*小金井救出作戦① ブリーフィング


「今回の作戦は段階的に2つの達成目標があります。つまり、目的を別にした作戦が連続するという形です。そのため、便宜上第1作戦を[救出作戦]、第2作戦[消滅作戦]と呼称します。よろしいですか? 先に進みますよ……まず[救出作戦]については、皆さんも既に報道等でご存じの通り、緑地公園内の市立体育館に避難した人達の救助が作戦目標なります。この目標について――」


 森岡副隊長の説明は要約すると次の通りだった。


 まず第1目標の救出をメインとした救出作戦について。これは、まぁ分かる・・・内容だった。


 花小金井駅の南側ロータリーに集合した部隊が西と北から警戒ゾーン内に進入する。具体的には、緑地公園の西口(昨日チーム岡本が大型バスで脱出した場所)と北口(俺と朱音と飯田が最初に緑地公園内に進入した場所)を目指す格好だ。


 この2部隊は陽動部隊ということになる。警戒ゾーン内部のモンスターを西と北に出来るだけ惹き付けるのが目的となる。この陽動部隊の行動開始がこれから30分後の10:30。


 続いて、武蔵野浄水場に待機している別部隊が五日市街道を進み、東から警戒ゾーンへ進入。この部隊の役割は後続する救出部隊の「露払い」だ。そのため、この部隊は敢えて進行速度を落とし、ゆっくりと五日市街道を西進する。


 ちなみに、俺達チーム岡本は昨日緑地公園内で散々モンスターと戦ったため、無意識的に「モンスターは緑地公園内で発生している」と思いがちになってしまうが、その認識は正しくない。「魔物の氾濫」は市立体育館内のメイズ中心として、地形に関係なく一定範囲で起こっている。


 そのため、五日市街道は「魔物の氾濫」領域を東西にぶち抜くように通っている重要道路ということになる。ここを遮断して守り抜けば、少なくても領域南半分のモンスターは救出作戦の障害にはならない。


 自衛隊は勿論その点を踏まえていて、この五日市街道を進む部隊は新鋭の機動戦力を投入するということ。その「露払い部隊」の行動開始は11:15となっている。


 そして、真打の「救出部隊」は露払い部隊の後方を15分遅れで出発。緑地公園の南東側にある入口から内部へ突入し、そのまま市立体育館に乗り付けて内部の避難者達を救助し速やかに撤収する。という段取りだ。


「救出作戦は12:00を終了目標時刻としている」


 ということだ。そして、この作戦に於ける[受託業者]の役割は、救出部隊への随伴になる。先導する自衛隊部隊に随伴して、救出部隊の進路上に居るモンスターを掃討するのだそうだ。


 まぁ、ここまでなら分かる。避難者の周辺で銃火器を使用するのは危険と言えば危険だ。それならば、最初から銃火器を持てない・・・・[受託業者]が受け持てば良い。合理的な判断だとも思う。


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 しかし、救出作戦の次に行われる作戦に関しては疑問があった。集まった[受託業者]達のどよめきも、次の作戦の説明で大きくなった。というのも、


「救出作戦後、皆さんにはメイズ内に入って頂きます。目的はただ一つ、一番深い層に到達し、メイズを消滅させることになります」


 というのが、次の作戦「消滅作戦」の概要だったからだ。


 多分、この場に集まった[受託業者]の中で、メイズを消滅させることが出来る、と知っている人は少ないと思う。チーム岡本は以前[北七王子メイズ]を消滅させているが、その事実は[管理機構]によって「他言無用!」と強く口止めされている。そのため、律儀にもチーム岡本はその事実の秘密を保っている。


 ただ、そんな事を知らない他の[受託業者]は、


「一番深い層って、どこまであるんだよ」

「消滅ってどうやるんだ?」

「自衛隊の部隊は一緒じゃないのか?」

「メシとか便所とかどうなるんだよ!」


 などという声を上げる(主に一部のPTだけだったけど)。それらに対して森岡副隊長は、


「推定では15層。消滅は、一番深いに層に存在する[魔坑核]というクリスタル状の物体に触る事で完了します。勿論、自衛隊部隊も同行しますし、5層と10層に補給拠点を設営します」


 と答えた。消滅に関する情報は以前チーム岡本が事情聴取に応じて喋った内容がベースになっている感じだ。そして、作戦中の補給や糧食の手当てなどについて説明が移るのだが……俺の疑問はそこじゃない。


 たしか、大輝の話やハム太の話では「魔物の氾濫」は、それを引き起こしたメイズの中でモンスターを間引けば治まるはずだ。そう聞いた記憶がある。だったら、態々わざわざ15層なんて自衛隊の教導部隊でも撤退を余儀なくされた層へ挑む必要なんて無い気がする。


(いや、実は吾輩もそう思っていたのだ。でも、どうやら違う・・ようなのだ)


 とここで、ハム太の【念話】が頭の中に割り込んで来た。


(昨晩遅くまで米国から配信された動画を見て気が付いたのだ――)


 どういうことかと言うと、「魔物の氾濫」は原因メイズ内部でモンスターを間引けば終わる、というのはハム太が居た世界・・・・の常識だ。しかし、昨日の深夜から今日の早朝にかけて米国で行われた作戦(ハム太はその様子を一般人が望遠で撮影した動画中継をずっと見ていたらしい)では、部隊がメイズ内に突入したと思われる時間から、数時間経過しても外でのモンスターのリスポーンは治まらなかった、ということだ。


(不可解なのだ……どうもメイズ側もこちらの世界・・・・・・に出現して色々変わったようなのだ)

(確かに【操魔素】とか[特殊能力]とか、聞いた事のない・・・・・・・ものが存在するニャン。お兄様の推論が正解な気がするニャン)


 もしそうだとしらた、メイズがこちらの世界・・・・・・に進出(?)する際に仕様変更・・・・を掛けてきた、ということ。色々とややこしい。


(まぁ、頑張れば15層は何とかなる……のだ?)


