*メイズ消滅作戦⑥ 9層と[赤竜・群狼ユニオン]
9層の構造はこれまでと少し違っていた。階段を降りて直ぐの少し広めの空間から左右に1本ずつの2つの通路が伸びている。そのため、これまでのようにスタート地点から3つに分かれる事が出来ない。結果として、左側へは[CMBユニオン]と[月下PT]のグループが、右側へは[赤竜・群狼ユニオン]と[DOTユニオン]が向かうことになる。
因みに[CMB]と[月下]だが、ここまで来る間に随分と打ち解けた雰囲気になっている。恐らく[CMB]メンバーの方から随分と歩み寄ったのだろうけど(その真意はさて置くにしても)このグループの雰囲気が良いので全体の雰囲気も良くなっている。ただ、
「なぁ、随分疲れているように見えるけど――」
「本当に君達が先頭で良いのか?」
「後ろで休んだほうが良いんじゃないの?」
岡本さん、加賀野さん、春奈ちゃんの言葉は、[赤竜・群狼ユニオン]の2人のPTリーダーに掛けられたモノ。言葉通り、彼等2人のPTリーダーの消耗度合は目で見て分かる具合だった。しかし、
「そうかも――」
「余計なお世話だ!」
[赤竜PT]のリーダー(
「でもターチだって……」
「ポーション飲んどけば大丈夫だろ、行くぞメグ」
ターチ(朴木太一)とメグ(金元恵)と呼び合う感じから察するに、これは
(コータ殿の思考は時々良く分からないのだ)
(コンプレックス、ニャン。歪んでしまったあの夏の思い出ニャン)
ほっとけ! 「幼馴染は爆ぜてもげろ!」というのは、俺のプリンシプルなポリシーだ。
(……それにしても、あの朴木氏の【収納空間】なのだが……どうもアレは[魔坑核]経由で習得したスキルなのだ!)
(お兄様、私もそう思うニャン)
ん? なんで?
(【収納空間】というスキルはレア中のレアで、習得には修練値が900必要なのだ)
(でも、あの朴木氏の修練値は今でやっと500ちょっとニャン。スキルジェムから習得するのは無理ニャン)
ということは、俺が【能力値変換】を習得したのと同じような経緯で【収納空間】を習得した、ということか。あんまり親近感は沸かないけど……って事は
(う~ん、それは持っていないみたいなのだ)
そうか……失くしたのか使ってしまったのか分からないけど、[魔坑核]+【収納空間】の組み合わせが手元にあるなら、[
(吾輩、聖騎士なので、そういう発想はちょっと……なのだ)
(同じく魔法少女なので、そう言うのは無しニャン)
なんだろう【念話】だけのはずなのに、妙に蔑んだ視線を感じる……
「コータ、なにボーっとしてるんだ?」
「先へ行きますよ、コータ先輩!」
と、ここで岡本さんと朱音の声で現実に引き戻される俺。まぁ[群狼PT]のリーダー朴木が[
*********************
ということで9層右側の攻略は[赤竜・群狼ユニオン]が先頭に立って進む事になった。それで彼等の戦闘を間近で見たのだが、やっぱり予想通り、赤竜PTリーダーの金元恵と群狼PTリーダーの朴木太一がスキルでゴリ押しするスタイルだった。
出現するモンスターは8層の[メイズハウンド+コボルトチーフ]と[ゴブリン
ちなみにゴブリンSとFの見分け方は装備の差にポイントがある。ゴブリンSの方は可成り粗末な革鎧を身に着け、手にはボロボロの剣や斧、極稀に盾を持つ者が居る。一方ゴブリンFの方は金属片を打ち付けた、少し立派な革鎧にお揃いの長さ1.5m程度の槍というスタイル。
それで、ゴブリン種の特徴なのか、とにかく戦闘状態に入ると弱い者から順に集団から押し出されるようにして向かってくる。そのため、集団全体が20匹前後居ても、ゴブリンS→ゴブリンFの順に相手をすることになる。まぁ、その間、最後尾に陣取るアーチャーの存在が鬱陶しいのはどの層でも変わらないところ。
対して[赤竜・群狼ユニオン]は、とにかく、開幕初撃に強力なスキルを持ってくるスタイルだ。朴木と金元が交互にスキルを使用し、強烈な打撃をモンスター集団に与える。その後、ヘロヘロになったモンスターに他のPTメンバーが立ち向かう、という戦闘方法だ。
それでこの場合、ゴブリン集団の戦力逐次投入戦法に対して、[赤竜・群狼ユニオン]の開幕一撃スタイルは、相性がとても悪かった。開幕初撃の【魔法スキル】や【収納空間】が比較的雑魚のゴブリンSに吸収されてしまい、本命であるゴブリンFやAに届かないのだ。そのため、戦闘毎に2度も3度もスキルを使うことになり、朴木と金元の両リーダーは急速に[魔素力]を消耗させていく。
それでも彼等は頑張った。だが、9層に入って4度目の戦闘に於いて、遂に
「だめ、もう魔法が撃てない!」
「こっちもだ!
