*5話 合同パーティーでゴー! ①出発前


2020年11月1日 アトハ吉祥メイズ


「はぁ~」


 思わずため息が出る。勿論、昨日の午後に自宅アパートで起こったゴタゴタが尾を引いての溜息だ。


 何の前置きも無くハム太とハム美という超常現象ハムスターズを目撃した千尋は、突然訪れた未知との遭遇を「理解と納得はしていないが、現状は受け入れる」というスタンスで処理してくれた。


 と言うと、なんとも大変な説明や説得をしたように聞こえるが、実はそうでもない。勿論、途中の説明はそれはそれは骨が折れる内容だった。ただ、最終的には「可愛いから気にしない」という、俗に言う「可愛いは正義」的な結論に落ち着いてくれた。


 柔軟な思考なのか、それとも物事を深く考えない性格なのか……俺としては兄譲り・・・の柔軟な思考と思いたいが、とにかく、千尋に拒否反応的な物はなかった。それなのにぐったりと疲れた気分になるのは、実はその後の展開に主な原因があった。


 たった三日間の行動制限だったにも関わらず、ハム太とハム美は「自分達で自由を勝ち取った」とばかりに、宴会を始めてしまったのだ。ハム太が言うには「戦勝祝賀会」らしい。戦勝って……戦った相手は俺か? と思わないでもないが、そんなハム太は口実さえあれば、中身は気にしないようで、【収納空間(省)】から秘蔵の日本酒類やおつまみ類を取り出して、ハム美と千尋を交えた飲み会を開始した。


 酒の肴ついでに、俺の日常生活を暴露して盛り上がる、なんともたちの悪い飲み会が目の前で繰り広げられた結果、精神的にかなり消耗した。どれくらい消耗したかと言うと、買った覚えのない秘蔵の日本酒(ナントカという酒蔵の純米大吟醸とか)や、おつまみ類(北海道ナントカ町のふるさと納税返礼品!?)に、ツッコミを入れる気力も湧かないほどだった。クレジットカードを変えよう、とは思ったけど……


 ただ、結果オーライな部分もあるにはあった。翌日、つまり今日だが、俺がメイズに行っている間の千尋の護衛をハム美に任せることが出来たのだ。ハム美としては、


「大輝様から里奈様の護衛を、と任務を受けてるニャン。でも、千尋様も同じ女性だから護衛するニャン」


 と軽いノリで引き受けてくれた。ちょっと心配だが、「ハム美はメラノア王国の一級宮廷魔術師なのだ、[非常勤]であの地位に就く者は他に居ない、それほどの実力の持ち主なのだ」とはハム太談。どれくらい凄いかというと、本体である魔石(最上級の純粋魔石というらしい)の魔力を魔素に強制変換させてメイズの外でもスキルが使用できるほどだという。更にその魔素を他人に渡すことまで出来るらしい。


 言われてみれば、なるほどと思う。あの晩、ワゴン車に連れ込まれそうになった千尋を助けた時、ハム太もハム美も本来は使用できないスキルを使用していた。不思議生物だから、と余り気にしていなかったが、そういう理屈だったのか。


 それにしても、度々出てくる[メラノア王国]って人材面が破綻していないか? 俺にとっては縁もゆかりもない異世界の王国だけど、幾ら大賢者兼勇者な大輝が造ったといっても、聖騎士やら一級宮廷魔術師やらをハムスターにやらせるって……他人事ながら心配になってくる。中の人には是非人材育成を頑張って欲しいと思う。


**********************


「コータ先輩、どうしたんですか溜息なんか吐いちゃって」

「あ、うん……ちょっと、ハム太とハム美の事が身内バレした」

「身内って、千尋さん?」


 俺の雰囲気を察したのか、朱音あかねが声を掛けてきた。ちなみに朱音は千尋の事情を知っている。前回一緒に火鍋を食べた時に、俺が[受託業者メイズ・ウォーカー]をやる切っ掛けとして、千尋の件を喋ってしまったのだ。ちょっと口が滑った感が否めないが、朱音の方は別にそれを言い触らすような気配はない。寧ろ心配してくれるような風に、


「例の件って、どうなったんですか?」


 と借金の件を訊いて来た。好奇心というよりも心配が勝った表情をしている。時々変な感じ・・・・になるが、こうしていると、朱音も可愛い女性だと思う。身内の贔屓目で見て千尋は綺麗系だと思うが、朱音は活発な可愛い系だな、なんていうちょっと失礼な発想をしてしまうものだ。彼氏が居るとかいう話は聞いた事が無いが、まぁ普通に居るだろうな、と思う。


「この間、きっちり返済完了したよ」

「そうですか、良かったですね!」

「ありがとうな、心配してくれて」


 一応、心配してくれたみたいだから、顛末を簡単に報告しておく。すると、


「じゃぁ、胸の閊えもスッキリぽんと取れたということで、今度ご挨拶に――」


 と朱音が何か言い掛ける。その言葉に、


「よし、準備オッケーだな、TM研と脱サラ会さんもオッケーですか?」


 という岡本さんの声が被った。


 何を隠そう今の状況は、これからアトハ吉祥メイズに潜るぞ、というもの。直前の装備点検中だったのだ。そのため、俺は岡本さんの視線が向いている先を見る。隣で短く「チッ」と舌打ちが聞こえた気がするが、気のせいだろう。


