*メイズ消滅作戦① 5層前の微妙な感じ


 [消滅作戦]の作戦筋書きシナリオは当初、俺達[受託業者]集団が5層を確保した後、補給物資(主に水、食料、簡易トイレ設営キット、あと少量の弾薬)を持った自衛隊員25人がその後を追う、というものだった。


 ただ、この筋書き《シナリオ》は自衛隊が独自に考えていたもので、[受託業者俺達]への事前の説明や相談は無かった。ということで、出だしからつまずいた。どういう事かというと、


「それだと、5層をクリアしてから一旦1層に戻って再度5層へ、ってなるけど」

「2度手間過ぎるな」

「愚策ですわ!」


 という事だ(ちなみに喋ったのは[脱サラ会]の加賀野さん、[群狼PT]のイケメンリーダー、[月下PT]の月成凛女史)。それで、自衛隊員の現場指揮をしている諸橋3等陸尉は、


「ええぇ? う~ん……」


 というリアクションになった。まぁ他2人はともかくとして、諸橋3等陸尉から見てひと回り歳が若いキツメの美女月成凛から「愚策」と言われて、ちょっと傷付いた模様。周囲の隊員はその様子に「ムッ」とした視線を投げ返して来る。なんだろう、一言で場の雰囲気を壊すって、或る種の才能だと思う。


「だから、一緒に行動しませんか?」


 思わず、フォローするような発言をしてしまった俺。それで「一緒に?」と怪訝そうな視線を向けてきた諸橋3等陸尉に説明する。中身としては、


「5層までなら各層の踏破自体は多分1時間もかからないから、先ず俺達が各層のモンスターをクリアして、下へ降りる階段を見つける。それまでは、降りた場所に待機していてもらって、それで階段が見つかったら一緒に下の層へ移動する。コレの繰り返しで行きましょう」


 というもの。至極当然な内容だと思う。ということで、諸橋3等陸尉は、


「う~ん、当初の想定とは違うが……確かにそちらの方が良いな」


 となった。


*********************


 自衛隊員が運ぶ物資は大き目の段ボール50余箱と段ボールに収まらない長細い荷物。ただ、彼等は手押しタイプの運搬車(俗に言う台車)を持ち込んでいるので、水や弾薬の入った段ボールはその台車に積んで運搬することになる。メイズの床は殆どの場合がなめらかでたいら(というか段差とか凸凹の床を見たことが無い)なので、台車での運搬は階段を除いて、非常に楽だった。


 ただ、それでも台車の数が限られるから、隊員全員(25人)が持てるだけ段ボールを持っている。それでも手が足りないので、物資運搬フェイズでは俺達[受託業者]も手を貸すことになる。


 ちなみに【収納空間】持ちの[群狼PT]リーダーは自分のスキルを申告して運搬に協力するという姿勢を示さない・・・・。恐らく便利過ぎる・・・・・自分のスキルを隠しておきたいのだろう。まぁ、その点は俺もハム太の【収納空間(省)】を秘匿しているからおあいこ・・・・というべきか。


 その後、メイズ各層の攻略は戦闘局面フェイズを経て搬送局面ファイズに移り、下の層に降りて再度戦闘局面へ、というサイクルになる。この間、戦闘フェイズでは特別に苦労することは無かった。ただ、各ユニオン・PTとも戦闘スタイルが噛み合わないので、通路事に分かれて戦闘を進めることになる。


 そして、各層のモンスターを掃討クリアする戦闘局面フェイズを終えてから一旦階段に戻り、自衛隊員と補給物資を連れて物資運搬局面フェイズをこなす、という繰り返しを続けて、2時間半ほどで4層最深部、5層へ降りる階段前に到着。


 ここで自衛隊員と物資を一旦待たせて、[受託業者]が先行して5層へ降りる。勿論、5層に陣取る番人センチネル対策だ。


 ただ、ここでどの・・ユニオン・PTが行くかで少し揉めることになってしまった。


*********************


 揉め事の内容は「誰が5層へ降りるか?」というもの。言い出しっぺ・・・・・・は例の「雰囲気破壊神」的な月成凛つきなりりんだった。彼女が言うには、


「こんな大勢で5層に入っても面白くありませんわ。それにお互いに邪魔し合うという恐れもあります。ですから、いずれかのPTかユニオンが先行して5層に入るというのはどうでしょう?」


