*小金井救出作戦④ 「救出作戦」現場


 小金井緑地公園へ南東側の入口から進入した救出部隊は大中合わせて5台のトラックと軽装甲車3台の編成。ジープの親玉・・・・・・のようなゴツイ見た目の軽装甲車2台が先導し、トラック5台がその後に、そして最後尾は装甲車1台という車列で、園内の細い車両用道路を走る。


 車両用道路は人工的に造成された木々の間を抜けるため、さながら林の中を走っているような気になる。もっとも、チーム岡本が乗ったトラックの荷台は幌で覆われていて、視界が利かない。だから、あくまでも「気になる」だけだ。


「もうちょっとスピード出ないのか?」

「ゆっくりなんですね」

「道幅が狭いから仕方ないわよ」


 とは、同じ荷台に乗り込んでいる岡本さん、朱音、里奈の会話。因みに里奈は「オブザーバー」というよく分からない立場で作戦に参加している。避難者が居るメイズへの案内という役割のようだ。後から分かった事だが、どうも自分達の存在感を少しは出しておきたい[管理機構]と、どうしても作戦に参加したい里奈の思惑が合致したため、そんな立場で現場に居ることができたようだ。


 それはさて置き、確かに3人が言い合うようにトラックの速度は遅い。これも後から知ったのだが、実はこの時、最後尾の軽装甲車両は電話線を敷きながら進んでいたようだ。無線通信が出来ない状況だから、これは仕方ないと言うべきかもしれない。でも、この時の車内では誰もその事を知らないので、相当じれったい・・・・・思いをした。


 これだと、モンスターに見つかるな、と思う。その矢先、ゆっくりだったトラックが一旦停車した。そして、車外の様子がにわかに騒がしくなる。


――から3班は下車、北側を警戒!――

――救出隊を進ませろ!――

――3号車、この場で――

――班長! 発砲許可は!――


 そんな怒号のような声が飛び交う。ああ、また嫌な予感が的中してしまった。


(コボルトチーフとメイズハウンドの集団なのだ)

(30匹ニャン!)


 ちょっと数が多い気がする。救出隊に居る自衛隊員は大き目のトラック2両に乗り込んでいたが、多分50人も居ない。外の声の感じだと、半数が下車したようだ。しかも「発砲許可を!」という声が何度も聞こえる事から、まだ撃てない様子。


 俺の素人考えだが、対モンスター戦を銃火器でやる場合、現状一番良い方法は攻撃レンジの違いを生かす事だと思う。殆どのモンスターは接近しなければ攻撃手段がない。一方現代銃火器は100m以上の射程がある。ならば、幾ら銃弾が効き難いといっても、離れた距離から発見と同時に火力を集中させれば活路はあると思っている。


 ただ、世界的にも希少な「撃てない軍隊」こと自衛隊に於いては、そのアドバンテージは有って無いようなものだ。実際、車外では、


――威嚇射撃! 体育館側には撃つな!――


 という声と共にパンパンとようやく発砲音が鳴り始めた。


――だめです、威嚇効果ありません!――

――しかたない、目標への射撃を許可する、但し水平射撃は禁止だ――

――救出隊を前進させろ!――


 その声と同時に今度は発砲音が度重なる。銃声ってもっとドンッって重い響きなのかと思っていたけど、存外実物はパンパンと乾いた音なんだな。などと場違い(?)な感想が頭に浮かぶ。殆ど同時にトラックがゆっくりと走り出す。そして、頭の中では、


(ちょっと不利っぽいニャン)


 とハム美の【念話】。続いて


(8層相当のメイズハウンドとコボルトチーフなのだ)


 とはハム太。だったら、手伝ってやれば良いんじゃない?


(ちょっと行って来るニャン!)

(程々にするのだ、妹よ)

(ハイ、ニャン!)


 この時、ハム太は俺のリュックの中だが、ハム美はトラックの幌の上に居る。[擬態術カモフラージュ]で姿を隠しているハム美はそのまま空中を飛んでトラックから離れた模様。そして直ぐに、ドンッ、ドンッ、ドンッと大き目の爆発が3回、近くで起こった。


――なんだ!――

――誰だ! 小銃てき弾を撃ったのは!――

――そんなもん、誰も持って来てません!――

――モンスター集団壊滅です!――

――なんで?――


(いっちょ上がりニャン!)

