*47話 北七王子メイズ3回目① Yes! 金の亡者
2020年10月14日
この日はチーム岡本にとって初となる平日のメイズ行き。集合時間は10:30といつもよりも少し遅め。通勤ラッシュの時間帯をズラして移動するためにこの時間になった。それでも、途中の駅や電車内の様子はやっぱり週末とは雰囲気が異なる。その雰囲気の違いに、どこか、前の会社に入りたての頃初めて休日出勤をした時を思い出した。あの時は普段と違う週末早朝の駅の雰囲気に少しワクワクしたりもしたけど……まぁピュアだったなぁと思う。
平日を交えて週2回メイズに行くという案は少し前からあったものの、それが今日になった理由は、単純に前回の収入が少なかったからだ。前回ドロップしたスキルジェムを
[管理機構]のWebサイト内の買取り実績情報や、内部Wikiページ、外部掲示板の情報を勘案すると、1度の収入として8万円は平均を超えている。しかし、初回と2回目の結果が良く、3回目も何とか6桁を維持していたため、平均よりも良い8万円でも満足できなかった。チーム岡本の原動力は飽く事なき金銭欲である。俺達は金の亡者なのだ。
そんな冗談めいた事を考えながら北七王子駅の北口を出る。3台ほど客待ちしているタクシー乗り場の先に、小さな緑地の景観を壊す事甚だしい[管理機構]のプレハブが見えた。
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結局、チーム岡本全員は集合時間の10分前にはプレハブ内の休憩スペースに集合していた。流石元ブラック企業戦士。全員が揃うと開口一番に発言したのは朱音、
「この間はどうもすみませんでした」
と、前回の反省会で泥酔したことを詫びていた。
実はあの翌日の昼過ぎに朱音から電話があって、そこで俺はザックリと
――あの後、アパートの名前を何とか聞き出して、タクシーを拾ってアパートへ向かい、オートロックを何とか解除させて部屋に運んでベッドに放り込んで撤収した――
と、彼女が部屋へ辿り着くまでの経緯を説明したのだ。
「まぁ若気の至りだな、次から程々にな」
謝る彼女に岡本さんは少し
「さぁ、今日の目標は4層で狩り。朱音のスキルが使えるところまでやって……できれば5層を覗いておきたいかな?」
と、今日の方針を発表する。異論はない。3層で行ったり来たりを繰り返すよりも4層メインで5層をチラ覗きしたほうがドロップ効率は良さそうだ。見ると朱音も飯田も異論は無さそう。更にハム太はと言うと、
(5層の状況に興味があるのだ。もしかしたらこのメイズは5層で終わりかもしれないのだ)
との事だった。だとすると例の魔坑核を収拾するチャンスかもしれない。そんな期待と共に、チーム岡本は認証ゲートを潜り、3度目の北七王子トイレメイズへ足を踏み入れた。
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流石に3度目の北七王子メイズ潜行だけあって、3層まで全く問題無く順調に進む。現時点での各自のステータスはこんな感じだ。
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遠藤公太(26歳)
種族 人間(男性)
耐久値 75/75
魔素力 59/59
力 11 (x1.15)
敏捷 12 (x1.15)
技巧 10 (x1.12)
理力 10 (x1.12)
抵抗 13 (x1.15)
修練値 233/283
習得スキル(常時有効型)
・戦技(刀剣)Lv2
習得スキル(使用型)
・能力値変換Lv2
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岡本忠司(32歳)
種族 人間(男性)
耐久値 91/91
魔素力 42/42
力 12 (x1.15)
敏捷 10 (x1.12)
技巧 11 (x1.10)
理力 10 (x1.10)
抵抗 12 (x1.12)
修練値 70/270
習得スキル(常時有効型)
・戦技(最前衛)Lv2
習得スキル(使用型)
―――
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嶋川朱音(23歳)
種族 人間(女性)
耐久値 67/67
魔素力 64/64
力 9 (x1.15)
敏捷 11 (x1.15)
技巧 13 (x1.15)
理力 10 (x1.13)
抵抗 10 (x1.13)
修練値 -22/278
習得スキル(常時有効型)
―――
習得スキル(使用型)
・強化魔法:中級Lv--
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飯田翔(25歳)
種族 人間(男性)
耐久値 62/62
魔素力 61/61
力 9 (x1.10)
敏捷 10 (x1.12)
技巧 9 (x1.12)
理力 11 (x1.15)
抵抗 8 (x1.12)
修練値 263/263
習得スキル(常時有効型)
―――
習得スキル(使用型)
―――
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【強化魔法:中級】を取得した朱音の修練値の内、現在値が-22になっているのが興味深い。これだと、修練値が足りなくても先にスキルだけ取得しておくことが出来そうだ。ただ、余り意味は無さそうだけど……というかこれはある意味罠だな。だって、知らない人間がホイホイと無作為にスキルジェムを使うと、先の先、遠い将来まで有用なスキルを取れない可能性がある、ということになる。まぁ、そんな人間はいないだろうけど…‥
ざっと見て、全員が修練値250越えになっている。それに、このメイズの構造や、対複数モンスターへの連携に習熟してきた事が大きい。そのため、モンスターが複数出現する3層でも、さしたる障害には感じなくなっていた。
しかし、前進が容易になっても嬉しいばかりではないのが[
「やっぱり渋いな」
3層最奥の階段を前に休憩するチーム岡本の内、岡本さんは少し溜息混じりで言う。
「ですね……これが終わったら、次回は別の過疎メイズに行ってみますか」
「賛成ですぅ~」
「かか開発資金が……欲しいです」
その言葉に、俺、朱音、飯田の順で同調する。ドロップの景気が悪いと気持ちまで沈んで来るのは金の亡者の宿命なのだろうか?
「過疎メイズだと……下赤羽か西川口……後は成成学園大学のキャンバス内だっけか?」
「成成学園の方は、なんか許可とか別に必要みたいですよ」
「面倒だな……でも下赤羽か西川口かぁ、ちょっと遠いなぁ」
「自動車でもあれば良いんですけどね」
「だったらレンタカーだな」
そんな岡本さんと俺の会話が続く。すると、
「次の話も良いのだが、先ずは目の前なのだ! 油断は禁物なのだ!」
と、ハム太監督の檄が飛んだ。そして、
「じゃぁ、4層行くか」
という事で休憩を切り上げて、4層へ向かう。岡本さんと俺が先頭に立ち、後ろにはいつでも矢を撃てる態勢の朱音と飯田が続く。その隊列のまま、慎重に階段を下り、やがて4層入口の短い直線通路が視界に入って来た。
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