*13話 霞台駅地下駐輪場メイズ① 現在の実力
2020年12月13日
昨日のテレビ番組とその後始まった気の早い「ハム美の壮行会」によって、今朝はちょっと寝不足感がある。しかし、集合時間の5分前の5分前、8時50分には所定の集合場所へ到着している。我ながら真面目な[受託業者]の
集合場所は東武東上線と武蔵野線が交差する霞台駅の南口。そこを出て、右手側に見える武蔵野線側へ少し進んだところにある地下駐輪場内部に口を開けた通称「霞台駅メイズ」が今日の目的地になる。アトハ吉祥メイズや国立西駅前ビルメイズと並んで2019年2月に固定化された小規模メイズとしては古いものだ。
内部構造が広く意外とアクセスが良いため[受託業者]制度開始当初から人気のあるメイズになっている。今でも[赤竜・群狼クラン]のように内部を占有するような不届きな[受託業者]集団が居ないメイズとして、小規模PTなどに人気のあるメイズだ。そのためか、日曜の朝っぱらから同業者と思しき人達が駅の南口に
ちなみに、この直ぐ近くにFZアメージングフードが経営する洋食ファミレス店があり、チーム岡本には嫌な意味で馴染みが深い場所だったりもする。このメイズが固定化された当時は駅の南口一帯が封鎖され、その煽りを受けて洋食ファミレスも1か月ほど休業に追い込まれたものだ。その間も変わらない規定の売り上げ目標をなんとか達成するため走り回った記憶が、まるで遠い過去のように感じる。
などと、感慨深く周囲を見回していると、
「おはようございます、じゃぁ行きましょう~」
ということで、地下駐輪場へのスロープをぞろぞろと移動開始した。
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「昨日の放送見ましたか? あの五十嵐さんが出てたやつ」
というのは朱音。着替えて装備点検を終えた後、認証ゲートを潜るまでの間の待ち時間の事だ。[TM研]の女性メンバーの着替えを待っている、という状況。
「お~、見た見た。ちょっと意外な側面だな」
「もっと慎ましい感じの人だと思ってたのにな」
「最近の子なんだね」
と、応じるのは[脱サラ会]のおじさん連中。まぁ、里奈の事を良く知らないと、あの放送を編集による合成だとは気付けないな。一応、本人は「全くのでたらめ」と言っているのだし、訂正しておこう。と口を開きかけた時、
「コータ先輩、ま・さ・か・とは思いますが、五十嵐さんがお付き合いしているメイズ・ウォーカーって先輩の事ですか!」
急にグワッと距離を詰めてきた朱音がそんな事を言い出した。ああ、シャンプーの良い匂い……って、いやいや、近いって。それに何処がどう繋がってそんな推論に至るんだ?
「まさか、ないないないないない!」
「ほんとうですかぁ~?」
「本当だって! 昔からの友達だけど、俺なんか相手にされないよ」
「そんな事ないと思いますけど!」
「そもそもからしてテレビの内容は誤解なんだよ、実はな――」
というやり取りを経て、里奈本人に聞いた話をこの場の全員に説明する。[TM研]の春奈ちゃんと小夏ちゃんも合流したところだし丁度いい。
「……酷い話ですね」
「最悪です、ちょっとコワイ」
「う~ん……なんか可哀そうな気がしますぅ」
とは、朱音達女性陣の反応。捻じ曲げられてテレビで放映された里奈に同情するような感じになった。一方、
「[管理機構]の職員だって一応公務員だろ……よくやったな」
「ニュース番組だって切り取る連中だからな、バラエティーなんてそんなもんさ」
「結構問題になるかもな」
「でも、公務員相手にそんな事する連中なら、俺達ただの一般人だし」
「インタビューなんて軽々しく受けられないな」
「どんな風に捻じ曲がるか分かったもんじゃない」
「ここっコワイです」
と、岡本さんや加賀野さんなど男性陣は呆れたような、悪い意味で感心したような感じになる。
「確かに、最近そんな感じの連中が辺りでうろうろしてたりするからなぁ」
とは岡本さん。実は先週アトハ吉祥メイズへの潜行が終わった後、吉祥駅で男に声を掛けられそうになった。その時は「あん?」と岡本さんがひと睨みしたら、その男は言葉を濁して立ち去って行ったけど、
「――迂闊に受け答え出来ないですね」
と言う俺に、ほぼ全員が同意したように頷いた。そして、
「まぁ気を付けましょう。で、今日の霞台駅メイズ、目標はズバリ今日こそ8層踏破で良いですね?」
と仕切り直すような[TM研]春奈ちゃんの声。チーム岡本を含む3PT
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11月1日にアトハ吉祥メイズ5層の
また、3PTユニオン活動以外のチーム岡本単独行動で、18日に霞台駅メイズ5層を(数の劣勢を何とか撥ね退けて)攻略した後は、3PTユニオンで霞台駅メイズにも潜行するようになった。その結果、11月22日には3PTユニオンで霞台駅メイズの6~7層踏破するに至った。
一方、チーム岡本単独活動は
来週からは第2期募集の[受託業者]が大勢メイズに押し掛けるだろう。そうすれば、下の階を目指す者はこれまで以上に増える。そうなる前に深い階層へ潜り、まだ斃されていないモンスターから高確率ドロップを得よう、という単純で欲深い戦略に基づいた行動だ。