(でかしたのだ!)


 車外の声を聞くと「なんだかなぁ……」と思うけど、まぁ結果オーライだろう。


*********************


 その後、救出隊の車列は体育館の建物を南から回り込むようにして正面側に達した。ただ、もうすぐ目の前に正面玄関、という場所で再度車列は停止。どうも、正面玄関前の駐車場にモンスターの集団が溜まっている様子。


(オークとゴブリンの集団ニャン)

(数は多分40匹前後なのだ)


 ということ。2人(匹)とも【気配察知】という超優秀なスキルを持っているので、殆どレーダーのように、幌の中に居ながら外の感じが分かる。そのため、


(先頭の2台が集団に突っ込んだのだ!)

(里奈様みたいニャン!)


 と言うように、先頭の様子が分かる。それにしても「里奈様みたい」って、アイツ一体何をやったんだ。


「ん? なに、コータ?」

「いや……正面玄関にモンスターが溜まってるらしい」


 思わず向けた俺の視線に気付いた里奈。慌てて目を逸らして誤魔化す。すると、


「そそ、そろそろでで出番な気が――」


 と飯田が声を発し。言い終わると同時に後方の幌が捲り上げられた。


「君たち、協力してくれ!」


 言って来たのは隊の中では偉い部類(階級は良く分からない)の自衛官。それで岡本さんが、


「ようやく出番か、行こう!」


 と応じる。別に出番を待ち侘びていた訳ではないけど、いい加減視界の利かない幌の中は飽きていたので、


「いきましょう!」


 と応じる。


 車外に出ると、状況が良く分かった。体育館前の駐車場には地面にゴブリンと思われる轢死体が数匹分あり、その先で軽装甲車が停まっている。ただ、装甲車の内1台が駐車場脇の木立に突っ込み、更にその車体後部にもう1台が斜めからぶつかる格好でもつれるように停車している。


 よく見ると、木立に突っ込んだ1台は木を圧し折った上でその折れた部分に乗り上げている。そして、浮き上がった後輪が後方から突っ込んだと思しきもう1台の前部に乗り上げている。


「なにやってんだよ……」


 とは岡本さんの呟き。多分この場の全員がそう思っているだろう。


 一方、モンスター集団の大部分は軽装甲車の突入を逃れて一旦散開していたが、徐々に停車した装甲車へ取り付き始めている。装甲車と言うだけあって、直ぐにどうこう・・・・なる事はないと思うが、立ち往生した状態でこれは少しマズイ。


「[受託業者]の諸君は駐車場の確保を頼む!」


 とは、俺達を呼びに来た偉い隊員さん。まぁ、この状況では仲間の乗った装甲車へ向けて銃を構える格好になるので、流石に発砲を許可できないといったところだろう。


「豚顔が4匹、鎧を着たゴブリンが3匹、後は普通ってところか?」

「アーチャーは……、あっちの木立の中に5匹!」

「加賀野さん、春奈ちゃん、アイツらちょっと手強いから注意して!」


 岡本さん、俺、朱音の順で言う。因みに加賀野さんの[脱サラ会]も春奈ちゃんの[TM研]も豚顔オークやゴブリンナイト、ゴブリンファイター初顔合せ・・・・なはずだ。そのため、注意を促す。


「ととととにかく、あああぁっアーチャーを」


 という飯田の声で、朱音や[TM研]の小夏ちゃん、[脱サラ会]の古川さんら遠距離攻撃組が木立の方へ狙いを付ける。結局、メイズの中だろうが外だろうが、まず敵の遠距離攻撃を牽制しつつ、正面を削る戦法に変わりはない。ということで、


「撃ちま――」


 と朱音が声を発する。しかし、その声は横にいた相川君によって遮られた。というのも、


「皆さん、いきますわよ!」

「はい!」


 そんな凛とした声と共に、朱音達の射線を横切るPTが居たからだ。そのPTは全員がどことなく「金持ちオーラ」を漂わせた[月下刀葬PT]。リーダーの月成凛つきなりりんを先頭に、8人全員が武器を手にオークやゴブリンの集団に肉迫していく。その姿は鮮烈でかつ美しい。でも……向こうの木立からアーチャーに狙われていますよ。


「危ない!」


 俺の声と、ゴブリンアーチャーが矢を放つのは殆ど同時だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る