*メイズ消滅作戦⑳ 15層、予想外の罠


 時刻は15:30過ぎ。本日2度目の14層掃討クリアを終えた俺達は、その足で15層へ向かった。


 15層に出現すると思われる赤鬣犬レッドメーンの特徴と注意すべき【幻覚スキル】は既に全員に伝えてある。ただ、出現するモンスターは赤鬣犬レッドメーンだけに限られる訳ではない。全部が17~18層相当・・・・・・・・の強力なモンスターという事になる。油断できる要素は一切ない。


 ただ、14層を2回(昨日を入れると合計3回)こなした結果、俺達の[修練値]は平均で720前後まで上がっている。多少高い低いの差が出ているが、特に[DOTユニオン]や[月下PT]で言えば、平均値は760を越えている。14層までの最大値が800だと思われるので、これは現時点でベストな数字のはずだ。


 ということで、ゾロゾロと列になって15層へ降りる。順番は[DOT]・[赤竜・群狼]・[CMB]・[月下]の順だ。


 15層へ降りて直ぐは、予想に反して幅6mの普通の通路だった。少し進んだ先で右側へ直角に折れている。この時点ではハム太もハム美も


(モンスターの気配を感じないのだ)

(探知距離30mニャン)


 とのこと。そのため、[DOTユニオン]は曲がり角の先を確かめるべく前進する。


「また通路か」と加賀野さん。

「これまでと感じが違いますね」と春奈ちゃん。

「でも先の方は開けた場所みたいだ」と岡本さん。


 3人のPTリーダーが角の先を確かめてそんな言葉を交わす。そして誰とは無く「もう少し進んでみよう」という事になった。


 角の先の通路は20mほど。確かに、その先はぼんやりとしていて分かりにくいが、広間のようになっている感じだ。モンスターが居るのはあの辺りだろう。多分、全員がそう考えて、前方に意識を向けていた。そして[DOTユニオン]はひと塊になって通路を進む。


 異変はこの時に起こった。丁度全員が通路の中ほどに差し掛かった瞬間、背後から、


――ドオオオンンッ


 と地鳴りのような轟音が響いた。


「なんだ!」


 慌てて後ろを振り返る。しかし、そこにはこれまで歩いて来た通路は無く、代わりに元からそこに在ったような壁が出来上がっていた。早い話、退路が突然壁で塞がれた格好だ。


「通路が!」

「罠か?」

「マジかよ!」


 誰が発したか分からない驚きの声。俺も驚いた。しかも、


(小規模メイズにワニャ?)

(聞いた事ないのだ!)


 リュックの中の2人(匹)も驚いている。いや、頼むからお前等は驚くな。不安になるからやめてくれ。


 しかも、異変はこれで終わらない。地鳴りのような音に反応したのか、先の広間でメイズハウンドの【遠吠え】が起こったのだ。


「ちっ」

「来ますね!」

「先に進んで飯田君の!」

「わっわかりま――」


 その後、俺達は残りの通路を駆けて進み、広間への出口付近で[飯田式即席要塞]を形成しようと試みる。だが、タッチの差でモンスターの方が、動きが早かった。広間から15匹前後のメイズハウンドが通路に飛び込んで来る。しかもその後続には例の【眷属強化】持ちのコボルトリーダーが2匹、そして、ゴブリンナイトやゴブリンSHシャーマンの姿も見える。


「仕方ない、通路で戦うぞ!」


 岡本さんの声に、他の盾持ち組が応じる。こうして、15層の戦闘は罠で浮足立ったところを急襲される格好で始まった。


*********************


 序盤、15匹からなるメイズハウンドが見事な連携でヒットアンドアウェイを繰り返し、こちらの盾持ちを翻弄した。しかも、このメイズハウンド、14層までと比較して身体がひと回り近く大きい。そのため、自ずと攻撃力も高いのか、岡本さんを始めとした前衛盾持ちはヒットアウンドアウェイの波状攻撃に防戦一方になる。


 ただ、この時点で通路内に入り込んで戦闘を繰り広げているのはメイズハウンドのみ。この状況を冷静に読み取った飯田が、


「ぶぶっ分断しましゅ!」


 と声を発し【生成:障害物】スキルを発動。広間への入口・・・・・・に障害物を出現させ、後続のモンスターとメイズハウンドを分断した。


「押し返すぞ!」


 と加賀野さんの号令。それに応じて俺を含めた近接組が盾組の前へ飛び出す。15匹のメイズハウンドと俺を含めた5人の近接組が通路で乱戦を繰り広げる。その結果、何とか15匹のメイズハウンドを斃し切ることが出来た。途中から岡本さんの【挑発】や小夏ちゃんの【土属性魔法】が牽制として効果を発揮した結果だ。しかし、乱戦の中で加賀野さんと上田君、そして盾持ちの毛塚さんが咬み付き攻撃を受けて結構深い傷を負った。しかも、


――ドォォンッ! ドォォォンッ!


 広間の入口を塞いだ障害物は、少し前から轟音を響かせている。どうも、反対側からモンスター達が障害物を破壊しようとしている様子。この状況に、負傷した3人が慌てて[回復薬]ポーションを摂取する。ひと段落する間は無さそうだ。


「ももっもちままっせん!」


 コンクリ風の障害物に大きな亀裂が走り、飯田が声を発する。


「飯田、障害物が崩れたら【飯田ファイヤー】で先制を、朱音も頼む!」


 俺は飯田と朱音にそう言うと、タイミングを計って【能力値変換】を発動。「飛ぶ斬撃」の準備を整える。そして、俺の準備が整うのとほぼ同時に、コンクリ風の障害物が崩壊。その向こうには大きな戦槌ウォーハンマーを持つ豚顔オークが2匹とコボルトチーフ2匹。その更に奥にはゴブリンアーチャー、ゴブリンSHシャーマン、それに初登場だろう大きな弓を構えた豚顔Aオークアーチャーの姿があった。


 どうやら、向こうモンスター側も考えている事は同じの様子。障害物が崩壊した直後に遠距離攻撃を叩き込むつもり・・・のようだ。だったら、早い者勝ちだ。


――ズバァンッ!


 俺は八相に付けた太刀[幻光]をそのまま斜めに斬り下ろす軌道で振り抜く。ギラリと鈍く、しかし妖艶に光る刃から不可視の斬撃が飛び出し、それが通路を疾走はしる。


「グオォォンッ!」

「フギィィツ!」


 まず、正面に立っていたコボルトチーフと豚鼻オークの悲鳴が上がる。それでも俺は休まずに、立て続けに、縦横に、[幻光]を振るう。飛ぶ斬撃が全部で5回、モンスターを襲った。しかも、斬撃と斬撃の合間には後衛遠距離組の放つ矢が降り注ぎ、更に【飯田ファイヤー:火柱バージョン】が、奥のゴブリンAや豚鼻Aを焼く。


 障害物崩壊後の遠距離攻撃合戦は、どうやら俺の「飛ぶ斬撃」が機先を制したことにより、有利に進んだ。ただ、こちら側も全く無傷という訳ではない。見れば、飯田がゴブリンSHの【土属性魔法】を受けて顔面を腫らしているし、古川さんや小夏ちゃんはゴブリンAの矢を受けて負傷している。そして俺も、


「コータ先輩!」


 朱音が駆け寄って来る。まぁ、理由は俺の左太腿を射抜いてしまった豚鼻Aの矢なんだろう。痛いというよりも熱い、そんな感じと、後は左足全体が痺れた感じがする。


「大丈夫だ」


 と朱音に答えるが、正直なところ、どうしていいのか分からない。抜くといっても、鏃が反対側に飛び出しているから、無理そうだ。まいったな……


(途中で折って、引き抜くのだ)

(やるなら今の内ニャン、時間を置くと痛いだけニャン)


 あっそう……他人事だと思ってるね、君達。


(そ、そんな事ないのだ。ちゃんと【回復(省)】を掛けるのだ!)

(私の[止血術ヘイモスタッド]は痛みを和らげる効果があるニャン! 勿論掛けるニャン)


 という事で、2人(匹)の協力を得て、太腿を貫通した矢を処理する。確かにハム美の魔術[止血術]の効果か、気色悪いほど痛みが少ない。ただ、自分の足に生えた矢を折って引き抜くのは、何と言うか良い気持ちがしない。そのため、先ずは折ろうとした手が止まってしまう。すると、朱音が決心したように、


「コータ先輩、私が!」


 と申し出てくれた。でも、いや、いいって、自分で出来るってぇ!


――バキッ


「ぎゃぁ、ああっ!」


 流石に痛かった。バキッと矢を折った衝撃が骨に響いてゾッとする苦痛になる。思わず失禁しそうになった。しかも、朱音は、


「いま楽になります!」


 と歯を食いしばった表情で刺さったままの矢を一気に引き抜いた。


「ぎょおぉぉ!」


 自分でも変な悲鳴になったのが分かる。しかも、引き抜いた瞬間溢れ出た血で朱音まで血塗れ。その状態で、


「やったぁ!」


 と言っているから、少し怖い。


 ちなみにこの傷はハム太の【回復(省)】の重ね掛けと[回復薬:小]で綺麗に治りました。


*********************


 俺と朱音がドタバタしている最中、岡本さんを始めとする盾組と無傷な近接組、遠距離組は通路を前進して、広間への入口に防衛線を築いていた。そこで、残りのモンスターとの戦闘に突入した。この時点でメイズハウンド10匹前後とコボルトリーダー1匹、それにゴブリンKが3匹残っていたらしい。


 ただ、一番厄介なコボルトリーダーを岡本さんが真っ先に【挑発】でおびき寄せて、それを全員で仕留めた結果、残りのモンスターは目立った連携が取れなくなったようだ。しかも春奈ちゃんの【弱化魔法:下級】が一発でゴブリンKに決まったため、戦いは有利に進んだ。


 そして、俺(と朱音)や飯田、古川さん、小夏ちゃんといった負傷組が治療を終えて合流し、【飯田ファイヤー:火の玉バージョン】と朱音の風属性矢が決め手となって、残ったモンスターは全て討伐されることになった。


 その結果、20m四方ほどの広間にはアクティブなモンスターの姿は見えず、隅の方に大型スライムが数匹蠢いているだけとなった。ただ、今はアレの相手をする時間じゃない。というのも、広間の壁の一部がポッカリと口を開けて、先に続く通路になっているからだ。感じとしては3部屋続きだった10層に似ている。


「どうする?」

「進みますか?」

「そうだな」


 という会話。因みに通路を塞ぐ罠に驚いていたリュックの中の2人(匹)も、


(この手の罠は、先に進めば解除ボタンがあるのだ)

(分断系の罠は、大体そんな感じニャン)


 と言う意見。小規模メイズに罠があるのは予想外だったが、中規模メイズの深い層には同じような罠があるらしい。「通路分断系」「落とし穴系」「無限ループ系」後は「高速リスポーン部屋」という罠が多いらしい。


 結局、この場に留まっていても仕方がないので[DOTユニオン]は前方に見えている通路を目指して進む。そして、その奥でこのメイズの真打とも呼べるモンスターと遭遇した。


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