*8話 合同パーティーでゴー! ④ 奇襲の5層!


 一旦3層に戻りリスポーン時間を調整した後、2度目のアタックを実行。特に問題は無く3層、4層全域のモンスターを掃討。一旦4層入口に集合し、モンスターの姿が無くなった通路を5層へ向けて移動する。


 これまでTM研も脱サラ会も安定した討伐ペースを維持している。彼等との行動はこれが3回目だが、過去2回の両方ともアトハ吉祥メイズ4層まで到達している。そういう意味では、戦力的にも修練値的にも4層は簡単にこなせる強さに達しているだろう。因みに各PTメンバーの修練値と装備、役回りはこんな感じになっている。


**********************

[TM研]

江本春奈えもとはるな 

修練値287

リーダー・遊撃ポジション

武器:クロスボウ・手製槍

防具:MP-LL-Pro1四肢防具


相川隆夫あいかわたかお

修練値298

遊撃ポジション

武器:飯田金属製組立槍

防具:MP-LL-Pro1四肢防具


井田康介いだこうすけ

修練値301

前衛ポジション

武器:マチェット

防具:アメフト装備1式・市販アームガード

   大型ポリカ盾


上田雅夫うえだまさお

修練値295

前衛ポジション

武器:マチェット・剣鉈

防具:キャッチャー用プロテクター1式


大井小夏おおいこなつ

修練値281

後衛ポジション

武器:コンポジットクロスボウ

防具:トレッキングウェア1式


**********************

[脱サラ会]


加賀野仁かがのひとし

修練値301

リーダー・前中衛ポジション

武器:飯田金属製組立式槍・スリングショット

   マチェット

防具:MP-LL-Pro1四肢防具


木原祐介きはらゆうすけ

修練値299

前中衛ポジション

武器:手製槍・スリングショット

   マチェット

防具:MP-LL-Pro1四肢防具


久島正平くじましょうへい

修練値304

前衛ポジション

武器:剣鉈・ハンマー

防具:飯田金属製:試作甲式2型四肢防具

   ポリカ盾(催涙剤噴霧改造済み)


毛塚平祐けづかへいすけ

修練値299

前衛ポジション

武器:軍用スコップ・スリングショット

   マチェット

防具:MP-LL-Pro1四肢防具

   ポリカ盾


古川譲治こがわじょうじ

修練値303

遊撃ポジション

武器:クロスボウ・マチェット

防具:MP-LL-Pro1四肢防具


**********************


 ほぼ全員の修練値が300前後に集中しているのはメインの活動場所が4層までだったから。ハム太の見立てではスキル持ちは居ないとのことだ。PT内での役回り的には、どのPTも最低1人は盾持ちの前衛を配しているし、遠距離攻撃が可能な装備をしている人が最低2人は居る。メイズでの行動を重ねるうちに、そういうスタイルに落ち着いたということだ。何処のPTも、経緯は別でも似通った結論に至るのが面白いと思う。


 装備面では、飯田の営業活動(?)の成果なのか、先行生産型「MP-LL-Pro1」が中々の普及率だ。TM研の井田君と上田君は元々のスポーツ用品系防具だが、お金が溜まったら切り替えるとのこと。更に脱サラ会の久島さんには岡本さんと同じ重装型装備の試作品を提供しているし、武器面では使い勝手が良い組立式槍の試作品も夫々のPTに1本ずつ提供している。


 飯田自身の発想なのか、それとも社長の父親の差し金なのか分からないが、同じような装備をした人が集団行動をしていると目立つし、何より[脱サラ会]は動画配信を行っているので広告効果は高いだろう。案外商売として上手く行く可能性があるような気がしてきた。


 各PTの面々に「問題はありませんでしたか?」「改善点は何かありますか?」とどもり・・・ながら懸命に訊いて回る飯田の姿を見つつ、俺はそんな事を考えていた。そうして、北側通路を移動する内、先頭の岡本さんが立ち止まる。


「じゃぁ、準備がよければ5層へ行こう!」


 5層へ降りる階段を前に、最終確認を求める岡本さんの声が響いた。


**********************


「ちょちょちょっとお岡本さん、ここコータ先輩――」


 5層に降りる直前、飯田が小声で変な事を言った。曰く「盾を持っている4人が先頭で降りた方が良い」という内容だ。どうも、降りたところでいきなり攻撃される気がする・・・・とのこと。それを聞いた岡本さんは少し考える風になってから、


