*6話 色々な思惑
待機場所として案内された講義室には、その後も続々と[
これで、一昨日の「小金井メイズ消滅作戦」に関与したユニオン・PTの内、3PTが(性懲りもなく)「太磨霊園メイズ消滅作戦」の現場にやって来たことになる。
「あっ、みなさん、おはようございます!」
俺達の姿を見つけた[TM研]の面々はリーダーの春奈ちゃんを筆頭に元気な挨拶を投げ掛けて来た。そんな彼女達に挨拶を返しつつ、その後は[チーム岡本]、[TM研]、[月下PT]が近くの席に固まって座り、次の行動を待つことになる。
運転免許センターの講義室はそこそこ広い。机と椅子の数から見て、定員は100人以上といったところ。その中にこの時点で120人以上の人が居る。一時期やたらと言われていた「密」な状態だ。だから、グループで固まるといっても、当然グループ間の距離は近くなる。距離が近くなれば、お互いグループ内で話している会話の内容も自然と聞こえてくる。
それで、丁度隣に居るグループの会話に聴き耳を立てると、
「3日目だからそろそろスキルジェムを出したい」とか
「○○PTが○○の場所で『剣』のドロップを出した、何かスキルが付いているらしい」とか
「霊園の南西側でレッドメーンに遭遇した、死ぬかと思った」や
「いや、昨日は東側で補給部隊を襲ったモンスターの中に居たって聞いたぞ」
などといった内容を喋っている。どうも、
他には「○○の女子アナが可愛い」とか「やっぱり管理機構の里奈ちゃん推しだ」とか「ランクってどうやったら上がるんだ?」とか、そんな(一部聞捨てならない)会話もある。
「私達、ちょっと情報収集してきますね」
とは春奈ちゃん以下の[TM研]メンバー。流石現役大学生、コミュ力が高そうで頼りになる。それで、室内に散らばっていく[TM研]の面々を見送ると、後はやることが無いので、自然と会話は[月下PT]を相手に、話題は一昨日の[小金井メイズ]15層の話になった。
15層で分断罠にかかった後、反対側に進んだ面々の話は、その後の脱出局面でざっくりとしか聞いていなかった。だから、俺達とは反対側で、直接的にメイズを消滅させた経緯を聞いておきたい、という事だ。
「よろしいですわ、聞かせて差し上げましょう」
口調が
*********************
「――というわけで、どうにか最奥の
というのが
それで、肝心の[
それで、気になって【収納空間】持ちの
(魔坑核は【収納空間】で持ち去られたのだ)
(クレバーなスキルの使い方ニャン!)
ということだ。ただ、どうして[
[
と、ここまで考えて、疑問に思うのは「何のために?」というもの。俺なら……宝石店や銀行からこっそり金目の物を頂戴して、後は……グフっ、グヘヘ……。
(嘆かわしいのだ!)
(性根が腐っているニャン!)
腹黒い2人(匹)から不当な非難を受けてムッとする。想像しただけなのに、そこまで言われる筋合いはないと思う。想像だけなら、同じ様なことを想像する人間は何も俺に限った話じゃないはずだ。多分、そうに違いない。
「何かおかしな事がありまして?」
一方、話し終えた月成凛はそんな俺を不思議そうに見ながら問いかけて来た。
「え? い、いや、何でもない」
それで慌ててそう返事をするのだが、そこに岡本さんが低い声で割り込んで来た。
「コータ、月成さんも、その話は止めておこう」
どうして? と思う。しかし、直ぐに事情が分かった。周囲に居た別の[受託業者]のグループがあまり友好的とは言えない視線を此方へ向けていたからだ。
「なんだよ、あいつら?」
「小金井メイズから来たのか?」
「馬鹿言うなよ、ハッタリだ」
「小金井の方は赤竜群狼の主力が行ったって聞いたぞ」
「ちっ、女連れで調子に乗りやがって」
え? なんで? と思うが、漏れ聞こえてくるコソコソ声はそんな感じ。う~ん、多分月成の声が大きいからこうなったんだな……そういう事にしておこう。
「なんですの? 失礼な方た――ウグゥ」
見ると、目の前では反発するような発言をポニテ美人(神谷さん)に遮られた月成凛が「フゴフゴ」と言葉の続きを呻っている。喋らなければ美人だと思っていた月成凛だが、神谷さんに両手で口を塞がれて藻掻いているさまは、少しコミカルな感じだった。
ただ、神谷さんが月成凛を押さえたお陰で、余計なトラブルに発展することは無かった。月成と一緒に居ると、この手のトラブルは付き物なのかもしれない。そう思うと、[月下PT]の面々には妙な同情心が湧いてくる。
その後、情報収集に散っていた[TM研]の面々が戻って来て、聴き取った内容を報せてくれた。春奈ちゃん達曰く、
「こっちでは[受託業者]が補給路確保をやってるみたいですね」
「霊園内のバス通りをメインに、南の管理棟まで、補給部隊を護衛するみたいです」
「大体、いつも11時頃に自衛隊の補給部隊が出発する。それを護衛するみたいだ」
「昨日もマスコミはちらほら居たらしいけど、今朝は一気に増えたって言っていた」
ということ。なるほど、と思う。「小金井メイズ」が[受託業者]によって消滅させられたから、
と、ここで、
「皆さん、おはようございます! 本日もよろしくお願いいたします」
講義室の入口付近から、聞き慣れた女性の声が響く。明らかに通りが良い、武道で鍛えた発声の持ち主は……五十嵐里奈だった。まったく、いいタイミングで登場するものだと思う。
「適当に席にお着き下さい。それでは、先ず始めに今日初参加の[受託業者]の方にランクカードをお渡ししますので、前の方へお越し願います!」
そう言う里奈は、明らかに俺達の方へ視線を向けて、ほんの一瞬だけ「ニッ」と笑った。それで、今まで俺と月成のやり取りでは黙って聞いていただけだった朱音が、「はぁ」とため息を一つ。
「作戦開始まで時間がありませんので――」
言外に「早く取りに来い」と言う里奈の言葉で、[チーム岡本][TM研][月下PT]の面々が、講義室正面のスクリーンの方へ向かう。
「ご苦労様」
「そっちこそ、お疲れ様だな」
[ランクカード]という初耳のカードを受け取る際、俺と里奈はそんな短い言葉を交わした。それで受け取ったカードには「受託業者ランク:Aグレード」と書かれていたのだが……それを持って元の席へ戻る途中、盗み見した連中がザワついていた。
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