*21話 空振りだからブン回す水曜日② 合致する2人の思惑
待ち合わせ場所は駅の北口を出た先にあるファストフード店。行ってみると、既に朱音がモーニングセットのパンケーキをパクついていた。
「コータ先輩も食べます?」
「あ、いいわ。コーヒーだけ頼んで来る」
という事で、コーヒーだけを頼んで朱音のいる席へ戻る。
「本当に食べないんですか? これ、一個どうです?」
相変わらず勧めてくる朱音。見るとプレートの上には最後の1枚になったパンケーキが。それにしてもシロップがだっぷり掛かってて……旨そうではあるが、
「いいって、あんまり食べるとメイズ内で
「大丈夫ですよ~それにイザとなったらハムちゃんに簡易トイレを出してもらいますから」
そう言って、笑いながら最後のパンケーキを頬張る朱音。朝から元気なやつだ。でも、もし本当に簡易トイレが必要な事態が起きたら結構大騒ぎしそうだよな。まぁ、自己責任だけど。
「国立西駅かアトハ吉祥か、どっちにする?」
「アトハ吉祥が良いですぅ」
「なんで? 通勤ラッシュの方向だぞ」
ちょっと想定と違う朱音の答えに思わず訊き返す。訊き返すくらいなら最初から自分の意見を言えよ、と内心で自分にツッコミを入れる。こんなんだから「彼女いない歴=年齢」なんだろうな。
対して朱音の答えは明朗で分かりやすい。曰く「国立西駅の駅前ビルメイズって[赤竜・群狼クラン]の本拠地みたいになってるらしいから嫌ですぅ」とのこと。確かに、
「それに、アトハ吉祥メイズって中の構造よく分かってるじゃないですか。今日は飯田先輩居ないし、よく知っているところに行った方が良いですぅ」
言われてみればその通りだ。それじゃぁ、ラッシュが過ぎる9時過ぎまで時間を潰すか……と話すと、
「何言ってるんですか、タクシーで行きますよぉ!」
「え? 高くない?」
「それくらい平気じゃないですか、どれだけ稼いでいると思ってるんですか。それに今から出たら丁度良い時間に着きますよ」
「そ、そうか……」
「さぁ、そうと決まれば行動開始です、いきましょ~」
という事になった。朱音って結構グイグイ引っ張っていくタイプなんだな。こりゃ彼氏は大変だな。などと考えつつ、キャリーケースを曳く朱音のプリプリしたお尻の動きに思わず目が行って、視線を外すのに苦労した。
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タクシーは都道17号線を北上して五日市街道に入ると、そのまま直進して井之頭通りから吉祥駅へ向かうルートを取った。てっきり南下して東七道路に入るのかと思っていたが、
「あっちは吉祥寺通りの先、井之頭公園の所で通行止めなんです。一昨日から突然なんかの工事が始まったらしくて、年末だからですかねぇ~」
という運転手さんの話だった。そう言う事なら、しょうがない。ここはプロに任せるべきだろう。
ということで、移動中の車内で朱音と今日の予定というか方針を話題にした。
「今日はドロップよりもスキルの使い方を練習したいと思ってるんだけど、それでいいかな?」
「賛成ですぅ。私も【強化魔法】をもうちょっと積極的に使いたいと思っていたんです」
スキルを練習したいという俺の意見に朱音も賛同してくれた。訊けば1回で魔素力50を消費する[強化魔法:中級]はついつい
「まぁ2回使ってしばらく休憩、って感じになると思いますけどぉ~」
「練習だと割り切らないとやり難いのは確かだな」
魔素外套によってメイズの中で得られる魔素力と耐久力はどちらも大体「1分に1」回復する。
更に付け加えると、実はメイズに入った直後は数値が0からスタートする。もっともメイズに入った直後に数値が低いのは余り意識したことが無い。出現するモンスターが弱いということもあるし、そもそもそ別の[
まぁそれはさて置き、俺も朱音も魔素力はMaxで100を少し超える数値になる。スキルで言えば俺の【能力値変換】が11回分で朱音の【強化魔法:中級】が2回分だ。これを使いきって、100分休憩してもう一度使い切る。というのを繰り返せば……4・5回くらいは回せるかな?
(それなら、ハム美の【魔素力転換(省)】がうってつけなのだ)
(ドロップは無しになるニャン。でも休みなくスキルの練習が出来るニャン)
と、ここで超常現象ハムスターズの【念話】が脳内に響いた。あ~、と思う。そうだった、特にハム美は魔素力を他人に渡す便利スキルが使えるんだった。
「でも、ハム美のスキルで効率よく練習できるらしいよ」
「そうなんですかぁ! 流石ハム美ちゃんですぅ」
「その分ドロップは期待できなくなるけど――」
「仕方ないです、練習は明日への備えです」
との事。普段はあっけらかんとして、こう言っては失礼だが余り物事を深く考えているようには見えない朱音だけど、こういう所はちゃんと考えているんだな。感心するといったら、更に失礼だけど、やっぱり感心した気持ちになる。
それに、こういう練習フェイズ的なメイズ潜行もやった方が良いのかもしれない。メイズが無い時はマンションの部屋でネットを見ているかゴロゴロしているだけだし……
(精進を忘れる者に練達は無し、なのだ)
(それに気付けただけでも上出来ニャン!)
かなり高低差のある上から目線で物を言う2匹。ただ、この2匹の行動は俺とほぼ変わらないはずなのに……。
とその時、運転手さんが舌打ちと共に声を発した。
「ちっ、こっちも通行止めか……ったくどうなってるんだよ」
そういえば、さっきからタクシーは停まったままだった。そう思って車外を見ると、都心方面に向かう車線はビッチリと渋滞していた。少し先にある道路脇の立て看板には
――この先通行止め、吉祥寺方面迂回ろ200m先交差点を右折――
となっている。場所は丁度都立小金井緑地公園の辺り。確か、岡本さんの自宅がこの先を左折した花小金井だったはずだ。そう思うと、俺の自宅の田有町も随分近いことになる。これまでは、タクシーは金がかかると思って移動の選択肢に入っていなかったけど、アトハ吉祥メイズに行くときはタクシーも有りかもしれない。
「昨日は通れたのになぁ、大池は何考えてんだよ。」
一方、タクシーの運転手さんは少し不機嫌そう。大池都知事に対して、届くはずのない文句をひとしきり唱えた後、
「すいません、裏道通りますね」
「どうぞ、お任せします」
「まったく、嫌になっちゃいますよ」
ということで、う回路を右折。小金井街道から北大通へ進路を変更した。
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