*20話 空振りだからブン回す水曜日① 急遽キャンセル、まぁあり得る話
2020年12月16日
この日はチーム岡本単独活動の日。目的地は下赤羽にあるメイズ。電車では行きにくい場所なので、西国分寺駅に集合してレンタカーでの移動になる。そういう訳で、まだ少し暗い朝7時前に自宅マンションを出発。背中に千尋の「いってらっしゃい」の言葉を受けて、それに軽く手を挙げて答えながらエレベーターに乗り込んだ。見送る声が可愛い彼女や奥さんのものに代わる日が来るのかな? と少し妄想。望みが薄そうなので、切ない気持ちになったりする。
その後7:10頃に西武新宿線田有駅に到着。都心方面へ向かう通勤客をかき分けて3・4番ホームへ向かい、そこから反対方面へ向かう電車に乗り込む。この時間帯にこのホームから電車に乗ると、どうも会社勤めのブラック社員時代を思い出す。ただ、懐かしい訳でもなく、決して戻りたい訳でもない。何と言うか、当時と今の生活では、余りに色んな変化があり過ぎて「よくあんな勤務形態で働いていたなぁ」と当時の自分に呆れる、というのが正しい感想かもしれない。
変化といえば、メイズと[
[巡回係]とやらをやっている
そういえば、明日に関しては千尋も妙な事を言っていた。ちょうど月曜日の夕方の事だ。大輝との交信に備えて田有のアパートに移動する直前のことだった。
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「ねぇ、今週の木曜日ご飯食べに行かない? 焼肉奢るよ!」
バイト終わりで部屋に帰って来た千尋は、そんな風に誘って来た。バイト代が入ったから焼肉をご馳走する、とのこと。バイト代の振り込みは確か月末のはずなので、不自然な口実だと思ったけど敢えて突っ込まない。何か魂胆がありそうな気がするけど、純粋に誘っているのかもしれないし、それに千尋と外食というのは実は初めてだったりするから、誘いに乗っても良い気分になる。でも、木曜は色々立て込んでいるからなぁ……。
「昼間は予定があるから、夜なら大丈夫だけど」
「あ、お昼なんだ……え~と、ランチがお得なお店なんだけどな……ねぇ、昼間の予定って何?」
「ああ、ほらハム美を里奈に渡す件、前に話したと思うけど、あの計画の実行日」
「ああ……でも、里奈さん忙しいんでしょ?」
「休みらしいよ」
「じゃぁデート?」
「そういう発想は無かった」
「どこで会うの?」
「下北沢駅に11時半に待ち合わせだから、多分適当な店で昼飯位は食べると思うけど……」
「ふ~ん……私も付いて行っていい?」
「え?」
「やっぱり邪魔かな?」
「いや、そんな事はないけど」
「私も久しぶりに里奈さんに会いたいなぁ」
「そうか……まぁ良いんじゃない」
「じゃぁ決まりね。その後、下北か原宿辺りをブラついて、夜は焼肉で決定!」
う~ん。なんか強引な感じを受けるけど、まぁ良いか。
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その時は、その後の大輝との交信の方に意識が行っていたから余り深く考えなかった。でも、後から考えると変な気がする。(ちなみに大輝との交信は今月も不通だった。)
そもそも千尋と里奈ってそれほど親交があったという記憶がない。確か、2度ほど大輝、里奈、俺の組み合わせにくっついて来た事があったはずだけど、そもそも中学高校時代に5つも歳が離れていると、殆ど別世界の住人だ。限られた時間に友情が生まれるということは考えにくい気がする。
だったら何で「私も会いたい」ということなるのか? まぁ、単純にその後の予定の
――ヴッ、ヴヴッ、ヴッ――
と、ここでスマホがメッセージ受信を報せる。あと2分ほどで西国分寺駅というところだ。取り留めのない思考を止めて、メッセージアプリを立ち上げる。着信はチーム岡本のグループチャットだった。
◇◇◇◇◇◇
岡本:
みんなすまん、今日のメイズキャンセルさせてくれ。
嫁さんと子供2人が熱を出して今病院にいる。コロナかインフルか分からないけど、これから検査。オレも検査を受ける。
◇◇◇◇◇◇
あらら……。確か岡本さんのお子さんは4歳と8歳の男の子のはず。それに奥さんも一緒になって発熱したのなら、放っておいてメイズへ、とはならないのは仕方ない。と考えていると、更に着信があった。
◇◇◇◇◇◇
飯田:
了解しました
家に戻って作業に専念します
お大事に
◇◇◇◇◇◇
まずは飯田の返事だった。日曜の反省会で「[MP-LL-Pro1]のバックオーダーが結構ある」と言っていたから、そう言う事にしたのだろう。ちょっと肩透かしだが、文句を言えるような理由でもないし俺も「分かりました、お大事に」と送る。朱音からも殆ど同時に同じようなメッセージがあった。それと同時に電車は目的地の西国分寺駅に到着。ホーム側のドアが開く。
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改札の脇で、これからどうしようか? と考える。このまま自宅マンションに戻ろうか? 戻るにしても通勤ラッシュの方向だから、少し時間を潰そうか? 等々だ。その一方で、今日は例の「4分の1回し」からの「飛ぶ斬撃」をもうちょっと練習したいと考えていたのも事実。だったら、この際1人でメイズに行ってみるかな。
結論が「一人メイズ」に傾きかけた時、スマホに今度は通話着信があった。見ると朱音からだ。
『おはようございます、コータ先輩、今どこですか?』
「西国分寺駅に着いたところ、ちょっと間が悪かったな」
『私もなんです……飯田先輩も来ないみたいですね』
「そんな感じだね」
『折角だから、2人でメイズに行きませんか?』
う~ん、確かに朱音の【強化魔法:中級】の効果が無ければ「飛ぶ斬撃」の発生条件を満たせない。これは願ったり叶ったりの申し出かもしれない。
「分かった、そうしよう」
『やったぁ! じゃぁ待ち合わせは――』
ということで、待ち合わせ場所を決めて合流することにした。今の時間からだと、通勤ラッシュがある吉祥駅方面よりも、立川方面の国立西駅前ビルメイズの方が移動は楽かもしれないな。
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