*6話 合同パーティーでゴー! ② 飯田金属(株)の装備とその他諸々


 装備類に対する飯田の実家、飯田金属(株)の力の入れ方は、丁度飯田が【直感】スキルを取得した前後で少し変わっていた。それまでは、どちらかと言うと飯田の趣味の延長線上という意味合いが強く、メイスや手甲アームガード脛当てグリーブといった装備を主に岡本さんと自分向けに作っていた。それが、【直感】スキルを取得したのを境に俺や朱音にも積極的に装備を提供、又は試作の要望を聞いてくるようになったのだ。


 という訳で、現在チーム岡本の防御装備は、俺と朱音がCFRP《カーボン強化プラスチック》製の外殻シェルを備える軽装型アームガードとグリーブを共通して装備している。これは飯田金属の[試作乙式2型四肢防護具]ということになり、飯田本人が装備する試作乙式1型よりも関節部分の柔軟性と堅牢性を重視したバージョンアップ品ということだ。


 パーカーにジーンズという普段着系メイズ・ウォーカーな俺や、山ガール風装備の朱音にはミスマッチな外観になるが、慣れとは怖いもので、今では余り違和感を意識することが無くなっている。実際防御力もそこそこ高い事を実感しているので、外観よりも実益を取るという玄人的な思考になっているのかもしれない。まぁ実際はタダ・・で提供してもらったから使っている、という側面……いや、それが全面的な理由だったりするが。


 対して岡本さんの装備もバージョンアップを経験している。俺や朱音と同じ市販のアームガードとレッグガードをベースにしながら外殻シェルの素材は厚さ2mmのステンレス板を前時代的な小札鎧スケールメイル状に取り付けた[試作甲式2型四肢防具]を装備し、尚且つ[試作甲式1型体幹装甲ボディーアーマ]という、アメフトのショルダープロテクターに腹部と背面部を追加したような、よろいとしか形容出来ない装備をしている(しかも肩の部分には必要性の無いスパイクがワンポイントであしらわれている)。


 結果的に岡本さんはパンク風メイズ・ウォーカーのトレードマークとも言うべきレザージャケット装備を断念し、今は半袖のレザーシャツを装備の下に着用している。それでも本人が持つナチュラルないかつさに、ボディーアーマーが持つ異様な迫力が追加され、パンク風装備は1段階レベルが上の存在感を放っている。


 また、主武器であるメイスの方は[試作1号フランジメイス]から変化はないが、ポリカ製円形盾は凶悪な進化を遂げていた。ベースとなる盾本体は以前と同じ品で、表面の渦巻き模様も同じだが、盾の中央部にある仕掛けが施してある。どういう仕掛けかというと、持ち手の親指部分に設けられたレバーを押し込む事で、盾の中央部に仕込まれた催涙剤が噴き出す仕組みだ。しかも、レバーの押し込み具合で液体状態と霧状態の発射をコントロールできる。非常に初見殺しな盾に仕上がっている。


 実はこの盾と似た製品は既に市販されており、特許的な争いを避けるため、飯田金属では改造キットとして売り出すつもりという事だった。そういう言葉が示す通り、チーム岡本が使用している防具類は近々通信販売で販売が開始される予定とのことだ。


 それを決めたのが10月の下旬なのだが、その後直ぐに[管理機構]から第2期受託業者認定証試験開催がアナウンスされ、そして今日11月1日から、不評だった一括買取り制度の見直しが始まった。[管理機構]というよりも、日本政府が[受託業者]制度へのテコ入れを始めた、という事だろう。それを見通しての新製品開発や販売開始決定ということであれば、飯田の【直感】スキルは侮れないものがある。もっとも、本人は「なな何となくです」という事で余り自覚は無さそうだったけど。


 ちなみに、飯田金属製の装備類はTM研や脱サラ会にも提供されている。こちらは、先行試験生産という意味があるようで、無償ではないが格安価格で提供されたものだ。とりあえず、需要が高そうな軽装備関係から市場投入するようで、元々は[試作乙式2型]として作られた物の改良版を[MP-LL-Pro1]という製品名で売り出すらしい。


 飯田の直感が当たれば、大きなビジネスチャンスになるんだろう。


**********************


 とまぁ、そんな事を考えながらメイズの中を歩けるのは、1層・2層に居座っている[赤竜・群狼]クランのお陰だろう。彼等の活動の結果、1層2層にはモンスターの気配が無い。TM研の相川君の話によると、アトハ吉祥メイズに総勢30人が2交代で張り付いているとのこと。更に人気メイズの一つである[国立西駅前ビルメイズ]でも20人で1層を占有してしまったとの事だ。[赤竜・群狼]の勢力は推定で60人程度は居るだろう、そうなれば関東地方の[認定業者]の10人に1人は関係者ということになる。里奈から聞き出した稼働率の低さを考慮すれば、割合はもっと多いことになる。いつの間にか大きな組織に成長したんだな。


 ただ、収益面ではちょっと微妙な気がする。モンスターのリスポーン時間を考えると1日に10回程度リスポーンが期待できることになる。アトハ吉祥メイズの1層・2層だと各層に40匹ほどモンスターが居るだろうから、ドロップ率5%と考えて1度のリスポーンでドロップは精々4個。ただ、斃しにくいスライムに手を付けていない場合は良くて3個位かもしれない。それが1日10回あって、1日の収益はドロップ30個。全部メイズストーンだとして、メイズストーン1個の重さが大体500gだから、1日当たりの総額は約60万円。それを30人で分け合って1人2万円。そこから税金20%を差し引くと、1日の収入は1人1.6万円となる。


 普通に働くよりは良いように見えるが、これは1日を2交代で回した場合の数字になる。労働時間12時間が特に長いとは思えない(これ自体ブラックな思考だけど)が、そこから色々な経費を自分で賄わなければならない。その上、気を抜くと怪我、悪ければ命に係わる大怪我をする可能性もある仕事だ。割に合うか? と問われれば正直微妙なラインのような気がする。勿論、時には高額なスキルジェムなどもドロップするだろうから、本当のところは良く分からない。しかし、


「あの人達、あんまり装備が代わり映えしないですよね」


 と小声で朱音が言うように、こちらを睨むような視線を送って来る連中の装備は、ここ1か月で余り変わった感じがしない。相変わらずバラバラな服装にマチェットや手製の槍のような装備をしている。装備に回す金が無い、といったところか。まぁ1層2層ではそれでも良いかもしれない、実際俺も木太刀だった訳だし。


「あんまり見ないほうがいいぞ、妬まれる」


 とは岡本さん。世知辛い話だが、他の[受託業者]よりも深い階層でモンスターを狩る俺達の方が全体的な収入は多い。そのため、装備も整っているし、今は飯田金属製の装備を3パーティーが身に付けているから、外観に妙な統一感まで出てしまっている。それが、妬みの対象になり、妙なトラブルを招く可能性は高いかもしれない。


「気を付けます」

「俺も気を付けるよ」


 という事だ。そんな感じでコソコソとメイズ内を移動する内に、[チーム岡本][TM研][脱サラ会]の合同パーティーは3層への降り口へ辿り着いていた。そろそろ、気分を切り替えて集中する時間だ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る