*7話 合同パーティーでゴー! ③ 3層・4層突破!


 アトハ吉祥メイズ3層は以前[TM研]が挑んで、リーダーの春奈ちゃんが瀕死の重傷を負う結果に終わった層だ。行きがかり上、止むを得ずハム太の【回復(省)】を使用することになり、ハム太の存在をチーム岡本のみんなに明かす切っ掛けとなった思い出深い層になる。随分昔の出来事に感じるが、たった1か月前の出来事だ。今年の8月から色んなことがあったから、どうも時間の感覚がおかしくなっている気がする。


 ただ、1か月という時間の流れを早く感じるか遅く感じるかは別として、確実に変化は現れている。それは修練値や、ハム太の【鑑定(省)】でも数値化できない経験の蓄積、パーティー内外の連携の熟練、装備の改善、と言った風に多岐に渡る。そして、確実に言えることは、嘗て熾烈に感じた3層の環境が今やただの通り道に変わった、ということだ。


「じゃぁ、南側をサッと掃除してから、東、北、西で分かれて、掃討したら一旦この場所に戻る、ということで」


 と言うのは、ウチのリーダー岡本さん。持ち回りで全体の仕切りをやることになっていて、今回はチーム岡本の番、ということだ。


 3層の構造は入口ホールから東西南北4方向に通路が伸びるが、その内南の通路は短く浅い。一方、東と西の通路は奥で北の通路に合流する回廊状になっている。4層への降り口は西の通路側にあるが、先ずは3層のモンスターを一掃してから4層へ向かったとしてもリスポーンタイムには十分余裕がある計算だ。そのため、先ず南を全員で掃除・・してから、残りの東・北・西に分かれてモンスターを掃討する計画になる。


 因みに3PTパーティー合同行動の取り決めとして、各PTが単独で行動する間のドロップは各PTの取り分に、3層南の通路のように共同行動した場合は3PTでの折半というルールを決めている。3PTで折半する場合はややこしい状況になるため、買取り前のドロップ品レベルで分け合う決まりだ。端数が出る場合も多いが、その場合はくじ引き・・・・で端数品を手にするPTを決めたり、偏り過ぎないよう調整することになっている。


 チーム岡本の場合、くじ引きを飯田に任せると全勝する可能性があるので、このくじ引きは俺の担当になっていたりする。後々、飯田の【直感】スキルがバレた時、変ないさかいにならないように、という岡本さんの配慮だ。さす岡・・・的岡本さんの配慮は本当に凄いと思う。やっぱり、流石岡本さん「さす岡」だ。


 今回の3層で、チーム岡本は東側通路を受け持つことになった。モンスターの出現数が多目な割り当てになるが、この割り当ては朱音が代表してじゃんけん・・・・・した結果だ。くじ引き担当は俺、じゃんけん担当は朱音に固定化しつつある。


 ということで3層1回目の行動は東側通路。出現するモンスターは多くても3匹で1セット。背後を襲われる心配が無い状況で、前にだけ集中しつつ3層のモンスターを狩ることは、現在のチーム岡本の実力的に何ら問題が無い。たとえメイズハウンドが3匹纏まって出現しても、朱音と飯田の矢で1匹減らし、その後は岡本さんと俺が1匹ずつ受け持つ格好だ。カタナソード[時雨]を装備した俺は言うに及ばず、岡本さんも1対1なら鎧袖一触がいしゅういっしょくの言葉通りに叩き潰してしまう。


 結果的に3層東側通路の結果はメイズハウンドが9匹、大黒蟻が6匹、スライムが4匹と言う結果。ドロップはメイズストーンが3個に[回復薬:中]が1個。想定通り、ドロップ率は2割程度だった。


 ちなみに4匹のスライムは飯田曰く「どどドロップなな無さそうです」という指摘だったが……結局斃した。ハム太の【収納空間(省)】内の大量に積み上がった砂糖の在庫を回転させる意味もあるし、【能力値変換Lv2】の修練度を上げる一環でもある。別にスライムが憎い訳じゃない。どちらかと言うと好きです、愛しているかもしれない(チーム内のアイデンティティ―的な意味合いで)。


 ということで、東側通路を掃討して3層入口に戻る。その10分後くらいに[脱サラ会]が、さらに5分後に[TM研]が戻って来た。そして、


「じゃぁ、4層行きましょう」


 という事になる。今日の予定では3層→4層、その後3層に戻ってリスポーン待ち後に再び4層へ向かい、最終的には5層へ突入というものだ。時間的に5層突入は14:30頃の予定。今はまだ午前10:30なので余裕のあるスケジュールになっている。


