*メイズ消滅作戦④ 10層を目指して


 補給物資を運搬する自衛隊部隊が合流。物資を一旦ここで降ろし、極々簡単な施設設営が始まる。流石に度重なる自然災害を相手に練度(?)を高めてきた世界的にも珍しい軍事組織なだけあって、作業はアッと言う間に終わる。


 結果として、目隠しの衝立ついたてで4面を囲った簡易トイレ2基と、支柱とタープで作った簡易休憩所4カ所、そして1匹残った大型スライムを利用したゴミ捨て場が完成する。因みに簡易休憩所内には適当な感じでエアマットが敷かれている。流石に15層までを1日で制覇することは出来ないから、メイズ内でのお泊りは仕方ないといったところだ。


 その間、俺達[受託業者メイズ・ウォーカー]は各自のタイミングで昼食をとる。時刻はなんだかんだ・・・・・・で15:00過ぎだから、昼食としては遅い時間。かなりの空腹を感じていたので、高カロリーでご飯多目なレトルトパウチ飯が妙に美味く感じられた。あと、簡易加熱剤と水を袋に入れてレトルトを温める作業にワクワクしたのは内緒だ。


 食事後は各PTのリーダーが集まって今後について話し合う時間になった。どうも[月下PT]の月成凛が呼びかけたようだ。これまでの言動や行動からも、あの女性月成所謂いわゆる「仕切りたがり」なリーダー気質の持ち主である事は良く分かった。ただ、人格と人望が備わっているか? については、疑問が残るところだ。


 ということで、その間やることが無いから休憩となる。[DOTユニオン]用の休憩場所で自分用のエアマットを確保して「ぐだぁ」と横になる。それでしばらくメイズの天井の染みを数えていると、不意に【ハム美】の念話が届いて来た。


(ただいま戻りましたニャン)


 顔を上げて周囲を見ると、ちょうど休憩場所の入口付近の空中をフヨフヨと浮きながらこちらへ移動してくる魔法少女スタイルのフリフリコスチュームに身を包んだハムスター(♀)が目に入った。ちなみに、他の面々は全く気付いていない様子だ。


 ハム美はそのまま空中を移動すると、エアマットの横に置いた装備類とリュックの所へ着地。


(おお、戻ったのだ。外はどんな風だったのだ?)


 そこへハム太の【念話】が出迎える。毎度毎度の事だけれどもこの2人(匹?)は【念話】による会話に俺を巻き込むことに、何の遠慮も呵責かしゃくもないらしい。俺としては【無視】とか【耳栓】というスキルが有ったら是非習得したいところだ。


(それが、やっぱりモンスターのリスポーンは治まらないニャン)

(ぬぬ……やはりそうなのだ)

(やっぱり色々と仕組みが変わっているニャン)

(うむぅ)


 2人(匹)の会話はそんな内容。ハム太はどうもあちらの世界・・・・・・における「魔物の氾濫」とこちらの世界・・・・・・の状況の違いを随分と気にしている様子だ。ハム太の知る「魔物の氾濫」ならば、現時点で5層を攻略しているのだから、外のモンスターのリスポーンは発生しない筈。しかし、現実にはハム美が言うようにリスポーンは継続している。


(そうなると厄介なのだ……)


 これまでは「何となく、そうかもしれない」という疑念と懸念だったものが、これで確信に変わった。やっぱりメイズの仕様(?)があちら・・・こちら・・・の世界で違う。これはもう動かしようのない事実だ。


 ちなみに違う点はこんな感じだろう。確定的な点は、


・「魔物の氾濫」は発生源のメイズで魔物を間引くだけでは治まらない。恐らくメイズを消滅させる必要がある。


 一方、不確実ながら可能性が高いのは、


・「魔物の氾濫」中は発生源のメイズで特に「番人」が居る階層のモンスターの数が倍増している。

あちらの世界・・・・・・には存在しなかった【スキル】や【特技】がある。


 と言う点。勿論、気が付いてないだけで、他にもあるかもしれない。


 全体として、こちらの世界にメイズが出来る際に難易度(そんなものがあるのか知らないが)が上がった、といったところか。でも、俺の立場からすると「それに不平を言っても仕方がない」という感想。どう足掻いても、「今出来る事」と「やるべき事」が変わる訳じゃない。今はこの小規模メイズの消滅を目指して下の階層を目指すしかない。


(そ、そうなのだ)

(で、出来る事を集中してやり遂げるニャン!)


 俺の内心の呼びかけに2人(匹)はそう応じた。でも、なんだか歯切れが悪い気がする。何か他に気になる事でもあるのか?


