*小金井救出作戦③ 状況進行
添付文章は2021年2月12日に自衛隊統合幕僚監部に於いて非公式に開かれた査問委員会に提出された書類の抜粋である。書類は当時陸上自衛隊第一師団副師団長であった高橋陸将補による事件当時の報告書と通信記録を時系列的に再整理したもので、非公式査問委員会に於ける重要な判断根拠書類となったものだ。
なお、この文章を含む[小金井事件]及び[府中太磨霊園事件]の関連情報は2021年3月に防衛省内部協力者の手によって我々の元に届いた。ただ、機密情報であるにも関わらず容易く流出した点に不審を覚える。日本国政府によるカウンターインテリジェンスの恐れが高いと思われる。
情報流出に関与した内部協力者は現在、同じ部署役職で引き続き職務を継続しているが、当方からの接触は今後一切行わないものとする。
*********************
12月25日
10:24
統合幕僚本部より96式装輪輸送車(A型)への40mm自動てき弾銃用の弾薬搭載許可を得る。同時に使用については統合幕僚本部の指示を仰ぐという内容を受令。
10:26
前衛指揮所付き通信要員により武蔵野浄水場に設営した連絡基地へ、上記件を伝達。
10:30
所定の陽動作戦開始を発令
・西口方面A小隊:82式指揮1両・96式装輸A1両・96式装輸B3両・隊員48名
・北口方面B小隊:82式指揮1両・96式装輸B4両・隊員48名
・前進通信中継隊:
予備部隊として
・C小隊:96式装輸A2両
・D小隊:96式装輪B2両
は前衛指揮所に待機
10:45 鈴木町交差点に電話線中継基地設置
・前進通信中継隊は同地にて待機
・A小隊、B小隊、分離して陽動行動開始
10:50 A小隊より
・この時点での規模は約20。メイズハウンドをメインとした集団
・隊員を下車させず、そのまま行動を継続するよう指示
10:52 B小隊より
・メイズハウンドとコボルト、ゴブリンの混成集団で数は40
・A小隊同様に下車せず行動を継続させる
11:01 A小隊より報告あり
・江戸歴史民俗資料館ゾーン内200mで周囲を敵性M集団に包囲される
・電話線破断の恐れありと判断し、小金井街道まで後退を命じる
11:03 A小隊との電話通信断絶
・ただし、鈴木町交差点の前進通信中継隊からA小隊健在の報あり
・以後通信を光モールス信号に切り替える
・A小隊は低速にて前進と後退を繰り返すよう指示
11:05 B小隊より報告
・小金井公園通りへ進入
・前回報告時の敵性M集団は数を60に増やして鈴木街道を追走中
11:06 B小隊より報告
・小金井公園通り入って直ぐ、花小金井南町の民家にて人影を発見
・下車調査の要請を受け、部隊には待機を命じて統幕本部へ連絡
11:08 B小隊より報告
・公園通り前方の住宅密集地に敵性M集団数50を発見
・部隊後方、鈴木街道方面から約70の敵性M集団接近
・退路が無いため車載5.56MINIMIの発砲許可を求める
・発砲を待たせて、統幕本部へ連絡
11:12 統幕本部より連絡
・隊員の下車調査を許可
・ただし、車載5.56MINIMIの発砲許可は得られず
*高橋陸将補は、この時点で40mmてき弾については統幕本部にて引き続き検討中と認識している。
・B小隊へ下車可能を伝達
11:14 B小隊と電話通信断絶
・前衛指揮所にて遠方の発砲音を確認、ただちに統幕本部へ通報
・バックアップのC小隊へ出動を命じる
11:15 作戦定刻により武蔵野浄水場から「露払い部隊」発進の連絡あり
・露払い部隊:16式機動戦闘車2両、96式装輸A型3両、82式指揮1両
・C小隊(96式装輸2両、隊員16名)B小隊の救援に出発
11:16 A小隊より報告(前進通信中継隊経由)
・目視可能な敵性Mが200を超えたと報告
・車載5.56の発砲許可、及び40mm自動てき弾銃発射許可申請
・待機させて、統幕本部へ打診
11:20 統幕本部から連絡
・車載5.56の発砲許可を得る。但し銃の仰角は水平マイナス10度に制限。
・但し40mmてき弾は「事態の切迫度が高くない」として却下
・ただちにA小隊、C小隊へ発砲許可を伝達
11:21 A小隊、小金井緑地公園(東側)に向けて発砲開始
11:22 C小隊より報告
・B小隊と合流、目視できる敵性Mは120以上と報告あり
・更にB小隊に負傷者多数の報告あり
