*メイズ消滅作戦⑦ 10層3連戦前半 火力ゴリ押し戦法
「強化魔法発動!」
「弱化魔法、もう一回――ッ、やったぁ、掛かりました!」
声を掛け合うのは[月下PT]の面々。場所は10層入って2つ目の広間。敵はゴブリン
「【
サイドテールの地味系女子学生なメンバーがそう声を発し、次いで突き出した両手から無数の水滴を文字通り散弾のように前方へ射出する。水属性の【魔法スキル】なのだろう。射出された水滴の散弾は、およそ水とは思えない威力で突進してきたメイズハウンド集団を襲う。
「
「はい、
【魔法スキル】の繰り返しを指示する
(【水属性魔法:下級】ってところニャン。1発で魔素力15消費だけど、あれ、実は1度の斉射中に3回も連発しているニャン!)
(だとしたら、もうそろそろ魔素力が持たないのだ)
別に観戦モードを決め込んでいる訳ではないが、ハム美とハム太はそう分析する。
(連戦はちょっと無謀だったのだ)
俺もそう思う。現在、[月下PT]は10層1つ目の大部屋を
「行きますわよ!」
前方では【魔剣:フライズ】を掲げる月成凛の勇ましい掛け声。それに応じて近接武器を持つPTメンバー4人が夫々の武器を片手(又は両手)にコボルトチーフを迎え撃つ。
そんな様子を見ながら、どうして性急に10層を攻略しようとしているのか? について考える。実は大した理由はない。10層を前にした時点で意見の相違があり、[月下PT]が暴走しただけだ。
9層を
慎重派の俺達[DOTユニオン]は5層に戻ることを主張。[DOTユニオン]各PTとしては、別に消耗が激しい訳ではないが、朝から救出作戦を待たされた挙句のメイズ潜行であり、疲労を抜く事に専念したかった。また、6~9層を繰り返して全体の[修練値]を上げる、というハム太の提案(俺だけが聞いている状態だったが)もあった。
5層へ戻る案については、[CMBユニオン]の
一方[赤竜・群狼ユニオン]は曖昧な態度だった。リーダーの
それに対して[月下PT]は主に月成凛が「ここまで来たら10層を制覇して補給基地を10層に移すべきですわ」と主張した。「私達はそれほど消耗しておりませんことよ。なんなら私達だけで10層をクリアしますので、お疲れの皆さんは先にお戻りあそばせ」とも。
それで、全体行動を無視して10層へ降りてしまったのだから、残った面々は仕方なく後に続いて10層へ降りることになった。それで現在に至る、という訳だ。
まぁ、[月下PT]の平均修練値が630前後だから、10層でも戦えるのは確か。現に1つ目の広間は火力ゴリ押しでクリアした。ただ、彼等の戦闘スタイルでは、スキルの燃費が悪いのは致し方ない事実。結局、2つ目の広間で、まず魔法少女(サイドテール地味子)が魔素力切れ。次いで【弱化魔法:下級】の使い手、眼鏡ヒョロガリ男子も魔素力を切らした。
一方、月成凛率いる前衛メンバーはコボルトチーフを屠り、そのままゴブリン集団に接敵、近接戦闘に持ち込んでいる。ただ、ゴブリン
しかも、悪いことに、その
結果として、[月下PT]の遠距離攻撃担当2人は逆にゴブリン
「
それで、前列に加わっていた近接担当で【回復魔法】を持っている長身ポニーテール美女が戦線を離脱。結果、近接戦闘の均衡が崩れて[月下PT]の形勢は不利に傾く。
(こりゃマズイのだ)
(手を出すニャン?)
2人(匹)は【念話】でそう語り掛けてくる。俺としても見殺しは寝覚めが悪い。でも、特に岡本さんや加賀野さんは、さっきの[月下PT]の独断に結構ご立腹だった。だから正直に言うと、言い出しにくい。こまったなぁ……でも、言わなきゃなぁ……、やだなぁ、こわいなぁ……
「流石にヤバイですよ」
「ちっ、だから言わんこっちゃない」
「どうします、やりますか?」
「そうしよう」
結局、俺の呼びかけに岡本さん、春奈ちゃん、加賀野さんの順に答えて、
ピンチに陥り掛けた[月下PT]の援護に[DOTユニオン]、動きます(キリッ)。
*********************
[DOTユニオン]は3PTの合同ユニオン。ただ、ユニオンとしての行動歴は結構長い。それに各PTの(余り
それは、ユニオン単位でモンスターの集団と戦闘になった場合に「PTの垣根を越えた連携」として現れる。
例えば、各PTの盾持ち前衛組は岡本さんが率先する。近接攻撃組は加賀野さんか俺、又は相川君がその時々の状況に応じて指示を出す。そして、遠距離攻撃に関しては飯田が毎度毎度(
今回のような場合もそうだった。
「お前ら、一旦後ろへ下がれ!」
そう言いつつ、月成凛の前に割り込んだのは岡本さん。左右には井田君、毛塚さん、久島さんの盾持ちグループが居る。
「強化魔法行きます!」
「弱化魔法、試してみるね!」
「あああ、アチャーへ、けけけん」
「アーチャーへ牽制、だな!」
「撃ちますっ!」
背後では遠距離攻撃組の朱音、春奈ちゃん、飯田、古川さん、小夏ちゃんの声が順に上がる。そして、
「コータ君、さっきみたいに右翼から突貫よろしく!」
俺にそう言ってきたのは加賀野さん。「さっきみたいに」という事だから、加賀野さん達は左翼から近接戦を挑み、俺が右翼から突っ込む戦法にする模様。
「了解です! 飯田、朱音! 俺に当てるなよ!」
加賀野さんの言葉に応じつつ、背後の遠距離組に声を掛ける。そして【能力値変換】からの[4分の1回し]発動。更に半分変換を重ねて[力]と[技巧]の合計値を60以上に持って行く。(ちなみに【隠形行】は今回使わない。理由は後衛組の射線に被るから)
そして、
――ズバンッ!
俺が振るう太刀[幻光]の刃線から、不可視の刃が飛び出し、そのまま空を斬りゴブリン集団の側面へ襲い掛かった。
なんだろう、モンスターからの敵意以外に、横から熱い視線を感じる。チラと見たら、月成凛が凄い形相でこちらを見詰めながら多分[魔素力回復薬]だと思われるポーションを飲んでいた。……コワイので無視しよう。
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