*8話 報道陣


 作戦開始迄の約30分間、俺達は目一杯「話し掛けてくるな」オーラを出しながら、各自の装備を確認する。その間、春奈ちゃん達[TM研]は、先程情報収集に歩き回った反動からか、[受託業者同業者]に次々と話しかけられて難儀をしている様子。コミュ力高めが仇になった感じだ。一方、月成凛つきなりりん以下[月下PT]の面々に敢えて話し掛ける人は……まぁ、居なかった。


 装備の方は殆ど変更点が無い。精々、岡本さんのポリカ盾が新品になって、朱音がリカーブボウ用のブロードヘッドを大量に新調した程度。


 ちなみに岡本さんのポリカ盾は、飯田の実家「飯田金属」が次の新製品として売り出す予定をしていた大型長方形のポリカ盾だ。これまでの品は防犯グッズの域を出ない堅牢性に劣る面があったため、その点を改良補強した品だという。ただ、頑丈にし過ぎたせいで既存の「催涙スプレー改造キット」では改造が難しく、そのため、無改造のタダの盾・・・・状態の品になっている。


 一方、俺が[小金井メイズ]内で思い付いて、飯田に頼んでいた「やぐら」については、流石に準備が間に合わなかった。年末休みで従業員職人さんが居ない、のではなく、別の仕事に追われていたという事。実は、飯田金属はちょっと前から[MP-LL-Pro1]、つまり軽装タイプ防具の増産に追われていたからだ。


 なんでも、少し前の[荒川運動公園メイズ]の初期調査で、里奈達[管理機構]が碌な装備をしていなかった点に目を付けた飯田が、量産指示(といってもたかが知れているが)を出していたとのこと。それで、出来上がった品は飯田のお父さん(飯田金属の社長さん)が[管理機構]に売り込みを掛けたらしい。現在は「お試し期間」として無償貸与で10セットほど貸し出しているようだが、反応は良いとのことだ。また、現在の状況を受けて、[受託業者]からの新規受注も増加傾向だということだから、順調で何よりだと思う。


 それで、飯田金属が[管理機構]に無償貸与したという装備だが、しっかりと現場に行き渡っている模様。というのも、


「里奈……お前、その恰好は?」

「これ? 似合うでしょ」

「いや、そうじゃなくって……」


 準備を整えて運転免許センターのロビーへ出たところで出くわした・・・・・里奈は、飯田金属製の[MP-LL-Pro1]をきっちりと装備していた。濃いブルーの政府職員用冬季作業服と「内閣府」と書かれた桐紋付きの安全ヘルメットに、マットなダークグレーのCFRP装甲を持つ四肢用防具の組み合わせは、お世辞にも似合うとは言えない。でも、問題はそこじゃない。


「まさか……同行するの?」

「そうよ、今日で3日目よ」

「マジか……」


 [管理機構]ってマジで何を考えているんだろう? 本気で中の人・・・を問いただしたい気が……いや、止めておこう。多分暴力沙汰になる。


「なによコータ、怖い顔して」

「いや、だって」

「まぁ、自衛隊、というか防衛省ね。それと警察関連と管理機構のバランス取りよ」

「でも、なんで里奈が」

「私以外にも管理機構から3人来ているし、別に先頭に立ってモンスターと戦う訳じゃないわ」


(その割には、里奈様の修練値――)

(結構上がっているニャン)


 やっぱりね。そうだろうと思った。


「なによ?」

「――先頭に立って戦ってるだろ?」

「……悪い?」

豪志ごうし先生が心配していた」

「育て方を間違った、ってのでしょ。聞いてるわよ」


 ダメだこりゃ……ハム美さ~ん、出番ですよ。


(は~い、里奈様にくっついていくニャン?)


 それでお願いします。ということで、普通に戦闘もこなしている風な里奈に、ハム美を同行させることにした。


 そして程なく、作戦開始時刻となる。ただ、この後、実際に作戦行動に入る前の段階で結構な悶着があった。相手は……マスコミ各社だ。


*********************


「中の状況はどうなっているんですか?」

「まだ逃げ遅れた人が居るという情報は本当ですか?」

「自衛隊は園内で武器を使用しているのですか?」

「この状況はいつ終わると思いますか?」

「怪我人が出たりするのですか?」

「住宅地の近くで自衛隊が武器を使うことをどう思われますか?」


 まぁうるさいこと煩いこと……まさに五月の蠅と書いて「五月蠅うるさい」。今は12月だけど、まぁ、読んで字のごとくな連中だ。


 運転免許センターの正面玄関は駐車場に面しており、その先に東七道路、さらに道路を挟んで反対側が霊園の北正門という配置。今朝到着した時は駐車場に各報道機関の車がバラバラに駐車していたが、今は整理されている。丁度、正面玄関から見て右側に自衛隊の輸送補給部隊の車両があり、その反対の左側に非常線が張られ、内側に報道陣がひしめいている格好だ。


 ざっと見たところ200人以上は居そうな感じ。その内、正面玄関に近い側では何かしらの声を拾おうとマイクを向け、容赦なくフラッシュを焚いてシャッターを押すカメラの面々が、非常線を押し破る勢いで迫って来る。現に一部の人間はテープだけの非常線を跨いでしまっている。一方、少し離れた場所では駐車する自衛隊車両を背景にレポーターが中継を始めている。チラチラとこちらに視線を向けつつ、何かをまくし立てている様子だ。


 なんだか、重大犯罪の犯人が警察署から拘置所に移送される場面のようだ。テレビの画面で見た覚えのある光景だが、まさか自分が被写体の一部になるとは思わなかった。


「うるっせーな」

「ほんとですね」


 などと言い合う岡本さんや相川君の声が妙に遠い。他の[受託業者]の面々の反応も様々だ。鬱陶しそうに顔をそむける人もいれば、カメラに向かってピースサインをするノリな連中もいる。ただ、その内多くのカメラが俺達の方を向いている事に気が付いた。


「なんだか、撮られている感が」と朱音。

「するわね」と里奈。

「微妙です」と春奈ちゃん。

「嫌ですね」と小夏ちゃん。


 特に女性陣は向けられたカメラ越しの視線に居心地が悪そう。平気そうにしているのは[月下PT]の月成凛つきなりりんやポニテ美人(神谷さん)くらいだ。寧ろカメラに向かって挑むような視線を向けている。


「それでは、行動開始をお願いします!」


 騒々しい状況。しかも不愉快にカメラを向けられる状況だが、そうはいっても、状況を進行させなければらならない立場の里奈は、[受託業者]達に呼びかける。すると、一斉にシャッターが下りてフラッシュが焚かれた。お陰で里奈はすっかりしかめっ面・・・・になってしまう。


「報道の方は下がって!」

「邪魔しないで!」

「下がりなさい!」


 とここで、ようやく警備に回っていた警察官の制止が入る。このタイミング、わざとなんじゃないか? と勘繰りたくなるほど、勿体もったい付けた登場だった。


「昨日はこんな事なかったのにな」

「今日は賑やかだな」

「昨日自衛隊に負傷者が出たからか?」

「さぁ……あの女の子たちの絵が欲しかったのかもな」

「なるほど」


 そんな風に言い合う見ず知らずの[受託業者]の声が聞こえて来た。ああ、そういう事かもしれない、と思った。多分正解だろう。


――困難な状況に率先して立ち向かう凛々しい女性達――

――女性が輝ける[受託業者メイズ・ウォーカー]――

――メイズはちゃんと管理すれば危険な物ではございません――


 と言ったところなんだろう。なんだかなぁ……。

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