*太磨霊園レイドアタック⑧ タイマン!
ハム美の放った魔術は、大げさな名前に負けないほど、大きな威力があった。何もない空中に突如として出現した巨大なオレンジ色の火球は、その一瞬後には、眼前の2匹の
――ゴバァ!
という破裂音を発して、派手に爆発した。
ただ、爆発に伴って膨れ上がったオレンジ色の炎の大きさや、それが至近距離で炸裂したにも関わらず、あまり熱さを感じない。勿論、全く熱くないわけではなく、最近不精して伸びすぎた前髪がチリチリと焦げる程度の熱はある。しかし、常識的には間違いなく巻き込まれて大火傷をする状況にも関わらず、その程度で済んでいる。
「聖炎系の魔術は攻撃対象以外には余り影響しないニャン!」
エッヘン! とばかりに空中で胸を張るハム美。確かに、そうだろう。周囲にあった枯草や枯れ葉が白い煙を上げて燻っているが、大火事になる気配はない。一方、その火球を受けた方はというと、
「でも1匹は避けたニャン、コータ様、出番ニャン!」
とハム美が言う通り、2匹居た
「ハム太とハム美は後方の牽制を頼む!」
2人(匹)にそう言うと、俺は
「任せるのだ!」
「分かったニャン!」
その返事を背中で聞いて、俺は前へ集中。良く考えるまでもなく、
と、それはさて置き。さて、どうしたものか?
注意がこちらに向いていない状況ならば、【隠形行】の重ね掛けで効果時間を引き延ばしつつ、不意打ちで勝負を決めたいところ。しかし、実際には【隠形行】の効果は一度途切れている。
そのお陰で
ただ、正直に真正面からぶつかっても「勝てる気がしない」のが正直なところ。何か、
「っ!」
とここで、
元から、俺と
「くそ」
思わず焦ったような声が漏れてしまう。ただ、この俺の声に対して、
だったら、もう、これを利用するしかない。
そう決めた俺は「無理矢理距離を詰められた結果、相手のペースで戦いを強いられる弱者」を装う。その焦りを強調するように、正眼に構えた[幻光]の切っ先を徐々に下へと押し下げる。呼吸を目に見えて早くする。
対する
「く……そ……」
その威圧感に、俺はジリジリと後ろへ下がって見せつつ、(汗出ろ、汗出ろ)と内心で唱えている。すると、つぅと額から眉間に汗が流れた。それと殆ど同時に、後ろ足が木立の根本に当たって止まる。追い詰められて、焦りまくった上で、冷や汗が噴き出た人間の出来上がりだ。さぁ来い!
「ガウゥ!」
そんな俺の様子に、まるで勝利を確信したような唸り声を上げ、
ただ、この見え透いた攻撃こそが、俺の待ち望んだ好機だったりする。
「っ!」
瞬間突き出す左手から、水流が
対する俺は、斜め右に飛び込むように身体を投げ出すと、出来損ないの前回り受け身の要領で地面を転がる。そして、立ち上がると同時に【能力値変換】「4分の1回し」を発動。[敏捷]を嵩上げした状態で、斜め後方から一気に間合いを詰めつつ[幻光]を真横に一閃。
――ピッ
と切っ先が風を切る音を生み、次いで持ち手に手応えを生む。結果として[幻光]の切っ先は
「ウガァ!」
予想外の攻撃を受けた
メイズハウンドなど比べ物にならないほど大きな体は、当然の如く重量も比較にならない。その体格を打撃力に変え、打ち据え、押し倒し、必殺の牙を叩き込む連続攻撃。その口火を切る打撃を
だが、俺は敢えてその打撃に対して、低い姿勢から伸びあがる様にして立ち向かう。
勿論、蛮勇や
「いやぁ!」
振り下ろされる前脚に対して、下から掬い上げるように[幻光]を振るう。と同時に「[敏捷]の半分を[技巧]に、[理力]と[抵抗]の半分を[力]に」と念じて【能力値変換】を発動。結果、
――ガキィ
[幻光]の刃が
この瞬間、
――ズヴァン!
と破裂音を発生させ、
*********************
当時のUSAカタナソード[時雨]ではなく、本格的な日本刀、しかもハム太の【鑑定(省)】によると謎表示「Lv2」という事になっている太刀[幻光]のお陰……まぁ、俺としては[小金井メイズ]の最深層まで踏破した努力の成果だとも思いたい。だから「両方相混ざった結果」という事にしておこう。
それにしても、今回3度目の対戦だった
とてもではないが、自ら進んで1対1で戦いたい相手ではない。今回は相手の心理につけこんで、結果的に無傷で勝ったが、その内容は、
「危なっかしいのだ!」
「はらはらしたニャン!」
「心臓に悪いわよ」
と、指摘されるような内容だった。……ってか、なんで里奈まで外に出ているんだ?
「飛び降りて来たのだ!」
「里奈様、積極的ニャン」
なんだそりゃ?
「2階から打撃を飛ばすのがまどろっこしくて――」
結局、後方から迫っていた
「里奈様、スキルジェムを拾ったのだ」
「【回復魔法:下級】ニャン!」
しかも、ちゃっかりとスキルジェムを拾得している模様。
「コータ、これ、いる?」
里奈は(多分俺のジト目視線のせいで)少し取り繕うように、スキルジェムを差し出して来る。でも、それは、
「里奈が使えば良いんじゃない?」
と思う。まぁ、里奈の立場的にこれから
「回復手段を持ってもらったら、俺も安心だ」
と言う。妙に思っていることが素直に口を衝いた。ただ、言ってしまってから、自分がなんだか恥ずかしい事を言ったような気になるのは何故? あと、里奈まで顔が赤くなるのは何故?
「こ、コータがそう言うんじゃ、仕方ないわね!」
結局、里奈はそんな言い訳をしながら【回復魔法:下級】を習得した。ちなみに、【回復魔法】の活躍はこの後直ぐ!
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