 とのこと。まぁ後半部分の「邪魔し合う」については、そうかもな、と思う。でも前半部分の「面白くない」については賛成しかねる。こちらは面白い云々など関係なくやっているつもりだ。この思いは俺に限らず[チーム岡本]全員に共通している(と思う)。何と言っても、昨日の悲惨な光景を目の当たりにしているのだ。だからこそ、今の状況魔物の氾濫をいち早く治めたいという気持ちが強い。


 ただ、残念な事に月成の提案に乗ってしまう面々が多いのが現実だった。


「そうだな、全員で掛かるとドロップ分配が面倒だ」


 とは[赤竜・群狼ユニオン]のPTリーダー2人の意見。


「5層の番人モンスターに挑んでみたいな」


 とは[CMBユニオン]の面々。


 ちなみに[DOTユニオン]の[脱サラ会]と[TM研]の面々は、イラついた岡本さんの表情と、[チーム岡本]全体として醸し出す「そんな事言っている場合か!」といった雰囲気に押されて発言はしていない。


 それでも多数決的に賛成3で月成の提案が受け入れられてしまった。


[赤竜・群狼ユニオン]総勢16人、平均修練値:450

[月下PT]総勢8人、平均修練値:650

[CMBユニオン]総勢18人、平均修練値:410

[DOTユニオン]総勢14人、平均修練値:550


 以上が今の戦力の状況。[修練値]的には全員が5層踏破相当の数値に達している。ただ、戦力というのは[修練値]だけで測れるものではない。装備やスキルといった要素も深く関連する。そいう意味で、


(CMBユニオンは少し苦しいのだ。とにかく習得しているスキルが少ないのだ)


 と、ハム太は評価している。確かに【収納空間】と【魔法スキル】を持つ[赤竜・群狼ユニオン]や、全体的にスキルバランスが良く[魔剣:フライズ]を所持する[月下PT]と比較すると、[CMBユニオン]の戦力は一段落ちると思える。


 収拾した[スキルジェム]を買取りやオークションに回していたから、という事情は一時期の[脱サラ会]に通じるものがある。そうやって買取り価格を稼いだからこそ、[管理機構]の内部ランキングが上がり今この場に居るのだけれど、戦力的に見劣りするのは仕方ない。


 ただ、運命の悪戯いたずらというべきか、先行PTを決めるくじ引きでは、その[CMBユニオン]が「当たり」を引く事になってしまった。


「やった! 調布の5層はお宅らに先を越されたから、今回はリベンジだ!」


 と盛り上がっている([脱サラ会]の加賀野さん達は「頑張れよ!」とか言っている)が、正直な所少し不安。ということで、


「バックアップを選ぼう、戦闘には参加しないが『もしもの備え』として」


 と口を出した。


 俺の提案について、[赤竜・群狼ユニオン]は興味が無い様子。


そっち・・・で好きにしてくれ」


 とのこと。「戦闘に参加しない=ドロップ貰えない=興味なし」ということらしい。


 対して[月下PT]の月成は「ん?」という表情をしたが、少し考えて納得した様子。そういえば、彼女は【見極め】という【鑑定】の戦闘特化バージョンスキルを持っているということ。だとしたら[CMBユニオン]の戦力不足を察知しているのかもしれない。結局、


「よくってよ、私達かそちらかの2択になりますわね」

「そうだな、くじを引くのは……飯田、頼むわ」


 ということで、【直感ビンビン男】の飯田が見事に50%を引き当てて、[DOTユニオン]がバックアップとして5層に同行することになった。


「なんか緊張するなぁ」

「リベンジだからな」

「でも、6層で結構頑張ったんだから、今なら」

「俺達だって出来るってところを見せてやるよ」

「オッサンだからって、やる時はやるんだぜ」

「男は40歳からさ」


 などと口々に楽観的な事を言って盛り上がる[CMBユニオン]。彼等を先頭にして[DOTユニオン]も5層へ降りる。


 結果として、このバックアップは成功だった。というのも……。

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