*メイズ消滅作戦⑤ 潜行経過~8層まで


 各層の攻略はユニオン単位で分散して行うことになった。そう取り決めて足を踏み入れた6層は、降りた先の少し広めの空間から3つの通路が別々の方向へ伸びる構造になっていた。まぁ、よくある構造・・・・・・だ。そのため、各通路を各ユニオンが受け持つ格好になる。ただ、「月下PT」を入れると4勢力の状況なので、1つ余る。


 この「1つ余る」を「サボれてラッキー」と取るか「ドロップが取れなくてアンラッキー」と取るか、それは各自の受け取り方次第。ただ、金の亡者的な[受託業者メイズ・ウォーカー]の性質上、「ドロップが取れなくてアンラッキー」と考える方が多いだろう。ということで、4分の1を「クジかじゃんけんで決める」という話になり掛けたが、ここで「待った」が掛かった。待ったの主は「月下PT」だ。なんでも、


「実力に劣る者が率先して経験を積むべきですわ! 特にCMBと赤竜・群狼! このまま行くと足手まといになりますわ!」


 とのこと。勿論、「空気読めない女王」月成凛つきなりりんの発言だ。言っている意味は分かるが、他に言い方があるだろう、という発言だ。


 まぁ、彼女達は10層に到達しているという自負がある。その一方で、名指なざしされた[CMBユニオン]と[赤竜・群狼ユニオン]は、夫々それぞれ6層と7層止まりだから、そういう発想になるのだろう。


 ただ、ついさっき[CMBユニオン]の実力を上から目線・・・・・で評価した自分を、内心で戒めていたばかりなのだが、そんな俺を遥かに上回る高所から見下ろすような月成の発言に呆れる。そう思うこと自体は自由だが、敢えて口に出して言う神経を少し疑う思いがする。月成凛コイツは飯田と違うタイプのコミュ障なのかもしれない。


 そして、当然といえば当然だが、言われた側は反発する。特にガラがよろしくない・・・・・・[赤竜・群狼ユニオン]は、


「なんだとテメー!」

「舐めてんじゃねーぞ!」


 となる。それで場の雰囲気が一気に悪くなるのだが、これを仲裁したのは何と[CMBユニオン]の方々だった。


「まぁ、そう言われればその通りだなぁ」

「俺達が一番弱いみたいだから、お嬢ちゃん・・・・・、ちょっと手伝って頂戴よ」

「そうそう、後ろで見てくれているとおっちゃん達安心だよ」


 とのこと。20歳近く歳が離れた若造に遥かなる・・・・上から目線で暴言を吐かれたというのに、この人たちCMBの面々は激昂する事無く、そう言った。その結果、


「よ、よくってよ、私達が見守って差し上げます」


 プライドの高い月成凛は、下手に出たCMB面々の発言に乗せられるように同意する。


 結果として「1つの余り」は発生せず。3つの通路は[DOTユニオン]、[赤竜・群狼ユニオン]、[CMB+月成PT]という3グループで攻略されることになった。


 一連のゴタゴタが決着した時、近くで加賀野さんが


「おっちゃん達のほうが上手だったな」


 とボソリと言う。まぁ、そうだろうなと思う。結果的に、[CMBユニオン]は実力が上な[月下PT]の補助を受けつつ[修練値]とドロップを獲得することが出来るようになった。


*********************


 6層以降に出現するモンスターの構成は、他のメイズと特に変わりはない。今まで誰も潜行していないメイズなのでモンスターの数は少し多く感じるが、5層のように「2倍」という事はない。精々が2割増し程度だ。だから[DOTユニオン]としては、余り障害を感じずに進むことが出来る。ユニオン単独で[霞台駅メイズ]8層を踏破しているので、その時よりも[受託業者]の数が多い今の状況では、苦戦することはない。


 一方[月下PT]の援護を受ける[CMBユニオン]も快調に各層で通路を制覇していく。[月下PT]内に【強化魔法:下級】と【回復】スキル持ちが居るから、多少の無理も利くという理由で、結構大胆にやっているようだ。


