*メイズ消滅作戦⑨ 10層3連戦、終盤戦のMPK?


 その時、俺達[DOTユニオン]と[月下PT]の一部は10層2つ目の大広間に散乱したドロップを回収しつつ、分配をどうするか? について軽く話し合っていた。分配については[DOTユニオン]内部での分配ではなく、[月下PT]との分配だ。その話合いの相手になったのは、日本刀装備のクールガイ。ただ、驚いた事に、


「迷惑を掛けた上に助けて頂いたので、ドロップは要りません」


 と、とてもジェントルで常識的(というか、謙虚)なご意見だった。PTリーダーがあんなの・・・・だから、メンバーもそんな感じ・・・・・だと勝手に決めつけていたけど、随分と話が分かる。なんだか好感すら湧いてくる。


「私達、別にお金に困っていませんので」


 そう口を挟んで来たのは西洋剣装備のポニーテール美女。好感が湧いてくる件は横に放り投げるとして、理由はともかく、くれるというのだから有難く頂戴する。そんな感じになっていた。


「でも、そちらのリーダーはそれで良いの?」と春奈ちゃん。一応の念押し。

「ああ、りんは戦闘にしか興味がないから」とクールガイ。身も蓋も無い。

「……大変だな」と岡本さん。しみじみと言う。

「古い付き合いですから」とポニテ美女。あきらめ気味。

「嫌になったら、ウチに来いよ」と久島さん。ニッと笑う。


「はぁ……」

「ええ…‥」


 結局はクールガイとポニテ美女は返事を濁した。[月下PT]の結束が心配になる。


 これは後からこの2人に聞いた話だが、[月下PT]の普段の活動では、俺達[DOTユニオン]が見せたような連携や作戦、役割分担といったものが無いらしい。とにかくスキルに任せて正面からぶつかって相手を打ち倒す、というのが彼等の戦闘スタイルだという事だ。それで10層まで到達できるのだから、逆に凄いな、と思ったものだ。


 まぁ、その話はさて置き、


「そういえば、おたくらのリーダーは?」

「あれ? そういえば……」

「居ないわ、あん恭介きょうすけ竜太郎りゅうたろうも」


 毛塚さんの問いで、クールガイとポニテ美女は月成凛リーダー以下数人のメンバーの姿が見えないことに気付いた。それで残っている他のメンバー(盾持ち地味男君と弓持ちボーイッシュ女子)に声を掛けるが、その2人も分からない模様。


「ったく、どこ行ったんだよ」

「困るね」


 とはその2人。ただ、この状況で「何処かへ行く」となったら、進むか戻るかの2択しかない。ちなみに、戻る側には[赤竜・群狼ユニオン]と[CMBユニオン]が居る。流石に彼等も4人だけで戻ろうとするなら呼び止めただろう。ということで、


「まさか…‥先へ?」

「ありえるわ、凛だもん」

「マジかよ」

「いや、流石に…‥」


 そんな言葉を交わし合っている。普段から振り回されているのがアリアリと感じられる。そして、


「すみません、ちょっと見てきます」


 と、日本刀装備のクールガイがこちらへそう言って来た。ただ、


(待つのだ……来るのだ!)

(来るニャン、オーク18匹ニャン!)


 え? 来るって……と俺がハム太とハム美の【念話】に疑問を返す。その時だった。


「転進よ! 戦略的判断よ!」

「みなさん、逃げてください!」

「うわぁぁ」

「多すぎだよ」


 奥へ続く通路から、そんな大声と共に[月下PT]の半分、月成凛を始めとした面々が飛び出してきた。


*********************


 昔、オンラインRPGが流行っていたころ、ゲーム内でモンスターを利用したプレイヤーキルという害悪行為、所謂いわゆる「MPK」というものがあったらしい。俺は年代的に、オンラインRPGが流行していた時期は中学生・高校生だったので、やった経験はない(母子家庭だったのでゲーミングパソコンとか無理だった)。でも、[脱サラ会]の面々や飯田なんかはリアルタイムで遊んだ経験があるとのこと。そのため、


「げぇ、トレインとか信じられねぇな」

「マジもんのMPKかよ!」

「ししし、したらばへ、つつつ通報!」


 などと声を上げている。まぁ、流石に故意の害行為ではないと思うけど、かなりの危険な迷惑行為であることは間違いない。しかも、この場合は独断専行も良い所だ。何の相談もなく勝手に奥へ進み、挙句の果てに豚鼻オークを18匹も連れて逃げ帰って来るとは……


そういうの・・・・・は後にするのだ!)