**********************


 アトハ吉祥メイズ4層は降り口ホールから東・北・南の3本の通路が伸びている構造だ。5層への降り口は北側通路の奥に位置する。一方、合同PTの行動は3層と基本的に変わり無い。各受持ち通路の奥まで踏破して降り口ホールへ戻るというもの。戻った後は3層の降り口まで戻り、リスポーンを待ってもう一度繰り返す。


 4層でのチーム岡本の受け持ちは北側通路になった。4層で注意する点はズバリ、レッサーコボルトだ。アトハ吉祥メイズ4層にはこのレッサーコボルトが全フロアで1~2匹出現する。3本の通路の何処に出現するかはランダム性があるようだが、2/3の確率になる。そして、今回の4層でチーム岡本は早々にレッサーコボルトに遭遇することになった。


 レッサーコボルトが注意すべきモンスターなのは何と言っても【遠吠え】で眷属のメイズハウンドを呼び寄せるためだ。そのため、遠吠えを発する前に斃すのが好ましい。しかし、中々上手く行かないのが現実だ。一撃で発声器官を潰すか即死させない限り、5割程度の確率で【遠吠え】を発する。たとえ致命傷でも即死でなければそうなってしまう。


 果たして、今回の遭遇でもそうなってしまった。


「チッ」

「あああ、もう!」


 初撃を担当した朱音の舌打ちと飯田のイラついた声が重なる。


 ただ、考えよう・・・・によっては悪い事ばかりでない場合もある。特に背後を取られる心配の無い状況では、今のチーム岡本にとって【遠吠え】で寄せ集められるメイズハウンドは、


「ドンマイ二人とも!」

「探しに行く手間が省ける!」


 岡本さんと俺が言うように「一気に処理できるから楽だ」という事も出来る。勿論油断は大敵だが、幅4mほどの通路では精々3~4匹が同時に掛かって来るのが精一杯だ。対してこちらの処理能力は、それを上回っている。その上、なまじ犬の形態だからか、メイズハウンドは臭気に敏感だ。岡本さんの催涙スプレー盾はすこぶる相性が良い。


 第一陣の4匹は、前列に辿り着く前に主に朱音の矢で半分に減らされ、残りは岡本さんと俺で1匹ずつ仕留める。続く第二陣は5匹中3匹が岡本さんと俺に辿り着いたが、そこで、


「岡本さん、スプレーを!」

「おう!」


 俺の声に岡本さんが応じる。そして、噴霧音と共にカプサイシンベースの催涙剤がスプレーされた。それと同時にチーム岡本全員が一気に後退。対して催涙スプレーを受けたメイズハウンドはその場で悶絶している。後続に5匹ほど見えるが、それ等も通路に漂う刺激性の臭気に動きが鈍る。こうなると、後は朱音と飯田がメインの仕事になる。


「朱音、【強化魔法】を使って」

「はい!」


 このタイミングで朱音に対して【強化魔法:中級】を使うよう促す。4層の後は一旦3層に戻るので、魔素力50を消費するスキルも遠慮なく使える状況。機会を捉えてスキルを使うことでレベルを上げる目的だ。結果的に元々優勢だったチーム岡本はメイズハウンドを圧倒する。


 中には根性(?)を見せて、催涙ゾーンを抜けてくるメイズハウンドもいるが、今では【能力値変換】や【強化魔法:中級】が無くても2匹3匹程度ならば余裕で立ち回れる相手なので斃すのは簡単。それでも【能力値変換】を使うけどね。レベル上げたいし、容赦する必要もないし。


 しかも俺の場合はカタナソード[時雨]を北七王子メイズで拾った[刃喰鞘はぐろうそう]というアイテムで補修兼強化している。前回ハム太が説明したように、鞘の[喰い口]に別の刃物 ――通販で買い求めた1本5万円の剣鉈を3本も―― を喰わせることで、強度も少し上がった気がする。メイズハウンドの骨程度なら遠慮なく叩き切っても刃毀れすることが無くなった。


 ということで、レッサーコボルトから始まったメイズハウンドラッシュは正味10分程度で終了となる。この後は北側通路に残ったメイズハウンド以外のモンスター、スライムとゴブリン数匹を掃討して一旦おしまいだ。


 結果的に4層ではレッサーコボルト1匹、メイズハウンド14匹、スライム3匹、ゴブリン2匹を斃した。ドロップはメイズストーン4個とメイズハウンドの皮1枚。まぁ妥当なドロップ内容だと思う。


 その後、チーム岡本は4層入口に戻り他のPTを待つ。大体20分ほど待ったところで[TM研]と[脱サラ会]が殆ど同時に戻って来た。時刻は11時30分前。丁度良い時間と言える。


「予定通り一旦3層へ戻る、ってことで良いですか?」


 という岡本さんの言葉によって合同PTは3層へ移動を開始した。


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