 それに、全員が40歳オーバーの[CMBユニオン]メンバーは、[修練値]やスキルで見劣りしていたが、別に弱い訳ではない。むしろ、スキルを全く習得していない状態で6層で活動していたのだから、地力は十分に高いと言える。


 そんな彼等は6,7,8層と進むうちに幾つか追加でスキルジェムを収拾しており、結果として【戦技】スキル獲得者を増やしていた。


 一方、[赤竜・群狼ユニオン]はどうかと言うと、こちらも6~8層で受け持った通路のモンスターを掃討していた。詳細な戦闘内容は不明ながら、通路を掃討クリアしてスタート地点である階段前まで戻って来る速さは[CMB+月下]と同じ程度だった。


 ただ、ハム太曰く


(どちらもリーダーの魔素力の減りが大きいのだ……多分スキルでゴリ押ししているのだ)


 とのこと。突出して強いメンバーがPT内に居ると、そこに負荷が集中する、ということだろう。やっぱりPT全体としての戦力バランスを整えていくことはとても大切だと、他所よそを見て実感したものだ。


 ちなみに、そう言う我らが[DOTユニオン]は、至極無難に各階層の担当通路を掃討クリアしている。6~8層の出現モンスターである大黒蟻、コボルトチーフ+メイズハンド、ゴブリンソルジャー集団、いずれも油断は出来ないが危な気なく対処が出来ている。


 また、6層で1つと8層で1つ、スキルジェムを拾う事が出来たのは大きな収穫だった。拾得したスキルジェムは【戦技】と【弱体化魔法:下級】というもの。【戦技】については言わずもがな・・・・・・。一方、【弱化魔法:下級】は読んで字の如く「対象の能力を弱体化させる」というもので、習得コストが[修練値]150、使用時コストが[魔素力]15というものだ。


 この2つのスキルジェムの争奪戦(くじ引き)について、[チーム岡本]は早々に辞退することにした。理由は主に2つ。1つはスキルの有用性の問題。【戦技】スキルは飯田以外の3人が習得済み。未習得の飯田も、戦闘スタイルがピストルクロスボウや槍から【魔法スキル】にシフトしつつあるので、それほど必要という訳ではない。


 また、【弱化魔法:下級】については、使用時コストの問題があって習得しても有効に活用できない恐れがあった。最近立て続けに使用型アクティブスキルを習得しているため、実は戦闘中の[魔素力]に余力が無い。各自の[魔素力]は大体180以上(岡本さん除く)になっているが、それでも減り方や残りを気にしてスキルを使っている状況には変わりない。この状況で使用型アクティブスキルを増やしても、生かし切ることは難しいという判断だ。死蔵してしまうくらいなら、同じ[DOTユニオン]内で活用してもらった方が良い。


 また、もう1つの理由としては、2つめのスキルジェムとほぼ同時にあるアイテム・・・・・・がドロップしたからだ。それは、白よりもクリーム色に近い色合いを持つ革っぽい質感の矢筒クィーバーで、入れ口の縁金ふちがねと底部に精緻な銀製(?)の透かし彫りを装飾としてあしらった品。胴部の中央にも複雑な幾何学模様がエンボス加工されており、その頂点には幾つもの色の薄い翡翠のような輝石を配してある。審美眼など持ち合わせていない俺でも「美しい品だな」とひと目で分かるものだった。


(おお、属性矢筒なのだ。付与された属性は……「風」なのだ!)


 とは審美眼ではなく【鑑定(省)】を持つ鑑定士ハム太の言葉。それによると、


(矢筒に収納した矢に風属性を付与する矢筒なのだ、これは良い品なのだ!)


 とのこと。結局、この[属性矢筒:風]を手に入れるため[チーム岡本]はスキルジェムを譲る形になった。


 その結果[脱サラ会]の古川さんが【戦技:弩弓Lv1】を習得。[TM研]の春奈ちゃんが【弱化魔法:下級Lv1】を習得。そして我らが[チーム岡本]の朱音主砲が風属性の矢を放つことが出来るようになった。


 戦力が着実に底上げされている。その実感は、続く9層よりも、10層と更に深い層で如実に感じることが出来た。まぁ、その前に9層までクリアすることになるのだけど……9層は9層で面倒な層になった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る