*14話 霞台駅地下駐輪場メイズ② 動画配信PT[脱サラ会]
霞台駅メイズの内部は床がアスファルト風、壁と天井は鉄筋の柱と梁の間を石膏ボードが埋める風に見える。地下駐輪場の
内部構造の広さはアトハ吉祥メイズとほぼ同じか少し広いくらい。出現するモンスターの種類は殆ど同じになる。それで、朝のゲートオープンから約1時間後に足を踏み入れたメイズ内には、既に結構な数の同業者が居た。「ここ使ってます」と書かれたホワイトボードやスケッチブックが各通路の入口に置かれている。この工夫は以前[脱サラ会]がやっていた手法だ。マナーもへったくれも無いアトハ吉祥メイズ3層くらいまでとは様相が異なる。
「すみません、通って良いですか?」
「ああ、どうぞ、多分リスポーンまで2時間ほどあるから」
「ありがとうございます」
といったやり取りが成り立つのもありがたい。ちなみに場所は3層の奥。この通路の先に4層へ降りる階段がある。
「そちらは皆さん4層で狩りですか?」
「ええ、まぁ……」
最初に声を掛けた春奈ちゃんに、休憩中だったパーティーからそんな声が掛かる。休憩中のパーティーは6人組。装備はバランスよく前衛と後衛を揃えた感じだ。
「レッサーコボルトからのメイズハウンドラッシュに気を付けてね」
「レッサーコボルトを一発で仕留めそこなったら、一旦逃げるくらいが丁度良いよ」
多分春奈ちゃんたちTM研の面々が若い学生風だからだろう、6人PTは親切なアドバイスをしてくれた。しかし、
「アレ? もしかして[脱サラ会]さんじゃないですか?」
「え、あ、本当だ」
「いつも見てますよ」
となった。[脱サラ会]の動画配信は確かチャンネル登録者が3万人ほどだから、狭い業界という事もあってそれなりに知名度がある。今週の水曜日にアップしたアトハ吉祥メイズ6層攻略動画が確か15万回再生になっていたはず。もっともアップされた動画自体を撮ったのは1か月前とのこと。最近は余り動画編集に時間を割いていないようだ。単純に「メイズに集中した方が実入りが良い」とのこと。そりゃ、そうだろう。
ちなみに動画配信は[脱サラ会]単独行動の時の動画しか流していない。そこら辺についてリーダーの加賀野さんは「ほら、色々秘密にしたい事とかあるじゃない」とのことだ。多分大型スライムの処理方法とか、スキル関係が動画で流れると俺達に迷惑になると考えてくれているみたいだ。うん、常識人って素晴らしい。
「どうも、ありがとうございます。チャンネル登録と高評価よろしくです」
「してますって、いつも参考にさせてもらってますよ!」
「[脱サラ会]さんでもユニオン組むんですかぁ、なんか意外です」
「ええ、まぁ……週1回ですけどね」
「今度一緒にお願いしますよ!」
「いやいや、僕達の方がお荷物みたいなユニオンなんで」
「うそぉ? 謙遜でしょ?」
「……そんな風には見えないけど」
ちなみに、有名PT(?)[脱サラ会]とユニオンを組む俺達[チーム岡本]と[TM研]は、ちょっと
「そんな事ないですよ、彼等と一緒じゃないと、とてもじゃないけど8層なんて行けませんよ」
という加賀野さんの言葉に6人PTは一応に驚いた表情になった。勿論「8層」という言葉に驚いたんだろう。
「8層ってマジですか?」
「すげぇな……」
少し立ち話になったが、聞けば6人PTは3層メインで
その壁を乗り越えて、更に先の8層というのは想像がつかないのだろう。
「が、がんばってください」
「俺達、ここで戻ってくるの待ってますよ」
結局、そんな会話(戻って来るの待っているとか面倒臭い)になって、立ち話はようやく終了。やっと先へ進むことが出来た。有名人って面倒臭いんだな……。
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先ほどの6人PTの情報では、今日はあの先、つまり4層以降へ進んだPTは居ない、ということ。そのため、4層からモンスターとの戦闘が始まった。ただ、[脱サラ会]も[TM研]もメンバーの平均修練値は450を超えているので、4層の敵はそれほど障害にはならない。
