*43話 北七王子メイズ2回目④ 課題克服の復路
前回とほぼ同じ
この時の俺は岡本さんの後ろ、丁度飯田と朱音と並ぶように進んでいた。言うならば1-3のフォーメーションだ。直ぐに前に出る事は出来ないが、接敵後のバックアップが出来る位置取り、ということになる。
近づくモンスターに対して、先ずは安定の飯田と朱音の連携攻撃が決まる。但し、2人が同時に同じ標的を狙うのではなく、丁度
果たして今回は、朱音の矢が左側を進むメイズハウンドの横っ腹に深く突き立ち、転倒させる。一方飯田の矢は右側のメイズハウンドに浅く突き立ち突進の勢いを鈍らせた。そして、岡本さんは、勢を鈍らせつつも尚突進する右側の一匹にザッと接近してから、半歩ほど跳び下がる。
対して、メイズハウンドの方はそんな岡本さんに跳び掛かるのだが、渦巻き模様の盾と前後のフェイント(?)せいで距離感を見誤ったのだろう。結果、距離が足りずに岡本さんの目の前に着地、そこに横殴りにメイスの一撃を受けて殴り倒される。側頭部が酷い具合に潰れて吹っ飛んでいた。
一方、朱音の矢を受けて瀕死となったメイズハウンドには槍に構え直した飯田が接近している。そこまで状況を見た結果、俺の出る幕は無い。そのため、途中から背後に意識を集中していたのだが、それが奏功した。
「うしろからメイズハウンド3匹なのだ!」
来るんじゃないかと予感していたら、やっぱり来た、という感じだ。ハム太の警告が響いた時点で既に[時雨]の鞘を払っている。それにしても三匹、どうする?
「朱音の正面、頼む!」
結局、朱音が持つ連射の利くリカーブボウに1匹任せて、2対1。以前なら、ほかの選択肢が無く【能力値変換】で[力]を強化して、まず1匹減らすために殴りに行く状況だ。だが、今は違う事が出来そうだと思える。前方は飯田と岡本さんの連携で直ぐに片が付くだろう。そうなれば、こちらにも手が回るはず。ならば、無理に一撃の威力を高めて1匹を斃すよりも、2匹に手傷を負わせて怯ませる方がよさそうだ。
以前からこういう発想はあったが、木太刀では「手傷を負わせる」ということが難しかった。しかし、今はカタナ[時雨]がある。これならば、何とかなるはず。と、ここまで考えたところで、
――ビュンッ
と朱音が弦鳴りと共に矢を撃ち出す。視界の端で矢を受けた1匹が転倒。それと同時に「能力値[力]の半分を[敏捷]に変換」と念じた俺は、残り2匹に対して一気に距離を詰める。
2歩3歩でグンッと距離が詰まり、それに慌てた2匹のメイズハウンドは同時に跳び掛かってくるが、今度はそれを後ろに跳び退いて躱す。先ほど岡本さんがやったような前後のフェイントだ。思った通り、2匹のメイズハウンドは攻撃対象を失いただ着地する。そこへ再度詰め寄った俺は、脇構えに付けた[時雨]を低い体勢のまま横薙ぎに振るった。
――カ、カンッ
乾いた音と共に、メイズハウンドの前足2本が宙を舞う。支えを失った1匹がその場に突っ伏すように転倒。もう1匹はそれに驚いたように飛び下がろうとするが、その時既に、振り抜いた[時雨]は顔の左 ――裏八相の位置―― に付いている。[敏捷]は元に戻っているが、跳び下がろうと仰け反るメイズハウンドの首筋はバッチリ攻撃の間合いであった。そして、
――ズッ
裏八相から振り下ろされた[時雨]は、今度は目測正しく、切っ先が頸骨に当たる寸前の深さでメイズハウンドの首を斜めに切り裂いた。気道を断ち割られたメイズハウンドは「ブビュウッ」と風船の結び口を緩めたような音を鳴らして床に崩れ落ちる。会心の、いや出来過ぎの一撃だった。
「……」
再び
――ピュッ
と、不意に俺の前を矢が横切る。朱音が、前足を失ったメイズハウンドにトドメの矢を撃ち込んだのだ。それによって奇妙に昂っていた思考が元に戻った。と同時にゾッとするほどの恐怖を覚える。俺……一体どうしたんだ?
「コータ先輩、2匹もアッサリ斃しちゃうなんてすごいですぅ!」
「そっちも片付いたのか!」
「ろろロマン武器つえ~」
内心の動揺を知らない3人は口々にそう言ってくれる。対して、気取られたくない俺はそんな3人に合わせる。
「20万出した甲斐がありましたよ」
「私が紹介したんですよ~」
「そうだった、ありがとう朱音」
その後、現代の武器屋的な[ミリタリーショップ プラトーン]の話題を少し話して、飯田が「ラララ、ララバイ出現でです」と妙に真面目に言うのを岡本さんと俺で「それを言うならライバルだろ」とフォローしたりしていると、
「みんな気を抜き過ぎなのだ、移動するのだ」
とハム太の声が掛かった。それで全員が状況を思い出し、チーム岡本は再度復路を移動し始める。
**********************
結果として、復路で背後を取られた回数は最初のメイズハウンド3匹を含めて4回。全部が挟撃となる場面だった。その内一番厄介だったのは前後共にメイズハウンド3匹のグループに挟まれた時だった。しかし、あくまで他と比べて
元から強力だった朱音の弓に、俺のカタナ[時雨]と飯田のピストルクロスボウ&組立槍、そして岡本さんの【戦技(最前衛)Lv2】が加わったことによって戦力が向上したチーム岡本は、個々のモンスターを斃すのに掛かる時間が大幅に短くなっており、課題である複数敵による挟撃を殲滅速度で克服しつつあった。
そして程なく3層入口に到着し、そこで昼食を兼ねた休憩をとる。全員のコンディションは前回と比較して良い。肉体的にも精神的にも疲労感が少ないのは、それだけ上手くモンスターを処理しているということだろう。この時は俺も途中の動揺や不気味な気持ちの昂ぶりを忘れて、そう思っていた。
しかし、そうなると、別の問題が頭を
「前回はハム太に止められたけど、今回はどうだろう?」
とはおにぎりを食べ終えた岡本さん。対して問いかけられたハム太は弁当替わりの枝豆をモギュッと頬袋に押し込むと、
「全員修練値が250に達しているのだ、見た感じ3層ではこの値が限界なのだ……」
と、問いに「答えているようで実はちゃんと答えていない」といった事を言う。ただし、それで終わりではなく、
「行ってみるのも良いかもしれないのだ」
と最後は肯定的に答えた。なんだよ勿体ぶって、というのが俺の感想なのだが、そんな時突然【念話】によるハム太の声が頭の中に流れ込んで来た。
(コータ殿……詳しい事は後で話すが、とにかく平常心。平常心なのだ)
その言葉に冷や水を浴びせられたような驚きを感じる。どういう事だ? まさか……
(修練値がこの段階で
今日の3層目から余り【念話】を使っていなかったハム太だが、そこは見抜かれていたのか……わかった、平常心だな。あと、アパートに帰ったらしっかり説明しろよ。それと【念話】でも口の中に物を入れて話すのは良くないぞ……
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