(い、いや……それは――)


 俺の疑問にハム太が答えかける・・・、その時だった。


「お~い、休憩終わりだってよ」


 岡本さんのそんな声が聞こえて来た。


 これのせいで、この時の問答は中途半端に終わった。そして、この時ハム太が何を気にしていたかを俺が知るのは少し先の事になる。まぁ、この場で聞けていた・・・・・としても、未来が変わるような話では無かったが、それを含めて、まだ先の話だ。


*********************


 リーダー同士の話し合いで決まったことは、


――5層を拠点に各ユニオン・PTの底力を上げながら10層を目指す――


 というものだった。至極まともな結論といえる。


 また、話し合いの過程で各ユニオン・PTの実績や実力を披露しあう事になった、とのこと。まぁ俺達[チーム岡本]はハム太の【鑑定(省)】の結果を共有しているので、他のユニオン・PTの実力を把握しているが、それはイレギュラーだと言える。


 それに、これから深い層へ向かおうという集団なのだから、各自の実力を把握しておきたい、という要望が出るのは当然の事ともいえる。結果として、この情報交換は[修練値]や【スキル】では推し量れない各自の経験値を知る機会になった。


 [CMBユニオン]については、さっきの戦闘で実力を確認している。今後はスキルの習得に注力してほしいところだ(ちょっと上から目線になってる自覚はある)。それで残る[月下PT]と[赤竜・群狼ユニオン]については――


[月下PT]


 彼女達(男女4人ずつ計8人)は全員が成成学園在学の大学生。PTリーダーの月成凛が理事長の孫だというのは既に知っているが、他のメンバーも結構良い所・・・の子息令嬢とのこと。それで、スキルやアイテム、装備類を主に海外のオークションサイトで買い集めて、それなりの初期投資をしてから[受託業者]活動を開始したという事だ。


 彼女達の主な活動場所は[成成学園内メイズ]で、現在は10層を攻略中ということだ。10層だから[修練値]が600相当。なるほど、月成凛を除く他のメンバーが600前後というのは納得の数字だ。一方、一人だけ[修練値]が高い月成凛は、10層の「番人センチネル」をほぼ一人で相手にしているため、一人だけ跳び抜けて[修練値]が上昇しているのだと思われた。それもこれも、海外オークションで可成りの高額を使い購入した[魔剣:フライズ]の恩恵なのだろう。


 ただ、10層の攻略は彼女一人が突出し、結果[魔素力]切れでも起こすのか、毎度途中撤退ということで攻略の糸口を掴めていないらしい。


 とはいっても、今回集まったユニオン・PT内で最も深い層まで達しているのは彼女達[月下PT]だ。そのため、貴重な10層の構造に関する情報を得ることができた。なんでも、成成学園内メイズ10層は大きな空間が3つ、細い通路で繋がっている構造(らしい)。それで、居座る番人センチネルはゴブリンナイト豚顔オークが中心になるとのことだった。


[赤竜・群狼PT]


 こちらは一般の[受託業者]の間で悪名高い、マナー最悪な日本最大クランのトップPT。普段の活動場所は[国立西駅前ビルメイズ]の6~7層で活動しているとのこと。そのため、リーダーを含めた全員の[修練値]は450程度と、持っているスキルの割には高くない。


 これは、どうも利潤を追求する活動スタイルに原因がある模様。というのも彼等は国立西駅のメイズと[アトハ吉祥メイズ]の浅い層をほぼ独占しているため、組織的にモンスターを狩るというよりもドロップを収穫する・・・・、というやり方に特化していた。


 そんな彼等が5層以降を目指すようになったのは、実は[DOTユニオン]の活動が影響しての事だったりする。[DOTユニオン]は偶然(ではなく、ハム太の差し金で)収拾ドロップ品の販売とスキルの習得をバランス良くやっていたから[管理機構]の買取り額ランキングでは順位がそれほど高くない。


 しかし、スキルや装備の充実具合は結構良い。それに「新規の競合が増える前に5層を狩る」という活動方針だったので、一部同業者からは結構注目されていたようだ。その結果、「深い層に行った方が効率が良いかも?」という事で彼等も活動方針をメイズ階層の深化に変更したばかり、ということだ。


 ただ、実力を素直に話したか? というとそうではない。[赤竜PT]のリーダーは魔法スキルの事を話したが、[群狼PT]のリーダーは【収納空間】の事を話さなかったという。ただ、【見極め】スキルを持っている月成凛は敢えて突っ込まないものの、何等かのスキルを隠している可能性に気付いているようだ、というのが岡本さんの印象だった。


*********************


 そんな説明を聞きつつ、俺達は6層へ降りる。因みに自衛隊部隊は5層で待機。後続の(いつ来るのか分からない)メイズ教導部隊を待つということだった。



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