と、完全に魔素力切れの事態に陥った。
場所は少し広めの部屋のような空間。そこに居たコボルトチーフを起点としたメイズハウンドラッシュ中に、横の通路からゴブリン集団が現れてモンスターが合流した状況だ。この時、朴木の【収納空間】による
目の前には斃し切れなかったメイズハウンド10匹とゴブリンS8匹。その背後にはコボルトチーフ1匹と、更に横の通路にゴブリンF6匹とゴブリンA4匹という状況。無傷なモンスター集団を前にして[赤竜・群狼ユニオン]のメンバーは勝手が違うのか、浮足立つ。
「前に出るぞ!」
と、ここで岡本さんの掛け声が響く。そして盾持ち4人組が[赤竜・群狼ユニオン]とモンスター集団の間に割って入る。
「飯田、障害物で!」
「はははっいっ!」
一方、俺は飯田に声を掛ける。意図的には【生成:障害物】でモンスター集団を分断して欲しい、というもの。その意図はちゃんと飯田に通じたようで、次の瞬間、部屋に横から繋がる通路にコンクリ風の壁が出現する。これで、ゴブリンFの半数とAを通路に閉じ込めた格好だ。
「コータ君は右から頼む!」
とは、加賀野さんの声。見ると[脱サラ会]と[TM研]の近接組は加賀野さんを中心に左翼からモンスター集団に掛かる模様。俺一人で右翼をかく乱しろ、という事らしい。お安い御用だ。流石にそうは言わないが「了解!」と俺は短く返事をした。
(油断禁物なのだ!)
とはハム太の【念話】だけど、別に油断している訳じゃない。やることが単純明快だから「お安い御用」なだけだ。という事で俺は【能力値変換】で「4分の1回し」を[敏捷]
狙いは奥のコボルトチーフ。まず面倒な【統率】効果を取り除き、メイズハウンドを弱体化させる。【隠形行Lv1】の効果時間は30秒だが[敏捷]を普段の2倍に嵩上げした俺は、ほんの数秒でコボルトチーフを太刀[幻光]の間合いに捉える。そして、腰に佩いた鞘から[幻光]を引き抜く動作で、抜き打ちにコボルトチーフの膝へ斬り付ける。
「ウォォンッ?」
全くの不意をつかれたコボルトチーフは驚愕の吠え声と共に床に片膝を着く。その時には、俺は振り抜いた[幻光]を八相の位置に付け、片膝立ちとなったコボルトチーフの首筋へ必殺の刃を振り下ろす。
――ゴト……
恐ろしいほどの切れ味を示す[幻光]により、コボルトチーフの犬面の頭部がメイズの床に重たい音を立てて落ちた。それを音だけで確かめて、俺は仲間の方を振り返る。
近接組がメイズハウンドやゴブリンSを追い詰めているのが見えた。また、塞がれた通路前に取り残された2匹のゴブリンFは朱音の風属性を帯びた矢によって一纏めに射抜かれていた。この戦いは、この後直ぐに終わった。
そして、先頭を[DOTユニオン]が受け持つようになった9層探索は、その後1時間ほどの時間を経て、10層へ至る階段を見つけだして
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます