*10話 合同パーティーでゴー! ⑥ コータvsコボルトチーフ
【念話】というスキルは考えていることを選択的に相手へ伝えるスキルだ。そのため、時として言葉による会話よりも伝わる情報量が膨大になる。慣れない内は
ハム太が言う「先にコボルトチーフを斃すのだ」の理由的な思考を読み取ると、つまり斃せなくてもコボルトチーフを釘付けにする事で【統率】を封じ込めて、メイズハウンド集団を斃しやすくする、と言う意図があった。それに、単体モンスターとしても今の実力では結構手強いコボルトチーフが20匹の集団と共に突っ込んでくると、全体としてピンチな状況になりかねない、という危惧もあった。だったらそう言えよ、と言いたいが、
(以心伝心、結果オーライなのだ!)
との事。結果的に伝わったからそれでいいのだ? あ、
気を取り直して前方の状況を見る。メイズハウンドは集団で固まった合同PTを半周取り巻くように展開しているが、いつものようにワンワン、バウバウと突っ込んでこない。時折数匹が前に出て、サッと下がるような動きをする。こちらを崩そうとしているようだ。
そうしつつも、数匹が右側を大きく回り込んで背後を取ろうとしている。動きの賢さは確実にメイズハウンドのものじゃない。後ろを取られると決定的に不利になるので、先ず回り込もうとする3匹を蹴散らしてから、逆に大回りをしてコボルトチーフへ仕掛けよう。そう考えて、
「飯田! 奥のデカいコボルトが厄介だから牽制してくる!」
「えええ、あ、ええ?」
「朱音、俺に当てるなよ!」
「ちょっ、ちょっとコータ先輩?」
取り敢えず2人に声を掛けると同時に、「能力値[力]を全部[敏捷]に変換!」と念じて行動を開始。
**********************
集団から突然飛び出した俺にメイズハウンドの前列は驚いたように距離を取る。だけど、狙いはその奥で回り込もうとしている3匹だ。先ほどと同じように脇構えに[時雨]を構えながら前列の間を駆け抜けて、先ず1匹に接近。殆ど撫で斬りの
とりあえず回り込もうとする3匹を斃した。そこで再度力を全部敏捷に移して、今度は5層の右側壁沿いを大回りに駆け抜ける。【能力値変換Lv2】の効果時間は体感で10秒程度。その間、朱音の強化魔法の効果も相まって常人の約3倍に強化された敏捷性を発揮する俺は、メイズハウンドの集団を振り切って奥に控えるコボルトチーフへ肉迫する。しかし、そのまま攻撃に移るのではなく、一旦後方確認。一人で飛び出しておいて言うのもなんだが、安全第一だ。
案の定、後ろを追ってくるメイズハウンドがいた。数は2匹。その更にその後ろから誰かが大声で何かを言っている。「のの残りささ3分です!」「コータ先輩、後ろ!」と聞こえたが応じている暇はない。でも挟み撃ちは面倒なのでコボルトチーフの鼻先で方向転換。追って来たメイズハウンド2匹に向かう。この時点で【能力値変換】の効果が切れた。だが、2匹程度ならこのまま行ける。
追っていたはずの対象が一転して向かってくる状況に変化する。その変化にメイズハウンドはいつも通りの跳躍咬み付き攻撃を繰り出すが、タイミングが全く合っていない。2匹ともに残念な感じで攻撃が不発に終わり俺の目の前に着地する。その瞬間を見計らって[時雨]を振るう。八相からの斬り下ろし2閃。2匹とも耳の後ろから喉までを断ち割られてその場に倒れ込んだ。
よし、後はコボルトチーフへ、と考えると同時に、背後に異様な気配を感じる。思わず振り返りそうになるが、ハム太が【念話】で「前へ跳ぶのだ!」と伝えてきた。それを受けて、殆ど反射的に前へ転がるように身体を投げ出す。その頭上を、
――ブゥンッ
という重い風切り音が通り過ぎた。
1度2度とコンクリ風の床を転がって立ち上がる。目の前には190cmほどの上背を誇る体格の良いコボルトチーフが追撃を仕掛けようと迫っていた。この時初めて意識したが、相手はこん棒のような武器を持っていた。それを大上段に振り上げている。そのまま俺の脳天へ叩き込む間合い。この場で受けとめれば、[
――ガゴンッ
一瞬前まで俺がいた場所をコボルトチーフのこん棒が打ち付ける。対して俺は今の跳躍で6mほど間合いを開けることになった。ヤバい、ちょっと飛び過ぎた。
(魔素力残り24、あと2回使うと終わりなのだ!)
その間、ハム太チェッカーは残りの魔素力を【念話】で伝えてくる。でも、そういう言い方は焦りが募るからやめて欲しいです。「あと2回」じゃなくて「まだ2回」って言おうぜ!
と、内心で反論している内にも、コボルトチーフは再度間合いを詰めてくる。攻撃は単調な上段からの振り下ろしだが、動きが早く威力も高そう。でも大振りだ。ならば、「能力値[敏捷]の半分を[技巧]へ変換」と念じる。
そして、こん棒が振り下ろされる瞬間に間合いを測って右後ろへ下がる。それと同時にこちらも上段から[時雨]を振り下ろす。狙いはコボルトチーフのこん棒の持ち手。剣道ならば「面抜き小手」と言うべき技だが、
――コンッ
しかし、手応えは頼りない。[力]の数値が1だった状態を忘れていた。結果、クリーンヒットに近かった一撃はコボルトチーフの手首を薄く斬っただけで弾かれてしまった。その次の瞬間に力から敏捷に振っていた能力値変換が元に戻る。って今かよ! というか今の能力値はどんな状態だっけ?
格上っぽい敵と対峙しているのに、思わず思考が脇へ逸れる。後の反省だが、これは
「クオォッ!」
不意に声を聞いた。勝利を確信したような声だ。しまった! と思ったがもう遅い。既に振り下ろされたこん棒が頭上に迫っている。能力値云々と念じる暇さえ無い。と、そこへ、
――ビュン、ビュン
唸りを上げて2風を切る2本の矢が割り込む。1本はガラ空きになったコボルトチーフの右太腿に突き立ち、もう1本はこん棒を握る右手甲に突き立った。
(モタモタするななのだぁ!)
次いでハム太が器用にも【念話】で怒鳴る。流石に我に返った俺は「能力値[理力]の半分を[力]に変換」と念じ、不意の矢を受け会心の一撃を逸らしたコボルトチーフに斬りかかる。形勢逆転、とばかりの一撃はコボルトチーフの太い首を切り裂き、次いでもう一太刀を浴びせた結果、ゴロンと犬の首が地面に落ちた。
力を失くして崩れ落ちるコボルトチーフの身体、その太腿の矢は飯田の
どうやら、勝ったらしい。
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