*2話 チーム岡本全員集合!


 自宅マンションに到着したのが6:00。約束では6:30にお迎えが来ることになっているから、シャワーとかは無理だな、と諦めていた。しかし、マンションに着いて直ぐ、国家安全保障局の吉池さんから電話があり、


『作戦開始時間が変更になったので、迎えは8:00になります』


 とのこと。ちょっと肩透かしを食らった気分になる。しかも、俺とほぼ同時刻にマンションに到着したミッキーさん(ミリタリーショップ:プラトーンのオカマ)に至っては、はるばる横浜からジープタイプの軽自動車を運転してやって来たので少し気の毒な気持ちになる。


 ちなみにミッキーさんはオーバーホール中だった朱音のリカーブボウを仕上げ、更に俺用に[陽炎]という新モデルのUSカタナソードを持って来てくれた。朱音の弓はともかく、俺の場合は既に太刀[幻光]を入手してしまったので微妙だったが、折角の事なので有難く頂戴した。ハム太の[収納空間(省)]で保管することにする。お値段が340,000円と、予備にするには勿体無い価格だが、予備が木太刀だと頼りないので安心を買うつもりで頂戴しておいた。


 その後、俺は自宅でシャワーを浴びて着替えを済ませ、全員分の朝食を準備して食べさせることが出来た。


 この間、マンションに泊まった4人の雰囲気が少し面白かった。まず、里奈と朱音の2人については、以前から打ち解けない空気感が有ったが、それが改善していた。「里奈さん」「朱音ちゃん」と呼び合う程度になったので、何と言うか胃の辺りが楽になった気がする。ただ、


「コータ先輩、黙って出て行くなんてひどいです!」

「そうよ、アパートで寝るつもりなら最初からそう言えばよかったのにね」

「ほんとそうですよ、コータ先輩の勝手に自己完結するところが良くないです」

「全くだわ、ダメダメね」


 と、2人が結託して俺に非難の矛先を向けるようになった。仲良くなったのは良いが、これはこれで面倒臭い。これなら、前の方が良かったかもしれない。


 一方、コミュ障の2人(飯田と片桐さん)は、また違った感じの空気感を醸している。昨日までは「恋人同士なのかな?」と疑問符が付く感じだったが、今朝の感じは……クソッ、くそっ……。


 少し後になってから岡本さんと俺の2人で飯田を締め上げて・・・・・(あくまで比喩表現です)聞いたところ、どうも、飯田は25歳のクリスマスイブの夜に大人の階段を登ったらしい。他人の家で何やってんだよ! という俺の第一声は多分正当な抗議だろう。


 なんでも「魔法使いになりたいので30歳まで純粋でいたいです」という飯田だが、魔法スキルを獲得したことにより晴れて【飯田ファイヤー】と【飯田ウインド】の使い手になった。それで「もう魔法使いになったんだから――」ということで片桐さんに食べられてしまったらしい。犯人は美人系コミュ障コスプレイヤーの片桐さんだった。クソッ、くっそ……くそぉ!


 ちなみに、この2人のムフフな感じに当てられた・・・・・結果、里奈と朱音が友情(?)を深めることになったらしい。一方、俺は冬の寒さをより一層強く感じるようになった。


*********************


2020年12月25日 9:30

 花小金井駅南側ロータリー前衛指揮所


 昨日の話では救出作戦は7:30開始の予定だった。だが、実際にはまだ始まっていない。そのため、集合したチーム岡本は花小金井駅の南側ロータリーに設営された自衛隊の前衛指揮所で足止めを食っている。OD色オリーブドラブのタープテントで、パイプ椅子に腰かけながら、お呼びがかかるのを待っている状態だ。


 ただ、十分な説明がないので事態が良く分からない。ということで、[擬態術カモフラージュ]という[魔術]で姿を隠したハム美(ちょっと前に魔力全回復して復活した)が基地内をフヨフヨと浮きながら偵察(?)したところ、


「緑地公園内部の偵察情報が十分に揃ってないニャン。それに、作戦について外野から色々言われているみたいで、練り直しをしているみたいニャン」


 とのこと。


 ちなみに里奈は到着後直ぐにファミレスの方(そこが各行政機関担当者の連絡拠点になっている)へ行ってしまったから、この場所には居ない。でも、居なくて良かったと思う。というのも、朝のお迎え・・・・・が来た時点で里奈は結構焦っていたからだ。勿論、メイズ内に避難している子供たちを想っての焦りだ。ハム美の説明では、


「メイズから出る直前に[昏睡]の魔術を子供たちに掛けたニャン。あれで12時間はぐっすりお休みニャン。その間の代謝も下がるから、まだまだ大丈夫ニャン」


 という事だが、メイズから出たのが14:30頃として[昏睡]が解ける12時間後は深夜2時だ。既にそこから7時間は経過している。幾ら代謝が下がっていたとしても、空腹だろうし喉も乾いているだろう。そう思うと、里奈としては居ても立っても居られないらしい。そのため、花小金井駅に着くなり、


「ちょっと状況を確認してくる!」


 と言って連絡基地と化しているファミレスの方へ走って行き、それっきり帰ってこない。


 勿論、メイズ内に残された子供たちが心配なのは、俺を含めてチーム岡本全員に共通している。岡本さんに至っては、長男琢磨君のクラスメートでもある訳で、心配という面では里奈に勝るとも劣らない。


「『パパ、みんなを助けて』なんて言われたらな……」


 そう言う岡本さんは昨日とは打って変わって、厳つい[受託業者メイズ・ウォーカー・岡本]の装備になっている。[試作甲式2型四肢防具]と[試作甲式1型体幹装甲]、それに催涙スプレー搭載型のポリカ盾と[飯田式フランジメイス2号]という完全装備だ。その恰好でメイスの尖った先端をアスファルトの地面にゴンゴンと打ち付けながら少しイラついている。コワイ。


 岡本さん一家は、昨晩自宅アパートで合流を果たしたらしい。心配だった琢磨君と仁哉君の精神状態は問題無く良好。琢磨君はクラスメートを心配しているが、仁哉君に至っては無邪気に「パパ、カッコ良かった」と少し興奮気味であったという。


 その後、子供たちを寝かしつけた後で夫婦の会話になったらしいが、奥さんはやっぱり「行ってほしくない」とのことだった。だから岡本さんも「行かないでおこう」と思っていたとのこと。だが、寝付けなくて起きて来た琢磨君に「みんなを助けて」と言われて、決意を一転。今日の参加を決意したとのこと。


 俺としては岡本さんが一時的でも「行かない」という選択になり掛けていた事が意外だった。でも、多分家族を持つと考えが変わるのだろう。普段のように無理や無茶をしないメイズ潜行と、今日の救出作戦は本質的に危険度がまるで異なる。そこへ進んで飛び込むという決意は、中々重たいようだ。寧ろ「当然行くだろう」と思っていた俺達の方が、思慮が浅いのかもしれない。


「思い切りの良さで突っ走るのも、悩み考えた末に進むのも、結局同じなのだ!」


 とはハム太。含蓄がんちくある事を言ってそうで、実は中身は適当な発言だ。


「ただ、昨日の状況とは違うのだ。みんな、強くなっているのだ! それは保証するのだ!」


 そんなハム太はそう言う。まぁ、しかたなく実力以上の相手との戦闘をこなした訳だから、修練値などが上昇しているのは事実。ということで、現在のチーム岡本はこんな感じだ。

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