・住宅地の人影は敵性Mを人と誤認した模様
・B小隊の負傷者を後送し、部隊は小金井公園通りに留まるよう指示
・BC小隊、南西方面に向けて発砲開始
11:25 露払い部隊より報告
・警戒ゾーン進入後600m前進した五日市街道、梶野交差点付近で多数の敵性Mと遭遇
・数は約200
・車載5.56MINIMIと40mmてき弾の使用を求める
・発砲を待機させ、部隊にそのまま低速で東進を命じる。
11:27 統幕本部から連絡
・陽動状況の確認を求められる
・3方面で合計600前後の敵性Mを発見したと報告
・統幕本部から「救出作戦」開始が伝えられる
・前衛指揮所からは40mmてき弾銃の使用を再度要請
11:30 救助部隊、武蔵野浄水場を出発
・救助作戦部隊:3 1/2tトラック3両・1 1/2tトラック2両・軽装甲機動車3両隊員46名・[受託業者]56名・オブザーバー1名
11:35 前進通信中継隊から連絡
・濃霧の発生によりA小隊の安否不明
・ただし、発砲音多数(てき弾発射音も確認された)
・濃霧への接近強行偵察の提案あり
・前衛指揮所判断にて却下、引き続き待機を指示
11:36 前衛指揮所から統幕本部へ連絡
・濃霧発生を高脅威度M出現として報告
・武器使用に関する判断を前衛指揮所に渡すよう要請
・統幕本部、判断を保留
11:41 救出部隊から連絡
・敵性M約30と遭遇
・救出経路確保のため、下車戦闘及び小火器発砲の許可要請
・救出経路確保のための最小限の火器使用を許可
11:45 前進通信中継隊から連絡
・濃霧消滅と同時に視程戻る
・A小隊壊滅の模様
11:46 救出部隊から報告
・体育館到着
・救出活動開始
11:47 前進通信中継隊から連絡
・A小隊壊滅を確認
・A小隊は96式装輪2両で警戒ゾーンを離脱した
・死傷者多数
・警戒ゾーン内にも多数の負傷者が残留している模様
11:48 前衛指揮所から統幕本部へ報告
・前衛指揮所から応援として96式装輪A型2両のD小隊発進
11:50 前衛指揮所から統幕本部へ報告
・高橋陸将補から統幕本部へ「事態切迫」を理由に40mmてき弾銃の使用に関する現場判断を通知
11:55
・D小隊、鈴木町交差点へ到着
・警戒ゾーン内へ突入開始
・高橋陸将補より40mmてき弾銃発砲許可発令
・発砲許可について統幕本部へ伝達
*高橋陸将補によれば、この時統幕本部から明確な中止命令は無かった。
12:05 「露払い部隊」より再度の発砲許可要請
・高橋陸将補より発砲許可発令
12:15 救助部隊の警戒ゾーン離脱を確認
12:17 「救助作戦」状況終了を発令
・体育館に取り付いた一部車両を除く、各部隊車両を速やかに撤収させる
12:30 「消滅作戦」への移行を発令
・メイズ内設営部隊、物資と共に武蔵野浄水場を出発
*********************
[小金井事件]における[救出作戦]段階での損害は、装備については82式指揮1両、96式装輸2両の中損。隊員の損失は38名(内死者23名)であった。隊員の損失は下車調査を行ったB小隊と、濃霧に晒されたA小隊に集中している。その中で特筆すべきは、A小隊の96式装輸に乗車中であった隊員が錯乱したように車内で発砲を行った点だ。
直前に濃霧が出現していることから、錯乱発砲の原因は
現在、内閣法制局、国家安全保障局、防衛省内法制委員の3者によって、[乙状況]発生中の武器使用要件緩和が検討開始されたことが確認されている。この武器使用要件緩和が、対テロ作戦時の武器使用要件緩和に繋がる可能性は非常に高い。そのため、何等かの妨害工作が必要と思われる。
当該事件において指揮命令系統を乱したとして査問を受けた高橋陸将補は、陸上自衛隊第一師団副師団長の任を解かれ、陸上総隊預りとされた。ただ、貴重なモンスターとの実戦指揮経験者として、今後創設されるメイズ特務部隊の指揮官に抜擢されることに内定しているようだ。
今後は高橋陸将補に対する不満度測定を行い、可能ならば協力者として取り込むべく接触を行うようにする。
最後に、一連の情報取得活動中、王主任に不審な行動がみられた。そのため、本報告は王主任を介さず直接統合情報参謀本部の李少将へ報告するものとする。
以上、報告者:統情四局主任李経世
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます