*太磨霊園レイドアタック③ 中央慰霊塔前の戦い
*五十嵐里奈視点*************
残りのメイズハウンドは6匹。しかし、直ぐに大島さんが1匹仕留めて残り5匹となる。流石にハム美の[仮スキル付与]の効果が出ているらしく、大島さんも水原さんもここ3日間で一番動きが良い。ただ、そんな2人の動きを追い続ける余裕までは無いので、私は再び前方に集中する。
目の前には3匹。先程の攻撃を見た結果なのか、飛び掛かって来ることを躊躇している風。だったら、こちらから仕掛けに出る。ということで、魔素を意識して、再度それを「六尺棒」の先端付近に纏わりつかせつつ、素早く距離を詰める。【身体機能強化(仮)】の恩恵か、3歩分を一瞬で詰めて、攻撃範囲にモンスターを捉える。
この時点で、メイズハウンドは
無防備な腹を下から打ち上げた結果、2匹ともが見事に悲惨な状態になる。
「……うぇ」
【操魔素】で魔素を操り打撃力を強化する戦い方は、威力充分で良いのだが、充分過ぎてしばらくお肉が食べられない心境になる。まぁ、ダイエットには良いか? 別に肥満を気にする必要は無いけども、確かにここ数日でズボン(と、ついでにブラも)が少し緩くなった気がする。
「ガウォッ!」
とここで、一旦飛び退いていた1匹が、攻撃直後を狙って突進してきた。結果的に見て、「連携を取った」ということだろう。流石にメイズハウンドも9層相当になるとちょっとは頭を使うらしい。ただ、攻撃直後に隙が出来るのは普通の武器での話。私の持つ「六尺棒」とこれを使う五十嵐
「鋭っ!」
先の攻撃で
「――ん?」
棒の先端が大口を開けたメイズハウンドの顔面を捉える間際、予想外の事が起こる。先端へ移動させた魔素のオーラが、そのまま棒の先へ飛び出し、先にメイズハウンドの顔面を打ったのだ。
「ギャインッ!」
結果、魔素の塊に打たれたメイズハウンドは長い鼻先から頭部の上半分を押し砕かれて、地面に落下する時には既に
(……里奈様、画期的な戦い方ニャン! これは、センスニャン! 才能ニャン!)
しばらく黙っていたハム美が頭の中で大騒ぎを始める。褒めてくれているのだろうけど、正直、ちょっと
(今のは、コータ様の「飛ぶ斬撃」の打撃バージョンニャン! 本来、戦技スキルの恩恵と魔素外套による身体能力向上の恩恵が合わさって、空間に満ちた魔素を媒体として対象に影響を与える「飛ぶ」系統の攻撃が、その前提を無視して使えているニャン!)
わかったから、後で聞くから、まだ2匹残って……
「うらぁ!」
「よいさぁ!」
と、タイミング良く、この時点で大島さんと水原さんが
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【操魔素】によって魔素を操り、その力を攻撃に上乗せする。原理的には防御にも使える技術だ。
この方法を思い付いたのは、長く苦しい修行の成果、などと言うことではない。切っ掛けは25日の「小金井メイズ救出作戦」だった。
その前日の24日に【操魔素】を習得した私だが、一晩経った翌日25日には、何故か魔素を視覚的に捉えることが出来るようになっていた。勿論、意識して「視よう」と思わないと見れないのだが、裏を返せば「視よう」と思えば見れる状態になっていた。
25日の時は、私は完全に後方に居たので直接戦闘に参加機会は無かった。ただ、その間「視る」という意識を持って戦闘場面に注視すると、そこには不思議な光景が広がっていた。
例えば朱音ちゃんが【強化魔法】を使うと、周囲に漂っていた魔素が急速にコータ達の元に集まり、まるで身体に吸収されるようになった。
飯田君の魔法は、身体から噴き出した魔素が黒いオーラとなって、指し示す先に渦巻く風を作り出した。でも、私の目には風ではなく渦巻く黒い霧が見えていた。
また、[群狼第1PT]のリーダーがスキルを使った時などは、黒い霧が集まり過ぎて一瞬視界がブラックアウトした。
そしてコータが【能力値変換】を使った時は、彼の姿が黒い霧に溶け込んだように見えて焦ったものだ。ただ、一瞬後に身体の輪郭を取り戻したコータが放った「飛ぶ斬撃」は、その後に目撃した
また「魔素を視る」ということは、そんなスキルの作用以外にも、各人の持ち物に対しても効果を発揮した。例えばコータが持つ大輝の形見の太刀[幻光]や、月成凛が持つ西洋風の剣には、常に黒い魔素がオーラのように纏わり付いているように見えた。
つまり、私は【操魔素】のお陰でスキル、というよりも、それが影響を及ぼす魔素の存在を視ることが出来るようになっていた。
その状態で始まった[太磨霊園メイズ]への補給輸送作戦。この作戦はなぜか[管理機構]が[受託業者]を指揮して行うことになったが、その現場指揮(係長)役を言い渡された私は、やむを得ず、この「魔素を見る力」と【操魔素】による「魔素を操る力」を駆使してモンスターと戦うことになった。
特に初日28日は、[受託業者]側にメイズの外で戦うという「慣れ」が無く、その結果、方々の戦闘でヘルプ要請が掛かった。その戦いの中で「魔素を武器に纏わりつかせる」という発想に至ったのだが、それは月成凛やコータが持つ剣や太刀の様子と、あとは朱音ちゃんが使った【強化魔法】の様子を参考にした、という訳だ。
結果として、ハム太とハム美が言うように[修練値]が上がった。決して、コータが邪推するような、自分から戦闘を求めていた訳じゃない、と思う。
(苦労したニャン)
いや、そういう風に言われるのもちょっと違うと思うけど……まぁ、苦労したといえば苦労した。如何に大島さん達が装備を整えたといっても突然強くなったりするわけじゃない。結局、魔素を纏わせる事による威力強化が無ければ、危ない場面は幾つもあったのだから。
(でも、その方法って私が使う[魔術]の根本原理に近いニャン)
そんな風に言い出すハム美の言葉にしばし耳(というか意識)を傾ける。一応、現在の状況は、周囲にモンスターの姿もなく、ヘルプ要請の連絡も掛かって来ていない。少しくらいなら注意を他へ向けても大丈夫だろう。
それでハム美が言うには、私の「魔素を視る」「魔素を操る」という行為を「魔力」という風に置き換えて考えると、それは
もっとも、ハム美が居たという世界(この時点で謎だけど、これは後でコータからしっかり説明してもらうつもりだ)に遍在していた魔力という力は、私達の世界には存在しない。ただ、それとよく似た「魔素」という力がメイズを通じて世界に生まれつつある、という状況らしい。だから、
(里奈様、この世界で初の魔術師になれるニャン)
素直に喜んで良いのかどうか……ちょっと微妙な太鼓判を押されてしまった。
とここで、
「係長、自衛隊の車列が見えました!」
と大島さんの声で我に返る。指し示す方を見ると、中央バス通りを徐行しながらこちらに向かってくる、オリーブドラブ色の装甲車の列が見えてきた。
「念のため、各方面に電話連絡してください」
私はそう伝えつつ、再び周囲に気を配る。ハム美も、
(索敵ニャン、お任せニャン!)
ということで、私の頭上へ舞い上がって行った。ちなみにハム美は[
「なんだって! わかった!」
公衆電話に取り付いていた大島さんが、不意に大声を上げた。
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