「はい、こっちはオッケーです」

「こちらも準備完了だよ」


 岡本さんの問いに答えるのは[TM研]の江本春奈えもとはるなちゃんと[脱サラ会]の加賀野仁かがのひとしさん。これで通算3回目の合同メイズ潜行だ。少し仲も打ち解けてきて[TM研]の面々は名前に「君」や「ちゃん」付け呼びになっている。一方[脱サラ会]の面々は全体的に岡本さんよりも少し年上なので「さん」付けのままだが、雰囲気は良い感じになっている。


「どうせ1層と2層は[赤竜・群狼]の連中が居座っているだろうから、さっさと素通りして3層からですね」

「今日は5層に挑戦だな」


 とはTM研の秀才ポジを務める相川隆夫あいかわたかお君と[脱サラ会]の加賀野さん。決定事項の再確認だ。


「絡まれると鬱陶しいから、無視してサッサと、な」

「大人の対応、ってやつだね」


 とは岡本さんと[脱サラ会]の久島くじまさんの会話。ポジション的にモンスターの攻撃を引き受ける盾持ち前衛ポジ同士だから、仲が良い感じになっている。二人は声に出してそう言い合うが、その認識は全員に共通している。絡む気満々で視線を投げ掛けてくる連中と遊ぶつもりはないし、それによって[管理機構]の里奈を筆頭とした[巡回係]の手を煩わせるつもりもない。特にチーム岡本は前科1犯(?)だから尚更だ。


「じゃぁ、いきましょう!」


 春奈ちゃんの掛け声で、俺達は認証ゲートを通過する。


 因みにチーム岡本の現在のステータスはというと、


**********************

遠藤公太(26歳)

種族  人間(男性)

耐久値 88/88

魔素力 71/71

力   11 (x1.17)

敏捷  12 (x1.17)

技巧  10 (x1.15)

理力  10 (x1.15)

抵抗  14 (x1.15)

修練値 284/334

習得スキル(常時有効型)

・戦技(刀剣)Lv2

習得スキル(使用型)

・能力値変換Lv2

**********************

**********************

岡本忠司(32歳)

種族  人間(男性)

耐久値 111/111

魔素力 51/51

力   12 (x1.18)

敏捷  10 (x1.15)

技巧  11 (x1.15)

理力  10 (x1.12)

抵抗  12 (x1.15)

修練値 -121/329

習得スキル(常時有効型)

・戦技(最前衛)Lv2

習得スキル(使用型)

・挑発Lv--

**********************

**********************

嶋川朱音(23歳)

種族  人間(女性)

耐久値 75/75

魔素力 87/87

力   9 (x1.17)

敏捷  11 (x1.15)

技巧  13 (x1.17)

理力  10 (x1.18)

抵抗  10 (x1.15)

修練値 35/335

習得スキル(常時有効型)

―――

習得スキル(使用型)

・強化魔法:中級Lv1

**********************

**********************

飯田翔(25歳)

種族  人間(男性)

耐久値 72/72

魔素力 79/79

力   9  (x1.13)

敏捷  10 (x1.15)

技巧  9 (x1.15)

理力  11 (x1.18)

抵抗  8 (x1.13)

修練値 319/319

習得スキル(常時有効型)

・直感

習得スキル(使用型)

―――

**********************


 となっている。


 北七王子メイズ5層クリアの結果として、全員の修練値母数が350に近づいている。しかし、その後に他のメイズを4層まで潜っても、それ以上修練値が上乗せされることは無かった。以前ハム太が言っていたように、修練値を上げる目的ならば、深い階層を目指したほうが効果的だということが実証された、というところだ。


 スキルの方面では北七王子メイズの結果から、岡本さんが【挑発】という使用型アクティブスキルの習得待機状態。飯田が【直感】という常時有効パッシブ型スキルを習得した。岡本さんの【挑発】は期待大だが、この様子だと7層か8層目に到達しなければちゃんと習得したことにはならなそうだ。一方、飯田の【直感】というスキルはちょっと面白いというか微妙というか……表現が難しい。


 ――あああのメメイズハウンドがドドロップ持ってそう!――


 とか【直感】スキルで言い当てても、結局全部斃すのだから意味が無かったりする。ドンマイ、飯田!


 しかし、それでも「腐っても鯛」ならぬ「腐ってもレアスキル」というべきか、メイズ内に居る時に限って、次の武器や防具の開発案が閃くようになった、との本人談がある。その結果、飯田の【直感】スキルはメイズの探索そのものよりも、装備面を整える、という方面で影響を持ち始めていた。チーム岡本全体が飯田金属(株)のメイズ装備試験開発部隊のようになり始めた感すらある。


 まぁ、海外製の防具類はかなり高価な上にサイズ表記が日本と微妙に違うため、購入にはリスクが伴う。その点だけでも、大分に助かっているけどね。


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