機構]の面々は少し不安そうにしていた。


(ちょっと見て来るニャン!)


 その様子にハム美が偵察を買って出る。それで、ハム美が戻ってくるまでは待機となるのだが、この時間に俺は朱音からの抗議を受けることになった。


 勿論休憩所の戦いの後半、俺がいきなり2階から飛び降りた事に対してだ。後は「里奈さんとばっかり共闘しててずるい」という謎抗議も含まれていた。まぁ後半の謎抗議に対しては「適材適所だろ」という反論が口を衝き掛けるが、寸前のところで思い止まった。こういう場合は素直に「はい、はい、本当にすみません」と謝ったほうが話は早い(ただし「反省の色が見られない」と指摘を受けてしまうのは仕方がない)。


 と、ここで、予想に反してハム美が直ぐに戻って来た。


(トラックと他の人達ももうすぐそこニャン!)


 とのこと。そんなハム美の言葉通り、直ぐに自衛隊のトラック車列が姿を現した。周囲には徒歩(というより小走り)の[受託業者]の姿がある。中には[TM研]や[月下PT]の面々の姿も見えるが、全体的「戦闘直後」という雰囲気を醸している。


*********************


 諸橋班長(3尉)や[TM研][月下PT]の話によると、やはり車列は行きの霊園の東側外周道路で襲撃されたらしい。内容はゴブリンSHシャーマンを含むゴブリン集団、コボルトチーフを始めとしるメイズハウンド集団、オーク豚顔集団で、その数は100近かったらしい。


 ただ、タイミング良く南東側に進出していた[受託業者]集団が戦闘音に気付き加勢に入り、位置的にモンスター集団の後方を襲う格好となった。また、メイズハウンドの集団は浅い層相当の力で且つ【眷属強化】持ちのコボルトリーダーではなかった事や、オーク豚顔とコボルト・メイズハウンドの連携が全く取れていなかった事などが奏功し、なんとか切り抜けることが出来たとのこと。なにより赤鬣犬レッドメーンが居なかったことが大きいと思う。


 後はまぁ、聞いても居ないけど[月下PT]の月成凛が八面六臂はちめんろっぴの大活躍だったらしい(本人談)。


 その戦闘の後は、怪我人を収容しつつも補給作戦を続行。何とか管理棟に到着し、大勢で一気に物資をメイズ内に運び込んだとのこと。ちなみに、メイズの1層では重傷者の数が15人にまで増えた教導隊の一部が手ぐすねを引いて待っていたとのことだった。


 補給物資をメイズ内に降ろし、重傷者を収容した後の補給輸送部隊は[受託業者]の護衛を受けつつ、来た道を引き返すことになった。それで、「中央慰霊塔前」に到達した時点で、その他の[受託業者](俺達を含む集団)と合流し、そのままバス通りを通って太磨霊園の外へ出ることが出来た。


 この間、[受託業者]や自衛隊員の重傷者に対して、里奈が【回復魔法】を掛けて回る一コマがあった。ただ、一刻を争うほどの重傷者は(流石にポーション使うから)居なかった。だから俺はそんな里奈を、「まぁお節介な事を」と思いつつも見守ることになった。里奈の性格だと、変に止めると意固地になるだけ。それに、既に北西側の戦闘で存分に【回復魔法】を振るっているから、今更止めても仕方ないと思う。


 その結果、里奈は早速信仰心・・・とも呼べるような感謝と尊敬の念を一身に集めることになっていた。[受託業者]から一目置かれるのは[管理機構]としては仕事がやり易くなるだろう。でも、これって絶対面倒な展開になるやつだ……。


(しょうがないニャン、しばらくは里奈様のお供に戻るニャン)


 俺の妙な確信に対して、里奈に[魔素力]を提供し続けたハム美はそんな感じの返答だった。そうしてくれると助かる。


*********************


「皆さんのお陰で何とか任務完了でした!」


 とは、前衛拠点「府中免許センター」に到着した後の諸橋班長。ただ、駐車場には(怪我人の様子を撮りたい)報道陣がごった返して大変な事になっているので、会話が出来たのは免許センターの建物内でのことだ。そこには、


「ご協力感謝します!」


 と同じく声を掛けてくる人物がいた。


 この人物はメイズ教導隊の副隊長さんで名前を城崎さんいう。階級は3佐。40がらみの逞しいおじさんだ。出発時には居なかった人物だが、それもそのはず、今回の補給作戦時に重傷者と共にメイズの外に出て来た人だ。何やら外に用事があるらしい。その用事が何なのか迄は分からなかったが、


「[チーム岡本]さん、[TM研]さん、[月下刀葬PT]さん、良ければ皆さんのお話を少し聞かせて欲しい」


 ということ。随分と真剣な思い詰めた表情(睨んでいるような表情ともいう)で言うものだから、思わず気圧されてしまい、その要請を受け入れることになった。


 その結果、メイズ教導隊という自衛隊の対メイズ前線部隊の内情を知ることができた。その内容と言うのは……ちょっと気の毒になる話だった。

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