*バトル・in・小金井 里奈の戦い編 奮戦! 救出作戦
現状、何がどうなっているのかさっぱり分からない。もしもさっきのメイズハウンドのようなモンスターが外を徘徊しているなら、外で遊んでいた子供たちが危ない。でも、避難するにしても何処へどう行けばいい?
学校の行事だという岡本さんの話を踏まえれば、多分貸し切りバスで来ているはずだと思う。でも、バスの姿は緑地公園正面には無かった。ということは、歴史民俗資料館の方に停まっているのか? そうだとしても、そこまで移動する手段がない。[管理機構]のライトバンとパトカーがあるけど、全員乗せる事はできない。ならば歩きでバスまで向かい、それに乗り込んで退散するのが――
(里奈様、全員引き連れての移動は無謀ニャン)
え? なんで考えてることが分かるの?
(【念話】というスキルニャン。そもそも[魔物の氾濫]が発生している最中に外を出歩くのは、今の里奈様には無謀ニャン。それに[魔物の氾濫]範囲は
を中心に半径……こっちの単位で大体1kmニャン。その範囲を大勢の子供を引き連れて無事に移動するのは不可能ニャン)
じゃぁ、どうすれば良いのよ?
(メイズの中に避難するニャン!)
は? それって、危険の真っただ中に飛び込むことになるんじゃ……、
(大丈夫ニャン。外はモンスターが階層の区分け無くうろついているニャン。でも、メイズの中は1層には1層のモンスターしか出ないニャン)
なるほど……と納得する。信じていいのか? という疑問を持つべきかもしれないけど、今の場合そんな疑問を感じる余地が無かった。じゃぁ、子供たちを連れてメイズの中に避難すれば良いのね!
(そうニャン。理解してくれて助かるニャン、流石里奈様ニャン)
そうと決まれば話は早い。
「安井巡査部長、柿崎さんを連れてメイズの中に」
「え? な、なにを言っているんだ、君は」
「中の方が安全なんです。とにかく、柿崎さんを連れてメイズの中へ。階段を降りて直ぐの所に居てください。私は子供たちを連れてきます」
「い、いや、待ちなさい、五十嵐さんとか言ったね。そんな危ないことが出来るわけないじゃないか!」
だめだ、全然話が早くなかった。
見た目50代手前の安井巡査部長。多分常識人なんだろう。まぁ、普通に考えれば、メイズの外より中の方が安全ということはあり得ない。でも、ここで押し問答しているのも時間が惜しい。と、ここで安井巡査部長が、
「子供たちをこの体育館に避難させる。私が行くから、君は柿崎を頼む!」
決心したように言う。でも、
(無謀ニャン)
私もそう思う。とそこへ、
「
と柿崎巡査。オイオイ……、
「ダメだ、お前は大人しくしていろ。それに右手のその怪我じゃぁ拳銃だって撃てないだろ」
「安さん、俺、左利きですよ」
「お前――」
割とどうでもいい会話が続く。もう、置いて行こう。
(それが良いニャン)
ハム美も同意してくれたことだから、そうしよう。
私は極力気配を消して体育館の入口へ向かおうとする。と、その時、用具保管室の扉が突然開いた。不意の事だったので、熱い正義感で口論をしていた2人の警察官と、そぉっとこの場を離れようとしていた私、その場に居た全員の視線が扉に集中する。そんな中、勢い良く開いた扉の向こうには、
「あれ? 係長……どうしたんですか?」
「何かあったんですか?」
こちらを見て驚いた顔になった大島さんと水原さんの姿があった。
*********************
初期調査開始から
これは後から聞いた話だけど、なんでも、今回の初期調査を受けた群狼第3PTの実力では2層を踏破する事が出来なかったようだ。それ自体「なんで?」と思うが、どうも[管理機構]からの協力要請を受けた[赤竜・群狼クラン]側が、PTのメンバーをつい最近[受託業者]になったばかりの新人達に入れ替えて対応した、とのことだ。
そう証言したのは[群狼第3PT]の面々。聞けば6人全員が大学2~4年生で、インカレサークルで知り合った面々だという。大金を稼げるというメディアの報道に煽られて[受託業者]として[赤竜・群狼クラン]に加入したものの、2層へ行ったのは今日が初めてという面々だった。普段は[国立西駅前ビルメイズ]の1層で場所取り交代要員をやっているらしい。
まったく、総務の渉外担当は何をやってるんだ、と思うことになったが、今はそんな事はどうでもいい。
