*18話 霞台駅地下駐輪場メイズ⑥ 必殺「4分の1回し」と飛ぶ斬撃!
【能力値変換】スキルがLv3に上がった事で「4分の1」を指定することができるようになった。それに加えて「4分の1変換」をした時に限って、効果の継続時間が倍の20秒に伸びるようになった。また、修練値500手前の魔素外套による能力補正が大体+25%ということもあって、「4分の1変換」をしても、元の能力値は日常生活時と変わらない。今の場合は朱音の【強化魔法:中級】が掛かっているので、4分の1を変換しても普段の+20%という事になる。
結果、全部で5つある能力値の4つを残り1つに「4分の1変換」で積み増すことで、特定の能力値を2倍以上(日常生活からみれば3倍近く)に、20秒間引き上げることが出来る。この状態で更に「半分変換」を使えば、短時間ながら任意の能力値を2倍以上にする事が出来る。
丁度、アトハ吉祥メイズ5層を突破した時にやったような
(たぶん今のLvの【能力値変換】スキルの使い方としては正解なのだ)
というハム太のお墨付きもある。
勿論注意点もあって、[理力]を素の値の半分以下に下げると、現在の状況認識に支障が生じてアトハ吉祥メイズ5層の時のような失敗が起きる。また[抵抗]を半分以下にすると[魔坑酔い]の症状が出る。更に、魔素力の残りが十分に有ることも必須条件だ。ただ、それさえクリアすれば、申し分の無い瞬発的な力を発揮できる。
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ということで、突発的にホールで集団戦闘となった今の場合、俺はまず「[理力]以外の4分の1を[理力]へ変換」と念じる。これがスタートだ。どの能力値を起点にしても良いが、20秒間である程度成果を上げようとすると、出だしで行動をしっかりと組み立てる必要がある。そのための[理力]強化だ。
結果として、朱音の【強化魔法:中級】の効果を加えると、[理力]の値は12.2から32.5に引き上げられる。まるで脳味噌がキュイーンと唸りを上げて回転速度を増した感覚だ。頭の回転が通常の3倍速ですよ、CPUのオーバークロックどころの騒ぎじゃない。
その状態で改めてホールを確認。左右両翼は拮抗。一方、中央の岡本さんには左から3匹、右から2匹のゴブリンソルジャー、それに加えて正面はコボルトチーフ1匹、奥にはアーチャー3匹。だけど【挑発】を受けたコボルトチーフが、同じく【挑発】を受けたアーチャー3匹の射線を遮っている。アーチャーは射線を確保しようと左右に散る動きを見せつつある。
なるほど、岡本さんがキャパオーバーだ。まずは右側のゴブリンソルジャー2匹を斃して奥へ突進、3匹のゴブリンアーチャーを仕留めよう、と決める。その後は残りの時間次第だ。
ということで、続いて「能力値[理力]の半分を[敏捷]へ」と念じてダッシュ開始。想像してみて欲しい、「よーいドン!」の合図の瞬間、3歩先を走っているヤツを。気色悪いほど速い、それが俺です。しかも、今の場合は[時雨]を大八相(
そのためなのか、進路上のゴブリンソルジャーは一気に顔を引き攣らせる。反射的に持っている錆剣で身を守ろうとするが、その一瞬前には既に攻撃が届く間合いに達している。そして、
「ギャッ」
「ギョエェ?」
飛び込みながらの袈裟斬りで1匹を斃し、その勢いを右足で殺しながら回転力へと変える。そのまま振り向きざまに横薙ぎの一太刀をもう1匹の方へ。ほぼ一瞬で2匹のゴブリンソルジャーを斃した。まるで時代劇の
そう考えるのも一瞬の事で、再びダッシュを掛ける。アーチャー迄の距離は約15m。殆ど立ち止まらなかったので移動速度のロスは少ない。一気にトップスピードに達し、ほぼ同時にゴブリンアーチャーを間合いに捉える。
アーチャー達はこちら側に2匹、反対側に1匹と分散してコボルトチーフが遮った射線を確保しようとしていたが、そこに俺が飛び込む恰好となった。【挑発】スキルの影響から、岡本さんにだけ集中していたアーチャー達は全く不意を突かれる。結果は駆け抜けざまの撫で斬り。弓ごと左手を飛ばされたり、胴を横薙ぎに斬られたり、首を半ばまで断ち割られたり、とダメージは様々だが、ほぼ全員に致命傷を与えることが出来た。
ちょっと気の毒な気もするが……いや、そんな事を考えている暇はないな。多分残り時間は10秒程度だ。岡本さんの所にはコボルトチーフとソルジャー3匹が行っているだろう。そこへ駆け付けたいが……実は[敏捷]が30近くまで上がった状態でのトップスピードは一瞬で打ち消すことが出来ない。スピード相応の慣性が生じるからだ。対処方法は、慣性を遠心力に変えるために大回りして方向転換するか……いや、まどろっこしいので「[敏捷]の半分を[力]に変換」と念じる。そして、強化された[力]を以て強引にブレーキを掛ける事にした。
踏ん張ったブーツの裏がまるでタイヤのスリップ音のような音を発する。背中のリュックの中からは「ムギョォ!」「ギョニャ!」っと潰れたカエルのような声が上がるが、それは無視。結果としてアスファルト風の床に3mほどのブラックマークを残して急停止出来た。
(急過ぎるのだ!)
(顔面ぶつけたニャン!)
あーごめんごめん。で、どうするか?
見ると予想通り、岡本さんは計4匹相手に防戦一方の様子。更にその奥、左翼側はTM研の前衛3人が頑張っているが少し押されている感じ。一方手前側の右翼は[脱サラ会]が有利に戦いを進めているが倒し切るには時間が掛かりそう。まずは駆け戻って岡本さんの加勢をしたい。しかし、流石にもう数秒くらいしか「4分の1回し」の有効時間は残っていない。どうする?
(技巧を上げて剣を振るのだ!)
ほんの
(さっさとやるのだ!)
(出来るニャン!)
イメージ的には、ハム太の存在をチーム岡本の面々に明かした時の光景そのもの。あの時のハム太は腰の剣を抜きざまに振るい、メイズの壁に斬撃を飛ばして見せた。アレを再現するということだ。ただ、[理力]と[敏捷]の半分を[技巧]へ変換しても合計値60にはちょっと足りない。
(だったら[抵抗]もいったらんかい!)
(お兄様、語尾ニャン!)
わかった、もう煩いからそういう事にするぞ! 失敗したら責任取れよ!
ということで「[理力][敏捷][抵抗]の半分を[技巧]へ!」と念じつつ、
――ズバンッ!
この時ばかりは[時雨]を振り抜いた時の感触が異様だった。普段は幾ら[力]や[技巧]を強化しても、刃筋が空気を切り裂く抵抗を感じるものだ。それが、この時は全く感じられなかった。まるで極薄の
「ギャッ!」
「グギョ!」
「ギョン!」
狙った先のゴブリンソルジャー3匹は見えない巨大な刃物に一太刀で斬り付けられたように血飛沫を振り撒いて床に転がる。
「うぉっ!」
「ワウォォン!」
ついでに岡本さんとコボルトチーフの驚愕の叫びが上がった。
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