*9話 合同パーティーでゴー! ⑤ 乱戦の5層、いや多いって!
――ウォウォォオォオオオン!――
響き渡る犬っぽい鳴き声はコボルト系が放つ【遠吠え】であることは間違いなさそう。ただ、レッサーコボルトが上げる「助けを求める」悲鳴的な響きは無く、どちらかと言うと戦いの前に気合を入れる
(コータ殿、持久戦はマズイのだ!)
その遠吠えを聞いたハム太が新手の予感からそんな意見を言う。確かに、一瞬前までは持久戦に持ち込んで削り込んでしまおうと思っていたが、これだと奥から新手が押し寄せる可能性が高い。削り込むどころか、形勢逆転されかねない。でも、どうする?
目の前の3匹のゴブリンアーチャーは夫々が2匹のソルジャーを護衛のように近くに置いている。拙速に飛び出しても矢に狙われながらそれらのゴブリンソルジャーを突破しなければならない。それは、頑張れば出来るかもしれないが、俺以外の相川君や上田君に同じことを求めるのは難しい危険なやり方だ。どうする? 岡本さん達盾チームに前進をお願いするか……
と、選択肢を逡巡していると、先にゴブリン側に動きがあった。俺が焦ったのと同じように、ゴブリン達も背後で上がった遠吠えに焦りを覚えたのだろうか? それは分からないが、護衛役と思われたゴブリンソルジャーが突如、岡本さん達盾チームに向かって突進を始めたのだ。もしかしたら、盾の裏に居る遠距離攻撃手に肉迫することで形勢を逆転させようとしたのかもしれない。まぁ、モンスターの考える事は分からないし、答え合わせも出来ない。ただ、アーチャーが手薄になったのは確かだ。仕掛けるべきか?
(自分で判断するのだ!)
答えを預けようとしたが、思わず尻を叩かれた気分になる。ハム太の言う事は正論かもしれない。自分で考えて判断し、結果を受け入れる。そして、その結果を次に生かす。そのサイクルが出来てこそ、人は成長する。分かっていた道理だけど、意識して遠ざかっていたやり方だ。成長したくない時期が俺にもあったということ。まぁ若気の至りはどうでもいい。大輝だって別に死んだ訳じゃなかったんだから。
「相川君、上田君、一番近いアーチャーへ攻撃を、俺はアッチをやる!」
心が決めれば、決断は早い。仕掛けるなら
そう心に決め、「能力値[力]全部を[敏捷]に変換!」と念じる。後は、50mを駆け抜けるだけだ。
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俺の場合、能力値[力]は魔素外套の補正を加えると約13になる。そこから最低値の1を除いた12が、[敏捷]14に上乗せされて結果は26になる。10が平均的な能力値ということだから、常人の2.6倍の敏捷性ということになる。当然、上がり過ぎた能力値は色々と不具合を起こすが、ただ走り抜けるだけなら支障は少ない。結果として50mの距離を3秒ちょっとで駆け抜ける。
標的のゴブリンアーチャーは次の矢を番える動作の途中。ちょうど猛スピードで接近するオレに気付いたところだ。目の前に迫った俺と、脇構えに付けた[時雨]を見て、咄嗟に身を守るように弓を持った手を前に突き出す。だが、もう遅い。
次の瞬間、ゴブリンアーチャーと交差。すれ違う瞬間に脇構えの[時雨]を少し振り出して、
――カンッ
と乾いた音と手応えを残し、ゴブリンアーチャーの首が宙を舞う。「ちゃんと当たれば勝手に斬れるのがカタナという武器だ」という
でも、これで終わりじゃない。背後ではブワッと血を吹き上げたゴブリンアーチャーが倒れるが、その時には次の標的であるもう1匹のゴブリンアーチャーへ狙いを付ける。ちょっと速度が出過ぎているから、広い通路を一杯に使って方向転換。再び加速に移り3歩ほど地面を蹴ったところで【能力値変換】の効果が切れるが、そのころには次のゴブリンアーチャーは目の前に迫っている。後は余勢のままに肉迫。相手は丁度相川君と上田君が向かったゴブリンアーチャーを援護しようと射撃体勢に入っていて、背後から猛スピードで近づく俺には気付いてない。気の毒(?)だが、問答無用で袈裟懸けに斬り捨てた。