4層入口から続く折れ曲がった1本道は[TM研]が先頭に立って進む。ちなみに[TM研]が以前のアトハ吉祥メイズ5層で手に入れたスキル【戦技】は前衛ポジの上田君が使用。結果として【戦技(二刀流)】という戦技スキルを獲得したようだ。その後直ぐに[脱サラ会]が2,200万円の高額入札価格を叩き出したため、一時期は可成り悔しがっていたが、何はともあれスキルはスキルだ。確実に戦力が上がっている。盾役の井田君と2トップ状態で通路のモンスターをバシバシと片付けながら進んでいる。
4層通路はその後大きなホールに出る。ホールからは3つの通路が伸びており、その内南へ向かう通路の先に5層への降り口がある構造だ。このホールで3PTユニオンは3つに分かれて各通路のモンスターを狩る。各通路にレッサーコボルトが居るが、ここまでくると、わざと【遠吠え】を発動させて、通路の奥から駆けつけるメイズハウンドの集団を一気に殲滅するような戦い方に変わっている。
結果として4層のモンスター殲滅は30分程度で完了。一旦全PTがホールに集合してから再度南通路を進む。
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5層はガランとした空洞的な空間。アトハ吉祥メイズ5層よりも北七王子メイズの5層に雰囲気は近い。勿論、居座っていた
ちなみに5層の
そのため、8層を踏破したら[国立西駅前ビルメイズ]か[調布駅前メイズ]のどちらかの5層へ行こう、というのが次の行動目標になっている。深い層のドロップも良いが、やっぱり
と、そんな欲深い発想をしつつ、5層を通過。6層に入る
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6層に初めて入った時は少し面食らった。3層以降姿が見えなかった大黒蟻が、突然大群となって現れるからだ。殆どの通路の奥には多分30から50匹以上蟻が文字通り巣食っている感じだ。それが、物音なのか匂いなのか、こちらの存在を察知して一斉に向かってくる。その状況に、最初はちょっとしたパニックになり掛けた。
だが、冷静に考えれば体長80cmと超巨大だが蟻は蟻だ。攻撃手段は顎による咬み付きしかない。しかも狙える場所は精々がこちらの膝の高さまで。対してこちらは殆ど全員が飯田金属製[MP-LL-Pro1]かその試作品を装備している。早い話、噛まれたとしても、CFRP製の
そのため、戦闘というよりも処理といった感じになる。群れと遭遇した場所から、少しずつ前線を下げながらひたすら叩くだけだから仕方ない。ただ、俺の場合は[時雨]で床を打ってしまう可能性があるので少し気を遣う。出来れば木太刀に切り替えたいところだけど、流石に【収納空間(省)】の存在までは他PTには悟られたくない。
(戦技の修行なのだ。それにもっと深い階層に出る大赤蟻や赤羽根蟻は注意なのだ。あっちは毒針をもっているのだ)
(あの毒はめっちゃ痛いニャン)
と、リュックの中から【念話】を送って来るのはハム太とハム美。今回はハム美も同行している。「実戦の勘を取り戻したいニャン」という理由からだ。ただ「実戦の勘」と言いつつ、結局リュックの中に籠って【気配察知】スキルでも使いながら外の様子を観戦しているだけのようだけど……たぶん、終わった後の反省会目当てだろうな。
(そ、そんなことないニャン!)
図星だったらしい。ということで、6層も突破。大黒蟻の総数はちょっと数えていないけど、多分200匹くらいだろう。数が多い分だけ斃し切るのに手間はかかるが、
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