「井田君、久島さん、毛塚さん、オレと一緒に先行して降りましょう」


 と提案する。4人全員が盾持ちの前衛ポジだ。飯田の【直感】スキルが馬鹿に出来ないのを、競馬予想を通して実感しているからなのか、発言を聞き容れるようだ。


(岡本殿は賢明なリーダーなのだ)


 とは、久しぶりに【念話】で語り掛けてきたハム太。昨晩はっちゃけ・・・・・過ぎたと反省でもしていたのか、今日はこれまで大人しかった。しかし、5層を前に気合が入って来たのだろうか?


(弓や弩を持った人たちにも射撃体勢を整えるように言った方がいいのだ)


 というアドバイスまでしてきた。


「朱音も、他の遠距離可能な人達も射撃体勢で行きましょう」


 ハム太の追加アドバイスは、弓持ちではない俺が伝えることになった。少し変な感じもするが、一応チーム岡本の司令塔役(暫定)だから良いだろう。


 という事で、盾持ち4人を先頭にバックアップ的な意味合いで近接武器装備のTM研の相川君と上田君と俺の3人、その後ろに朱音を始めとした遠距離攻撃手段を持つ残りのみんな、という順で5層へ降りる。


 果たして、飯田の直感は……見事に当たってしまった。


――ゴブリンアーチャー、3匹か!――

――弓かよ!――

――どうする、散開するか?――

――撃ってきたぞ!――


 先行した4人の声が妙に遠くから響くように聞こえてきた。メイズの階層を跨ぐとこんな感じに距離感が分からなくなるが、時間的には下りた直後だ。そのうち岡本さんの声が「ゴブリンアーチャー」と言うのが聞こえる。そうなると、北七王子メイズ5層と同じ構成だろうか?


(百聞は一見に如かず、なのだ!)


 仰る通りです、ハム太さん。などと心の中で言いながらも、階段を駆け下る。そして、5層の光景が視界に入って来た。


 なんだここ、広い! 


 というのが第一印象。これまでの通路の3倍はありそうな空間が左に曲がりつつ奥へ続いている。その広い空間に散開したゴブリンアーチャー3匹が先に降りた岡本さん達へ矢を射かけている。よく見ると、各アーチャーの前にはそれを守る様に武装したゴブリンソルジャーの姿が2匹ずつ、計6匹いる。しかし、距離が遠い。どうする?


(4人の盾の裏に弓持ちを集めて簡単な陣形を取るのだ。コータ殿たちは散開して……囮として頑張って矢を躱すのだ)


 前半は納得だが、後半は……って考える暇はないな。


「岡本さん、散開するより密集して壁を作って!」

「お、おう、分かった!」

「朱音たちは岡本さんの後ろから応射して、狙う相手は飯田が指示を!」

「はいっ!」

「えええ、ははいぃ!」


 ハム太の指示を復唱する形で全員に伝える。これで全体的に浮足立った盾持ち4人と、追い付いて来た後続の遠隔攻撃手に動きの統一感が出る。一方、


「コータさん、オレたちは?」


 と訊いて来たのはTM研の相川君。彼を含む俺達近接攻撃手3人は……敵の目を散らす囮だ!


「動き回って、遊撃というか、かく乱だ!」

「ええ?」

「大丈夫、そうそう当たるものではない!」


 自分で言っておいてなんだけど、なんだか当たりそうな台詞になってしまった。だが、これで何とかなるはず。朱音たちの射撃の腕頼みになるけど、ゴブリンアーチャーの矢がポリカの盾を抜けない・・・・のは北七王子メイズ5層で確認済み。後はこちらがじわじわと削るだけだ。ゴブリン側が嫌がってゴブリンソルジャーが距離を詰めてくれば、それこそチャンス。かく乱にまわっている俺達が一気にアーチャーを叩く。そんな筋書きが頭の中に出来上がった。


 しかし、アトハ吉祥メイズの5層はそれで終わるほど甘くなさそう。というのも、


――ウォウォォオォオオオン!――


 いや~な遠吠えが、だだっ広い空間の奥から聞こえてきた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る