*24話 満員御礼?調布ビルメイズ ①面倒な展開


2020年12月20日


 今日は調布駅から程近い場所に存在する通称「調布ビルメイズ」へ3PTユニオンで潜行する日。メイズの場所は調布駅から南へ徒歩10分ほどのところ。新しい商業ビルに併設された立体駐車場内に発生、固定化されたメイズだ。


 目標は5層に居る番人センチネル突破になるから、余ほど油断をしなければ、多分問題無い感じになると思う。でも不安が全く無い、という訳でもない。どういう事かと言うと、実はウチのリーダー岡本さんが本日欠席だったりする。


 今週水曜日のメイズ行きをキャンセルした岡本さんだけど、その後連絡があり、奥さんとお子さん2人がインフルエンザに罹ったとのことだった。それで、家族の看病のために今日は来れない、という連絡があった。ブラック飲食業界のエリアMGだった以前の岡本さんからは想像もつかない話だけれど、家族を優先するほうが自然で普通でまとも・・・な判断だ。


 まぁ、本人は「俺経由でみんなに感染が広がったら困るから」と言い訳をしていたが、この機会に十分に家族サービスして欲しい、と思う。


 ということで、今日は[チーム岡本]の岡本さん不在。【戦技(最前衛)】を持った盾持ち岡本さんが居ないので、単独PT行動では俺が前衛を受け持つことになる。その点に多少の不安があるのだけど、


(受けに回らず先手必勝でバシバシ行くのだ!)


 というお気楽なハム太のアドバイスがあるので、今日は「先手必勝の日」と朱音と飯田に伝えてある。


「準備はオッケーかな?」

「は~い」

「大丈夫です」


 更衣室で装備を整え、認証ゲート前に集合した時点で今日の仕切り役[脱サラ会]の加賀野さんが確認の声を掛けてきた。それに[TM研]の春奈ちゃんと俺が答える。そして、3PTユニオンは順次認証ゲートを抜けて調布ビルメイズへ潜行を開始する。


*********************


 内部の様子は他のメイズと余り変わりはない。立体駐車場の造形を写し取ったような内部の様子で、明るさは相変わらず、蛍光灯程度の薄明かりだ。公開されているマップ情報を見る限り、広さは霞台メイズよりも少し狭く、アトハ吉祥メイズと同じ程度。ただ一点、他のメイズというよりも、これまでのメイズと言った方が良いかもしれないが、違う所があった。それは同業者の数だ。


「混んでますね~」

「まぁ2期試験後初めての週末だからね」

「昨日の霞台メイズも浅いところは激混みだったよ」

「そうなんですか」


 思わずそんな会話になるほど、メイズの中は1層入口ホールから混んでいた。ざっと見ただけで15人ほどが所在無さそうにたむろしている。装備や雰囲気、会話の内容から察するに、今日が初メイズといった2期募集[受託業者メイズ・ウォーカー]のようだ。どうも、現場に来たは良いけど、ホールから伸びる3つの通路は先客がいたようで「これからどうする?」的な会話を交わしている。


「あんまり無理して欲しくないですね」

「でも『折角来たから』ってなっちゃうんだよね」

「あ~、分かります。経験ありますよ」


 とは、[TM研]の相川君と[脱サラ会]の加賀野さんの会話。そう会話しつつ、暗に周囲に「経験者が通りますよ~」とアピールしている感じだ。その結果、周りから集まる視線が少しこそばゆい。


「もっとメイズが増えればいいのにな!」

「そう言えば、日本って他の国よりメイズが少ないって聞いたな」

「そんな、国ごとに多い少ないなんてあるのかよ?」

「あ~、でもIMSでもその手の話が出てましたよ」

「へ~どんな?」


 一方、会話の方はその後[脱サラ会]の久島さんと毛塚さんが引き継いでメイズの数が増えれば良い、的な話になる。それに[TM研]の小夏ちゃんが口を挟んだ。小夏ちゃんの言うIMSとは国際メイズ学会のことだろう。流石現役大学生だけあって、アカデミックな話だと思う。


 それで小夏ちゃんが言うには、現在IMSでは各国のメイズ発生・固定状況を人口密集度合の側面から分析する試みが行われているらしい。その途中結果として全世界的な傾向を分析すると、日本のメイズの数は平均値の半分程度、ということだった。人口密集度当たりのメイズ数が一番多いのは中国で、その後にアフリカ諸国、南米諸国と続き、東南アジア、ヨーロッパ大陸、インド、アメリカ、西アジア、日本の順に件数の割合が下がっていくらしい。