しかし、階層攻略は8層に至って少し行き詰まっていた。11月29日と今月に入った12月6日にアトハ吉祥と霞台駅の2つのメイズで夫々8層に挑んだが、結果は惜しくも途中で退却。理由は色々ある。
1度目の霞台駅メイズ8層の撤退は、TM研春奈ちゃんと小夏ちゃん、脱サラ会古賀さんのクロスボウが弾切れとなったため。2度目のアトハ吉祥メイズ8層は脱サラ会の盾持ち前衛2人久島さんと毛塚さんのポリカ盾が破損したためだ。ちょっとツイてない出来事が重なった気がする。まぁ、弾切れになったり装備が壊れたりするほど、6~8層の敵は手強いという事も出来る。変に焦って事故を起こすより、慎重に進むほうが良いに決まっている。
一方、5層以降に出現するモンスターは、6層では大群と化した大黒蟻とレッサーコボルト+メイズハウンドのラッシュ。7層ではレッサーコボルト+メイズハウンドのラッシュに武装ゴブリンが加わる。そして8層では武装ゴブリンのパーティー(?)とメイズハウンドの大群をコボルトチーフが【統率】で従える格好になる。場所は相変わらず幅4m程度の通路だから何とかなるけど、5層のように広い場所も時々あって、そいう場所では今でも結構厳しい戦いになっている。
まぁ、その分こちらの修練値も積み上がって来ており、戦いの状況は厳しいもののモンスターに歯が立たずに撤退、という状況はこれまで経験していない。ちなみにチーム岡本の現在のステータスはこんな感じ、
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遠藤公太(26歳)
種族 人間(男性)
耐久値 120/120
魔素力 108/108
力 11 (x1.24)
敏捷 12 (x1.25)
技巧 11 (x1.22)
理力 10 (x1.22)
抵抗 14 (x1.25)
修練値 435/485
習得スキル(常時有効型)
・戦技(刀剣)Lv3
習得スキル(使用型)
・能力値変換Lv3
武器:カタナソード[時雨]・木太刀
防具:試作乙式2型四肢防具
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岡本忠司(32歳)
種族 人間(男性)
耐久値 173/173
魔素力 81/81
力 12 (x1.28)
敏捷 10 (x1.20)
技巧 11 (x1.20)
理力 10 (x1.20)
抵抗 12 (x1.23)
修練値 33/483
習得スキル(常時有効型)
・戦技(最前衛)Lv2
習得スキル(使用型)
・挑発Lv1
武器:試作1号
防具:試作甲式2型四肢防具
試作甲式1型体幹装甲
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嶋川朱音(23歳)
種族 人間(女性)
耐久値 113/113
魔素力 127/127
力 9 (x1.22)
敏捷 11 (x1.23)
技巧 13 (x1.31)
理力 10 (x1.22)
抵抗 10 (x1.20)
修練値 141/491
習得スキル(常時有効型)
・戦技(弓)Lv2
習得スキル(使用型)
・強化魔法:中級Lv1
武器:リカーブボウ(38lb)
防具:試作乙式2型四肢防具
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飯田翔(25歳)
種族 人間(男性)
耐久値 98/98
魔素力 124/124
力 9 (x1.20)
敏捷 10 (x1.22)
技巧 9 (x1.22)
理力 11 (x1.26)
抵抗 8 (x1.18)
修練値 476/476
習得スキル(常時有効型)
・直感
習得スキル(使用型)
―――
武器:ピストルタイプクロスボウ
飯田式組立槍
防具:MP-LL-Pro・Plus
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8層の修練値限界は多分500位だと推測される。現状大体480前後。魔素外套による能力補正値が殆ど20%を超え、流石に俺でも違いが実感できるようになってきた。また、スキル関連は俺の【戦技(刀剣)】と【能力値変換】がLv3へアップ。岡本さんの【挑発】が使用可能になり、朱音が取得した【戦技(弓)】はいきなりのLv2スタートだった。
一方、武器防具関連の変化は少ない。朱音の弓がドローウェイトを増し、飯田が市販前の新製品防具の試作品に切り替えたくらい。
モンスターとの戦闘面では、朱音の魔素力が100を超えたため、【強化魔法:中級】を2度連発出来るようになった。これで手強い武装ゴブリンとコボルトチーフのコンボを何とか切り抜けることが出来るようになった。それに岡本さんの【挑発Lv1】も期待通りの働きで、岡本さんはモンスターから攻撃を受ける場面が増えたが、全体的に殲滅速度は上昇した。
パーティーの実力は確実に底上げされている。
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