崩れ落ちるゴブリンアーチャーの死体の向こう、相川君と上田君も共同してゴブリンアーチャー1体を仕留めている。キャッチャー用プロテクターを装備した上田君の胸に浅く矢が突き立っているが、問題無いようで、上田君はその矢を軽く抜き取って投げ捨てている。
更にその向こうでは、合計6匹のゴブリンソルジャーの攻撃を受けている盾チームと遠距離攻撃チームがあるが……多分大丈夫だろう。接近しきる前に多分朱音の矢と誰かのクロスボウの矢で2匹が斃され、盾4人対4匹の構図が出来ている。しかも、あのチームは遠距離攻撃の手段を持っている、というだけで、純粋な後衛ポジションは朱音の他には小夏ちゃんだけ。その他は前衛や中衛をやっている人が多い。特に[脱サラ会]の加賀野さん達はスリングショットがサブ装備でメインは近接武器になる。結果として盾4人がゴブリンソルジャーと正対し、そこへ槍装備の面々が隙を突く格好で穂先を突き込んでいる。
その様子に大丈夫だろうと判断した俺は、今度は通路の奥へ視線を向ける。丁度その時、緩く左へカーブする奥の空間から先頭を切って走るメイズハウンドの姿が現れた。その1匹を皮切りに、続々とメイズハウンドが姿を現す。3、4、5……多いって! 全部で20匹は居そう。しかも、後方にはレッサーコボルトよりも一回り体格が大きいコボルトが1匹。
(ここの5層の
**********************
【統率】を持つモンスターは種族の違いを超えて格下のモンスターを文字通り統率することが出来るスキル。以前のハム太の説明だと、そんな感じだった。だとすると、不自然に動き出したゴブリンソルジャーも、あのコボルトチーフという大柄なコボルト(多分岡本さんよりも背が高い)によって攻撃を強制されたのだろう。目的は……多分総勢20匹以上のメイズハウンド集団が到着するまでのかく乱か? 良く分からないが何等かの意図があった行動なのだろう。
(コータ殿、一旦みんなと合流して朱音嬢に【強化魔法】を使ってもらうのだ)
なるほど、確かに今が使い時だろう。そんなハム太の助言を受けて、俺は相川君と上田君にも声を掛けて盾チーム・遠距離攻撃チームに合流すると、ゴブリンソルジャーに背後から襲い掛かった。結果的に劣勢に立たされていたゴブリンソルジャー4匹は、俺達3人に背後を突かれてアッサリ壊滅。「多勢に無勢、戦いは数だよ」って後ろに20匹以上のメイズハウンドが迫った状況で言う言葉ではないかな。
そして、
「ああ、朱音ちゃん!」
「はい! ――強化魔法発動!」
俺が声を掛ける前に、飯田の声が上がり、それに朱音が応える。ナイス飯田アンド朱音!
「なんだこれ!」
「えっ凄くない?」
「うそ、これってスキル?」
と方々から声が上がる。朱音の【強化魔法:中級】は合同PT総勢14人全員に効果を及ぼしたようだ。
「効果時間5分です、普段と感じが違うから気を付けてください!」
という朱音の声。対して俺は、
「全体的に左側の壁側に寄って盾4人で受けとめながら、削ってください。脱サラさん、背後に回り込まれないように、右側のカバーをお願いします」
と声を発する。指示の大筋は軍師ハム太の指示だったりするが、それを知らない面々は指示に従うように隊列を変える。それほど面倒なことではない。全体的に左の壁際に寄るだけだ。しかし、
(ただ、これだと結構キツイのだ)
というのはハム太の【念話】って、オイ。指示しておいてそれはないだろう。
(場所が広すぎて盾4人ではカバーできないのだ、それに固まると矢が撃ちにくいのだ)
それは、道理かもしれないけど――
(だからコータ殿、コボルトチーフを先に斃すのだ!)
「はぁ?」
思わず声が出た。何を言ってるんだこの鼠は……と、俺が固まっている間にも、隊列は整う。そして、
「おお岡本さん、みみなさん伏せてください!」
「頭上げないでね!」
「撃ちます!」
飯田の指示で前列の盾4人がその場で
(感心している場合じゃないのだ、さっきみたいに【身体強化】で敏捷を上げて集団を突っ切り、コボルトチーフに【統率】を使わせないようにするのだ!)
マジかよ……
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