*バトル・in・小金井! 聖騎士ハム太の序の口


 ハム太が「加勢する」と積極的に戦いに関与する意思を示したのは、多分これが初めてだ。それだけ強敵なのか、背後を突かれつつある状況が危機的なのか、恐らく両方の理由だろう。しかし……こう言っては何だけど、いささか心許ない。両手のてのひらサイズと、ハムスターにしては少し大きく、更にミニチュアサイズの鎧兜に剣で武装していても、結局ハムスターな外見だから仕方ない。


「見くびってもらっては困るのだ! 吾輩、只のカワイイ担当・・・・・・ではないのだ!」


 いや、カワイイ担当だと思った事は、一度もない・・・・・けど。と俺がツッコミを入れる間もなく、剣を抜き放ったハム太は、高く宙へ跳躍。そして、


「喰らえ! 聖剣技[大薙胴おおなぎどう]!」


 高らかと技の名前を謳い上げ、ハムスターサイズの長剣(?)を横薙ぎに振るう。その所作は、必殺技の名前を叫びつつ怪人をなぎ倒す往年の特撮ヒーロー的な風情がある。ただ、繰り出される一撃はとてもリアルだった。


――ゴバンッ!


 鳴り響いた破裂音は俺の奥の手「飛ぶ斬撃」を明らかに上回っている。たとえて言うなら耳元で大型トラックのタイヤが破裂したような? 勿論そんな経験はないけど、それくらいの大轟音だ。そして、ハム太を起点に正面へ扇状に広がった見えない斬撃は、音速を越えた衝撃波と薄雲を伴って、


「ギョバッ!」

「ギョエンッ!」

「ギョベ」


 こちらに向かって距離を詰め始めていた5匹のゴブリンファイターの内、3匹を一撃で血まみれの肉片へと変える。更に巻き添えを喰らった残りの2匹も地面に転がる。一方、後ろで様子見を決め込んでいたゴブリンナイト2匹は斬撃の余波を何とか盾で防いだ格好だ。


「雑魚は減らしたのだ! コータ殿、ナイトを1匹任せるのだ!」


 ハム太はそう言うと、遊歩道の上を物凄い勢いで駆け出す。その速さは、ハムスターのスケール感とは不釣り合い過ぎて気持ち悪いくらいに速い。


 俺は、


「残った2匹を頼む!」


 と背後の朱音と飯田に言いつつハム太の後を追う。格上確定な敵を「1匹任せる」と言ったハム太に対して妙に対抗心が芽生えたのは確かだった。地面を転がって呻き声をあげるゴブリンFを無視してナイトへ肉迫。大八相に構えた[時雨]の攻撃間合いに入る。


 ゴブリンナイトは、盾を頭上に掲げて最初の一撃を防ぐ構え。幾ら体格に優れているといっても、背丈は俺よりも頭1つ低い。そんな相手が盾を被るように構えたら、斬り付ける場所は限られてしまう。恐らく、そうやって一撃を防いだ後に低い体勢から片手剣を突き出してこちらの下半身を攻撃してくるのが、こいつらナイトのやり方なんだろう。だったら、


「[理力]の半分を[力]へ、能力値変換!」


 思わず言葉になって口から出てしまった。別にハム太の影響とか……ちょっと有るかも。さっきの・・・・がちょっとカッコイイと思ってしまったのは内緒だ。


 とにかく俺は【能力値変換】の半分変換で[力]を引き上げて、半身開きの態勢に。そのまま歩法を整えて、左足で思いっきりゴブリンナイトの盾に足刀蹴りを叩き込む。肩から腰、膝から踵に掛けてが一直線になり、体重と突っ込む速度、それに能力値変換の恩恵が上乗せされた蹴りは、


――ドカッ


 という強烈な衝撃を足裏に返して、盾ごとゴブリンナイトを吹き飛ばす。今日は只のスニーカー履きだから、相当足裏が痺れる感じがするが、今がチャンスだ。そう心に決めて一気に間合いを詰める。そして、起き上がろうと藻掻くゴブリンナイトの左脇から斜め上に掬い上げるように斬り付けた。