姿を現した大島さんと水原さんに、手短に状況を伝える。そして、この2人を伴って私は体育館を飛び出した。後には「君たち、待ちなさい!」と大声を上げながら安井巡査部長が続く。
*********************
体育館から[憩いの広場]の端までの距離は約200m。その距離を一気に走る。普段よりも身体が軽く、走る速度も速く感じる。ハム美が言うには[魔坑外套]というものの恩恵らしい。メイズ経験者に備わる能力で、本来はメイズ内でのみ有効だが[魔物の氾濫]が発生した状況では地上でも有効になるとのこと。
その上、今はハム美が、
([スキル
とのことで、一時的にスキルの効果を付与されている。
そのため、同じくメイズ経験者である現役自衛官の大島さんや水原さんも足が速い。一方、年配警察官の安井巡査部長は随分と引き離されて……ああ、遊歩道の辺りでゼェゼェと肩で息をしながら立ち止まってしまった。[魔坑外套]を持たない人にはスキルの効果は発揮されないという話だし、まぁ仕方ないな。
ちなみにハム美はどういう訳か宙に浮いた状態で私の斜め前を飛んでいる。([飛行魔術]ニャン)ということだ。私の日常と常識は何処かへ飛んで行ってしまったらしい。
子供たちの集団は直ぐに視界に入った。小学校2年生か3年生くらいの子供たちが大体60人、2クラス分か? 引率の先生の姿も3人ほど見える。男の先生1人に女の先生2人だ。しかし、
「ヤバイぞアレ!」
「援護します!」
大島さんと水原さんが言うように、子供たちの集団に6匹ほどのメイズハウンドが接近している。今は引率の先生3人が子供たちを背に
「きゃぁ!」
女の先生が1人、メイズハウンドに飛び掛かられて地面に押し倒された。それを男の先生が何とかメイズハウンドを引き離そうとするが、その背中に他のメイズハウンドが飛び掛かろうと駆け寄っている。
「係長、アッチの3匹を!」
「わかった!」
大島さんの指示に応じて、私は子供たちの集団を回り込むようにして3匹の前に割って入る。少し離れたところでは、水原さんが「体育館へ、早く!」と叫ぶ声。私も背後の子供たちへ、
「体育館へ行きなさい! あそこのお巡りさんが連れて行ってくれるから!」
と言う。ちなみに「あそこのお巡りさん」とは安井巡査部長の事だ。遠くから、
「君たち、早くコッチに来なさい!」
と大声を上げている。
(来るニャン!)
一方、ハム美は【念話】スキルとかいう謎スキルで頭の中に直接警戒を促してくる。これ、便利なようで、ちょっと
(コータ様も同じ事言ってるニャン)
あぁそっか、ハム美はコータの……と思い至ったところで、流石に目の前へ集中。3匹のメイズハウンドは私との距離を保つようにしているが、多分同時に飛び掛かって来るのだろう。何となく、雰囲気でそれが分かる。ならば、受けにまわっては後れを取る――
「いやぁ!」
機先を制するために気合と共に打って出る。「後の先」という考え方もあるけど、アレは1対1の場合だ。多対1なら、とにかく攻撃することが肝心。攻勢に出ている間は、とりあえず主導権を握れる。そういう考え方だ。
六尺棒を
残り2匹。
突き込んだ六尺棒をサッと手元に引き戻しつつ体を開く。その勢いで、飛び掛かって来た1匹の横っ面を棒の後端で殴る。カウンター気味に決まった一撃は、持ち手にボキッと骨の折れる感触を伝えてきた。首でも折れたか。
残り1匹。
六尺棒の後端で殴打した勢いのまま構えを
私は
「ギャ――」
[大車輪]の一撃をまともに喰らったメイズハウンドは、中途半端な悲鳴と共に1mくらい吹っ飛んで沈黙。どうにか3匹を斃し切った。
「水原、後ろを頼む!」
「はい!」
「さぁ、今の内に!」
少し離れた場所では、大島さんと水原さんの声が聞こえる。どうやら6匹のメイズハウンドを退けて、子供たちと先生の誘導を始めた模様。ちなみに大島さんと水原さんは伸縮タイプの警棒を装備している。いつの間に調達したのだろう? と思うが、あれなら
今のところ、周囲にはモンスターの姿はない。ただ、[憩いの広場]の起伏の上に新手のモンスターの姿が見える。今度は矮躯に武装を身に着けたゴブリンの一団だ。距離は3~40m、数は5……10……ちょっと多すぎる!
(早く撤退するニャン!)
言われなくても、そうするニャン。……あ、うつった。
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