*メイズ消滅作戦③ 即席要塞(飯田式)?
困った状況で突然良いアイデアを思い付いたら、思わず
「しょっしょしょ、で、よよよ、ようさ、うぐっ」
本人も焦り過ぎて舌を噛む始末。でも、流石に3年もの付き合いがあって、その内最近の数か月は危険を分け合うPTを組んでいたんだ、言いたい事が分かってしまう。
「どんな風に出すんだ?」
「こここっこんなかか感じで」
俺の質問に飯田はジェスチャーで空中に窪みが浅い「U」の字を書く。なるほど。
「じゃぁ俺がみんなに伝えるな!」
「はははい!」
「っていうか落ち着け」
「はははい……だだっだいじょうぶです」
その後、俺は[DOTユニオン]と[CMBユニオン]の面々に飯田のアイデアを伝える。ちなみに、ゴブリン
その上で、まず中央にDOTの盾持ちとCMBの健在な近接、右翼側に[脱サラ会]を中心とした面々、左翼側に朱音や春奈ちゃん、小夏ちゃんといった弓とクロスボウ持ちを集める。そして、
「飯田、これで良いだろ?」
「ははい! いい行きます!」
そんな声と共に飯田は【生成:障害物Lv1】を発動。瞬間後、足元から幅と高さが2m、厚さ20cmの物体が
「壁?」
「なんだこれ?」
そんな疑問の声が上がるが、飯田は説明よりも次の障害物生成に取り掛かっている。そのため、俺が代わりに説明した。
「障害物を作り出すスキルです。これで浅いUの字状にバリケードを作ってメイズハウンドを迎え撃ちます」
その間も飯田は次の壁、次の壁、と障害物を産み出し続ける。因みに幅2mの壁は隣の壁と15~20cmほど隙間を持っている。この隙間は、
「ここから遠距離攻撃で狙えます」
多分、そういう事だろ? と飯田を見ると、ウンウンと頷いている。おお、正解だった。分かりあえたよ……嬉しくないけど……え、なに? あ、魔素力切れたのか、はい[魔素力回復:中]をどうぞ。マズイだろ? な、マズいよな。ちなみにこの間、俺も飯田も言葉を発していない。以心伝心阿吽の呼吸だ。このやり取りを何故か朱音が恨めしいのか羨ましいのか、はたまた気味悪いのか、分からない目で見ていた。
*********************
「障害物の有効時間は10分みたいです」と俺。
「それだけあれば十分だろ」と岡本さん。
「火が弱くなってるぞ」と久島さん。
「うえぇ、すげー数」とCMBの誰か。
「遠距離チーム、頼むよ」と毛塚さん。
そんなやり取り。因みにコンクリ風障害物による即席要塞(飯田式)は既に完成して、各自が
――ウォウォォオォオオオン!――
――ウゥゥオオオオン!――
2つの【遠吠え】が響き、消えてしまった火の壁の向こうから総勢50匹以上のメイズハウンドが一斉に突撃してきた。数が数だけに、かなりの迫力に見える。でも実際のところ、ここからの戦闘は完全に俺達側のワンサイドゲームだった。
[脱サラ会]お得意のスリングショットを中心とした右翼側からの射撃と、弓やクロスボウを中心とした左翼からの射撃、左右両翼からの遠距離攻撃によってメイズハウンド集団は次々に削られていく。特に朱音のリカーブボウは凄まじく、1本の矢でメイズハウンド2匹を射抜く事が何度かあった。
一方、モンスターの突進圧力が一番集中する中央の盾組は、姿勢を低く重心を下げた構えでその重圧を見事に
そして、戦闘開始から5分ほどで、焦れたように2匹のコボルトチーフが飯田式要塞へ近寄って来る。その2匹のコボルトチーフは【飯田ファイヤー:火柱バージョン】の餌食になった。立ち上がる赤い炎の柱に絡めとられた2匹のコボルトチーフは何とか炎から逃れようと暴れ回ったが、被害をメイズハウンドに拡大させるだけ。結局2度の【飯田ファイヤー】を受けたコボルトチーフは朱音の矢と春奈ちゃんの矢がトドメとなって沈黙。後は残り火でこんがり丸焦げになった。
その結果、【遠吠え】の【統率】効果を失ったメイズハウンド集団は一気に(と言うか、この時点で数はもう十数匹しか残っていない)瓦解。コンクリ壁風障害物が消滅する前に、動いているメイズハンドの姿はなくなっていた。
ちなみにこの間、俺(と[TM研]の上田君)は全く出番がなかった。1度は壁をよじ登って「飛ぶ斬撃」を撃とうとしてみたけど、【生成:障害物】で造られた壁は登る手がかりが一切無くて、諦めるしかなかった。仕方ないので左翼側の遠距離女子を応援していたくらいだ。
とにかく、5層確保の戦闘はモンスターの数が通常の2倍、という予想外の状況であったが、何とか終息。後は壁際にこびり付いたような大型スライム数匹を処理する時間になる。
戦闘の結果、[メイズストーン]や[ポーション類]が結構な数ドロップした。しかも、それ以外にスキルジェムが何と5つも出た(内2つは大型スライムからだけど)。
ただ、スキルの内容は【戦技】x2個、【身体能力向上:小】、【耐久値向上:小】、【防御姿勢】と、[チーム岡本]にとっては、あまり目ぼしいものは無い。
(無理して取るほどのものは無いのだ)
ハム太も同じ意見の模様。そのため、チーム岡本は早々にスキルジェム争奪戦から撤退。引き換えに一般的なドロップ品を多めに頂くことにした。その上で、
「CMBさんはもうちょっとスキルを習得したほうが良いと思う。まぁそっちの勝手だけど」
と、岡本さんに言ってもらった。ただ、戦闘直後であることや、主に飯田のスキルを見た直後だったので、このお節介な意見はすんなりと受け入れられた。
「もうちょっとで釣り船が買えそうなんだけどなぁ」
「でも、命あってのものだね?」
「そうだね」
釣り船云々は[勝鬨丸PT]というちょっとセンスが良く分からないPT名を名乗っている面々。まぁ、[
ということで[CMBユニオン]の3PTは
「おおお! こんな感じになるんだ……防御姿勢!」
「でも、耐久値向上ってどれだけ上がったのかさっぱり分からんな」
「おれ、【戦技(
などと言い合っている。
一方、[DOTユニオン]側の[脱サラ会]と[TM研]も分配を受けたスキルジェムからスキルを習得した。その結果[脱サラ会]の毛塚さんが【身体能力向上:小】を習得し、[TM研]の相川君が【戦技(槍)】を習得した。全体として戦力アップしたのは間違いないと思う。
ということで、ドロップ回収分配やスキル習得をやり終わったところで、焦れたように[月下PT]が5層へ降りて来た。
「あまりに遅いから全滅したのかと思いましたわ」
一応、心配してくれたらしい(?)
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