(流石に18匹は気合入れないと危ないニャン!)


 それもそうだ。文句は後からたっぷり言ってやるとして、先ずは降りかかる火の粉を払わなければならない。そう考えて状況を整理する。


 奥へ続く通路は幅2mとメイズ内の通路の半分サイズ。そこを我先にと逃げてくる月成凛以下合計4人は、俺達のいる広間まで後少しと言ったところ。まずは、通路幅が狭い事を利用しない手はない。ということで、


「飯田! あいつら・・・・が通路から出たら【飯田ファイヤー】で先制してくれ。あとは遠距離攻撃組も、頼みます!」


 俺の指示に飯田は頷き、タイミングを計りつつ中二詠唱を開始する。詠唱内容からして【飯田ファイヤー:火柱バージョン】で行くらしい。そして、朱音や古川さん達も射撃体勢に入る。


「オレ達は遠距離攻撃が止んでから壁だな、コータ?」

「はい、それでお願いします」


 一方、岡本さんたち盾持ち組は早速自分の役割を見極めている。という事で、


「加賀野さん、相川君、俺達は……臨機応変に盾組のサポで!」


 と、残りの近接組は、岡本さん達盾持ち組の支援に回ることになる。ここまで意思伝達をしたところで、悲鳴を上げる4人が通路から飛び出してきた。


「飯田!」

「――オン、アギャナイエイソウワカ、アー!」


 合図の掛け声と、飯田の詠唱クライマックスが被る。そして、最後に通路から飛び出した月成凛(一応殿しんがりを守っていたらしい)の更に背後に、背丈を超える炎の柱が出現。火柱はそのまま通路を奥へと進む。


「フゴォー!」

「フギャー!」

「フォッフォ、フゴォー!」


 通路の奥から豚鼻の悲鳴(?)が上がる。ただ、ここで手を抜いてはいけない。何と言っても、


「あいつらはタフだから、やり過ぎってくらいが丁度良いです!」


 豚鼻のタフさによって窮地に陥った経験のある俺は、全体にそう声を掛けた。できれば、あのもろ出しルック・・・・・・・を拝むことなく、通路の中で全部済ませてしまいたいところだ。


*********************


 結論から言うと、18匹からなる豚鼻オーク集団の内、通路を通り抜けることが出来たのは4匹程度だった。残りの大半は連続【飯田ファイヤー】と朱音の風属性矢を始めとした遠距離攻撃、更に俺の「飛ぶ斬撃」によって通路内で息絶えた。


 また、辛うじて広間に出た4匹も、その時点で酷い火傷を負い、更に全身に何本も矢を突き立てた状態だった。分かりやすく言えば、半分死に体・・・で待ち構える岡本さん達の前に姿を現したのだ。結果は推して知るべしだった。


 ただ、豚鼻オークは息絶えるまでの間、異常なタフさ・・・・・・を存分に披露していた。岡本さんの[フランジメイス2号]をまともに受け、上田君のマチェット・剣鉈二刀流戦法でなます・・・に斬られ、木原さんのスキル【強撃】を受けても尚、立ち向かって来た。最後は[月下PT]のクールガイとポニテ美女による刀と剣のコンビネーションによって、首を斬り落とされてようやく沈黙したほどだ。


 もしも、広い場所でまともに18匹とぶつかっていたら、もっと苦戦したことは明らかだ。だから、偶然とはいえ、狭い通路に誘導する結果となった月成凛他計4人の行動は、そういう意味では功績があった。ただ、だからと言って褒めるつもりは、断じてない!


 その気持ちは[DOTユニオン]はおろか、[月下PT]内部でも同様な模様。お陰で5層へ引き返すまでの時間は、それはそれはギスギスした雰囲気になってしまった。[CMBユニオン]のおっちゃん達が仲裁に入らなければ、もしかしたら、今回のメイズ消滅作戦自体、途中で頓挫していたかもしれない。それくらいに、雰囲気は最悪だった。


 ちなみに、月成凛から味方誤射フレンドリーファイヤーを受けた経緯については、そんな崩壊一歩手前な雰囲気だったので、結局言い出せなかった。それを言ってしまうと「決定的に破綻する」と流石に直感するほど、雰囲気が悪かったという事だ。



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