「ギョェッ!」


 脇構えに変じてからの、下段掬い斬りは脇の下からゴブリンナイトの左腕を断ち斬り、鎧の胸当ての縁をなぞるようにそのまま喉元までを切り裂いて止まる。それと殆ど同時に、


「エイッ!」


 隣で鋭いハム太の気合が響く。どういう訳かゴブリンナイトの頭の上に乗っかった状態のハム太は、その気合と共に長剣を足元の脳天に突き込んだ。その一撃でゴブリンナイトはビクンと感電したように痙攣して、ドウッと地面に倒れる。ハム太は、シュタッっと地面に着地した。


「やっぱり強いんだな、ハム太!」


 と思わず感想を言う俺。対してハム太は、


「吾輩はこのくらい序の口なのだ! それにしても、コータ殿もやはり中々やるのだ。しかし、あの程度の敵は【能力値変換】無しでも斃せるようになるのだ!」


 褒められたような叱られたような…‥いや、ちゃんと褒めてよ。格上だったんだぞ……。


*********************


 俺とハム太がゴブリンナイトを斃した直後、朱音と飯田は手負いのゴブリンファイターにトドメの矢と槍を叩き込んでいた。結果として、12層相当のモンスターはハム太の大技のお陰で問題無く排除することが出来た。その結果、メイズハウンド・コボルトチーフ・ゴブリンファイター・ゴブリンナイトと連戦を繰り広げた遊歩道にはドロップと朱音や飯田の矢が散乱している。


 本音を言えば先へ進みたい。緑地公園内部に入ってから、まだそれほど進んでいない状態だからだ。江戸歴史民俗資料館までの道のりは、まだ800mほどある。しかし、継戦能力を確保するという意味で矢の回収は必須だ。そして矢を回収するなら、ついでにドロップも、という事になる。回収のためには立ち止まらざるを得ない。


 その間、俺は背後を警戒する。先ほど【遠吠え】が上がってからしばらくの間、後方は無音の状態が続いている。しかし、アレだけ派手に(主にハム太だが)戦ったのだから、俺達の存在を見過ごすという事は無いだろう。ここで襲ってこなくても、しばらくは背後を警戒しながら前進しなければならない。それくらいならサッサと襲い掛かって貰いたいくらいだ。


 一方、俺の背後では、ドロップと矢を回収している2人と1匹の会話が聞こえる。


「ははっはハム太さん、こここのスキルジェム」

「それは……おお! 【2属性元素魔法:中級】なのだ、2属性は珍しいのだ!」

「ぼぼ、僕が取っても?」

「習得には修練値が400必要なのだ、でも単属性の中級魔法習得には250必要だから2属性使えて修練値が100お得なのだ、是非習得するのだ!」

「でも、ハム太ちゃん、消費魔素はどれくらいなの?」

「消費魔素は、Lv1は25で固定なのだ。それからLvが上がるごとに20~45まで調節可能なのだ」

「えっ、調節可能なの?」

「詳しいことはハム美に訊くのだ!」

「じゃじゃぁ、とと取ります! ひひ必要な気がすするので」

「習得したら、最初に属性を2つ選ぶのだ!」

「やや闇とかひっひ光とかは?」

「元素魔法に闇属性や光属性はないのだ!」

「そそそ、そうですか……あっ、ななんだか、頭の中にもも文字が!」


 どうやらスキルジェムがドロップして、それが【2属性元素魔法】という魔法スキルだった模様。それで兼ねてから「炎がドーン! 雷ドカーン! 吹雪がビュー!」な魔法を使いたいと切望していた飯田がそれの習得を希望している。飯田はこれまで修練値を消費してこなかったから、400というハイコストスキルでも問題無く習得できる状態だ。本人の希望に適っているなら、良い事だと思う。ちょっとワチャワチャしているけど、多分大丈夫だろう。


 ただ、飯田の言う理由が気になるのも事実。「必要になる気がする」って言っているけど、今の飯田は【直感】スキルが働いている状態だ。つまり、直感的に【魔法スキル】が必要な状況がやって来るということ。……なんか、嫌な予感しかしない。


 そして、俺の嫌な予感はバッチリ当たってしまった。本当にもう、嫌な予感ばかり当たる気がする。変なスキルでも付いているんじゃないだろうか?


 思わず嘆き節になってしまう。というのも、不意に周囲に濃いもやが立ち込めたと思ったら、かなり近くで、


――ウォウォォオォオオオン!――

――ウォォン、グオオオン!――


 と遠吠えが2つも上がったからだ。そして極め付けが、ハム太の、


「しまったのだ!」


 という叫び声。もう、次は何が出てくるんだよ!

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