「人口密集地における私有地の割合や政府の関与姿勢、私有財産保護の法規制などと相関関係があるんじゃないか? なんて言われていますね」


 なんだか良く分からない話だけど、


「じゃぁ、もしかして見つかっていないメイズが有るかもしれないってこと?」


 と思ったままの疑問をぶつけてみた。


「そうかもしれませんねぇ」

「うっほ、宝の山じゃない」

「いいね~」


 俺の質問に小夏ちゃんは曖昧な返事。まぁ、分析途中ということだし、仕方ない。それにしても、久島さんと毛塚さんの反応は……これだけ混雑した状況だから、分からないではないけど。


 と、そんな会話をしつつ3PTユニオンは2層を通過して3層へ。3層も同じ感じで満員御礼だったので、素通りして4層へ向かった。


*********************


 4層に降りて少し進むとホール状の空間に出る。そこから3つ通路が伸びている構造は、他のメイズとあまり変わりがない。この内のどれかが5層へ通じているのだろう。


 そんな4層ホールだけど、ここにも[受託業者]PTが休憩中の様子でたむろしていた。全部で3PTの様子。ただ、その内の2つのPTは使用感が滲み出た装備をしているのに対して、残り1PTは見るからに新品な感じの、さしずめ「スポーツ用具系装備」といった感じのプロテクター類に身を固めている。


「こんにちは!」

「あ、どうも」

「通路は全部使っている感じですか?」

「そうだね。あと1PTが戻って来てないけど……」


 加賀野さんの声掛けから始まった会話の結果、この場にいる3PTの内2PTと、現在通路内に入っている1PTが4層で狩りをしているとのこと。


「あれ? じゃぁ、そっちのPTは?」

「あぁ? なんだよオッサン?」

「うぜーんだよ、話し掛けてくんなよ、オッサン」


 加賀野さんが言う「そっちのPT」とは新品装備に身を固めた若者ばかりの6人組PTだけど、おお……なんとガラの悪い。加賀野さんがオッサン呼ばわりされてしまった。可哀そう。


 とまぁ冗談はさて置き、6人組PTは全員が20歳そこそこに見える。髪の毛を金色やら茶色に染めてるし、よく見れば全員ピアスをしたり(本物か分からないけど)タトゥーを入れたりしている。最近あんまり見かけなくなったヤンキーという種族かな? と予想してみる。岡本さん辺りが居たら……反って揉めるかも。


 俺がそう考えている内にも加賀野さんと他PTの話は進む。但しヤンキー風PTとは会話が噛み合わないから他の2PTとの会話がメインになっている。ただ、それが面白くないのか、ヤンキー風PTは無視されたと思っているようで、盛んにこっちへガンを飛ばしている。そういうの、笑っちゃうからやめて欲しい。あと、飯田が怯えるのでやめて欲しい。


「こいつら、今日が初めてのメイズだってのに5層に行くって」

「それで、5層はヤバイからやめとけって言ったんだが……」

「うるせぇなぁ。大丈夫だっていってんだろ!」

「……なんだってさ」

「はぁ」


 結局、ヤンキー風PTは今日が初メイズで、狩場が無くて4層まで来たという事らしい。それで、先に4層に居た先輩[受託業者]PTがアドバイスを兼ねて「5層は危ない」と忠告しているのを聞き入れずに先へ進もうとしている、という状況とのこと。


 ヤンキー風PTの面々はハム太の見立て的に修練値が「一桁」だという事。だから、1度もモンスターとの戦闘を経験していない。しかし、その一方で、ガラの悪さからメイズの外では暴力沙汰の経験もあるのだろう。なまじ腕に覚えがあるとこんな風にこじらせ易いのかもしれない。


 ちなみに、2PTの方は現在通路で狩り中のもう1PTと共に合同PTユニオンを組んで数日前に5層に挑戦したらしい。しかし、例のコボルトチーフの【統率】効果を持つ[遠吠え]から始まったメイズハウンドラッシュを処理できずに撤退したということだ。そういう背景があるからか、


「もしかして、おたくら5層狙い?」


 という質問を投げ掛けてきた。それに対して加賀野さんは「そうです」と素直に答える。その答えで2PTの面々は少し雰囲気が変わった。自分達が挑戦してダメだった5層に挑むという俺達に興味が沸いた、といったところか。まぁ良く分からないけど、結果的に、


「5層に続く通路はアッチだよ。今入っている連中はもうすぐ出てくると思うけど」

「折角だから、あんた達、あっちのユニオンの後に付いて行ったら?」


 と、新人ヤンキー風PTを此方に押し付けるような発言になった。なにそれ、面倒臭そうなんだけど……。


「勝手に後ろに付いてくる分には構いませんよ」


 一方、加賀野さんはアッサリとそんな風に言う。それに対して同じ[脱サラ会]の古川さん、木原さん、それに[TM研]の春奈ちゃんも驚いたように、


「カガッち?」

「何言ってんだよ、あぶねーよ!」

「どういうつもりですか?」


 と言う。俺も思わず声を出し掛けた。加賀野さん……まさか「オッサン」呼ばわりされた復讐に何か良からぬ事を企んでいるんじゃないよね?

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