 いや、そこは疑問符を引っ込めて欲しいところだよ。


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 作戦説明が一通り終わった後、俺達[受託業者]集団は2台の自衛隊仕様トラックに誘導されて、その荷台に乗り込んだ。その間、目で追って人数を数えてみたところ、合計55人。加賀野さん曰く「9PT56人だな」ということだ。思わず自分をカウントするのを忘れていた。


 まぁ、それはさて置き、俺やチーム岡本の面々は他の[受託業者PT]との交流が殆どない。ハム太の存在が大きいため、他のPTと情報交換をする必要性が低いのが原因だと思う。その一方で、加賀野さんの[脱サラ会]や春奈ちゃんの[TM研]はそれなりに交流がある様子。なので、色々と教えてもらった。それによると、今回集合したPTは以下の通り。


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[赤竜第1PT]8人

[群狼第1PT]8人


 2PT合わせて[赤竜・群狼ユニオン]というところ。


 彼等は、例の[赤竜・群狼クラン]の主力PTの模様。彼等のクランの末端PTが内部に取り残されているらしいので、お情けで出てきたのか、報酬として提示された特典につられたのか分からない。


 あと、群狼第1PTのリーダーはテレビで見たことがある。捏造編集で里奈と恋愛談義をしていた風にされた対談相手だ。悔しいが、中々のイケメン。ただ、目つきは何と言うか、余り良い印象を受けない。「影がある」と表現するべきか、何を考えているのか分かりにくい感じがする。


 ただ、実力は国内最大規模クランの主力PTだけあってそれなり・・・・の様子。少し前に[脱サラ会]が挑戦して退却した[国立西駅前ビルメイズ]の5層番人センチネルを先週半ばにクリアしたそうだ。そのためなのか、ハム太の見立てでは全員の[修練値]がほぼ450前後ということだ。


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[調布倶楽部PT]6人

[勝鬨丸PT]6人

[吞兵衛ズPT]6人


 こちらの3PTは[CMBユニオン]と名乗っているが、実は面識があるグループ。というのも、前回[調布駅前ビルメイズ]の5層に挑戦した際に、ヤンキーPTと揉めていた面々が彼等だった。あの後、チーム岡本を含む3PTユニオンが5層を攻略したため、数日前から活動を6層に移したということ。結構熱心に通っているらしく、[修練値]の平均は410程度になっている。


 最近顔を合わせたばかりなので、当然向こうもこちらを覚えており、軽く挨拶を交わす感じになる。


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[月下刀葬PT]8人


 そして最後はユニオンを組まない単独PTで、その名も[月下刀葬]……中二病かよ、という名前のPTだ。ただ、このPTが多分一番実力がある感じ。これはTM研の秀才キャラ相川君の情報だが、この[月下PT](「刀葬」の部分は省略でいいだろう)は成成学園内メイズを主な活動現場としているらしい。


 実は成成学園内メイズの情報は極端に少ない。これは私立学園の私有地内に固定化されたためで、メイズそのものは[管理機構]によって公開されているが、そこに辿り着くには成成学園の敷地内への入るための許可が別に必要になる。昨今の新型コロナウィルス流行の煽りを受けて、やれ「PCR検査の結果を出せ」だの「身元保証書を出せ」だの「誓約書を出せ」だのと色々規制が煩い。


 その結果、極限られた人間しかメイズに入ることが出来ず、実質的に成成学園を運営する学校法人月成会のプライベートメイズのようになっている。


 その成成学園内メイズを主たる活動場所としている[月下PT]は、なんとリーダーの月成凛つきなりりんが月成会の理事長の孫娘だという。なるほど、そう言われて見ると、どことなく気品を感じる細面な美人顔だ。多分大学生だと思うけど、どことなく「生徒会長」的な雰囲気を纏っている。また、PTメンバーもリーダーを含め8人中4人が女性と、ちょっと異色。ただ、それ以外の男性メンバーも含めて、やっぱりどことなく「金持ちっぽい雰囲気」を漂わせている。何処となく「マー君」に通じるものがある。


 しかし、見た目は金持ちオーラを出していても、実力は確かな様子。ハム太の【鑑定(省)】によると、全員[修練値]600越え。リーダーの月成凛に至っては721と、俺や飯田よりも多い。


(スキル習得のバランスが良いのだ。特にあの女性は【見極め】というスキルを持っているのだ。これは【鑑定】の戦闘特化バージョンなのだ)


 ということだった。


 ただ、余りにもジロジロ見過ぎたせいか、その月成凛氏から、キッツイ視線で睨み返されてしまった。正直ちょっとイイと思ったのは内緒。


 ちなみに、チーム岡本を含む[脱サラ会]と[TM研]の3PTは今回から[DOTユニオン]と名乗ることにした。Dが脱サラ、Oは岡本さん、TはTM研だ。実に安直だ。

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