*41話 北七王子メイズ2回目② 1,2層踏破


 1層に入ったところで、ハム太が朱音あかねの予備の矢筒クイーバーを【収納空間(省)】に収めた。


「ありがとう、ハムちゃん」

「矢筒は後で返すのだ、足りない状況になったら朱音嬢の矢筒に直接予備の矢を送り込むのだ」


 とはハム太倉庫番・・・の言葉。しっかり呼び名が「嶋川嬢」から「朱音嬢」に変わっている。それにしても、今まで意識しなかったけど【収納空間(省)】に物を出し入れする時の条件ってどうなっているんだろう?


「なんかソレ便利だな。俺のハンドアクスも収納してもらえるか?」

「お安い御用なのだ、それ、【収納】!」


 すると今度は岡本さんがハム太に声を掛ける。そしてハム太は掛け声と共に少し離れた場所に居た岡本さんの腰に差したハンドアクスを収納してしまった。離れていてもイケるんだ。


「吾輩の【収納空間(省)】は大体……効果範囲5mほどなのだ。ただ、本来の【収納空間】とちがって、取り出す時は無慣性でその場に出すことしかできないのだ……あと、収納中は状態保存しか効果が無いのだ……申し訳ないのだ」


 ハム太が説明するには、本来の【収納空間】というスキルは効果範囲が20mで取り出す際には使用者が全力で投擲する程度の運動エネルギーを付加することが出来る。また、収納中は劣化を防ぐ状態保存の他に、劣化した状態を元に戻す修繕という効果があったとのこと。損傷した装備品類もある程度までなら修繕の効果で元に戻すことが出来たらしい。とんでもない便利スキルだったわけだ。そりゃ、最初に(省)に気付いた時に落ち込むのも分かる気がする。


「まぁ、今のままでも十分便利だ、頼りにしているよハム太」


 少し申し訳なさそうなハム太へ岡本さんのフォローであった。


**********************


 チーム岡本は1層、2層を危なげなく前進、踏破する。これまで出現したモンスターはメイズハウンド9匹、大黒蟻6匹、スライム4匹。出たドロップはメイズストーン3個とポーション〔回復薬:小〕の計4個。前回がなんだかんだとドロップ率4割を超えていたから、今回はその半分程度。ちなみに前回から今回までの1週間で北七王子メイズに入った[受託業者]は居ないらしい。そのため、ドロップ率が減ったとは言え、世間一般の常識になりつつある5~10%よりは随分とマシな結果だ。


 戦闘については、殆どが岡本さんに辿り着く前に飯田と朱音のクロスボウとリカーブボウの先制コンビネーションで斃されていた。朱音の矢が正確なのは今に始まったことではないが、今回は飯田も威力は弱いながら上手く当てていた。


 見ると移動中、飯田は左手に持った槍を杖のようにしているが、一旦モンスターが出現すると、その槍を持った左腕にピストルタイプのクロスボウの銃床を置くような体勢で射撃をしている。依託射撃と言うらしい。その依託射撃とレッドドットサイトの組み合わせで今日の飯田の命中率は朱音に迫るものがあった。


「飯田先輩、凄いですね!」

「ここ、こうなってくると、ピストルタイプの威力が、もも物足りないです」


 朱音の言葉に、少し欲が出てきたような飯田の発言だ。


 一方俺はと言うと、スライム処理の仕事があった。と言うか、それしか無かった。


 スライムの処理には以前から使っている木太刀を使うことになるが、[時雨]を手に入れてからも木太刀の素振りは毎日欠かさず500~1,000回はやっている。というか、普段はそれくらいしかやる事がない。そのため、重量3kgを超える木太刀の扱いも随分と慣れてきた感じがする。


「今の所立ってるだけだから暇だな~。なんかコータの気持ちが分かるよ」


 そんな状況に冗談を言う岡本さん。2回目のアトハ吉祥メイズの時の俺の気持ち、分かって頂けて幸いです。


 そんな冗談を交えながら、チーム岡本は3層へ降りる階段の間近まで進んでいる。冗談が出るというのは余裕があるという事で、前回3層で厳しい戦いを経験したパーティーとしての経験値もあるのだろう。ちなみに各人の現在のステータス関係はというと、


**********************

遠藤公太(26歳)

種族  人間(男性)

耐久値 62/62

魔素力 49/49

力   11 (x1.12)

敏捷  12 (x1.12)

技巧  10 (x1.12)

理力  10 (x1.10)

抵抗  13 (x1.12)

修練値 186/236

習得スキル(常時有効型)

・戦技(刀剣)Lv2

習得スキル(使用型)

・能力値変換Lv2

**********************


**********************

岡本忠司(32歳)

種族  人間(男性)

耐久値 76/76

魔素力 36/36

力   12 (x1.15)

敏捷  10 (x1.07)

技巧  11 (x1.10)

理力  10 (x1.07)

抵抗  12 (x1.12)

修練値 35/235

習得スキル(常時有効型)

・戦技(最前衛)Lv1

習得スキル(使用型)

―――

**********************


**********************

嶋川朱音(23歳)

種族  人間(女性)

耐久値 58/58

魔素力 55/55

力   9 (x1.12)

敏捷  11 (x1.15)

技巧  13 (x1.15)

理力  10 (x1.10)

抵抗  10 (x1.10)

修練値 241/241

習得スキル(常時有効型)

―――

習得スキル(使用型)

―――

**********************


**********************

飯田翔(25歳)

種族  人間(男性)

耐久値 53/53

魔素力 52/52

力   9 (x1.07)

敏捷  10 (x1.12)

技巧  9 (x1.09)

理力  11 (x1.12)

抵抗  8 (x1.12)

修練値 227/227

習得スキル(常時有効型)

―――

習得スキル(使用型)

―――

**********************


 いつの間にか、朱音に修練値で抜かされていた。しかも岡本さんとも僅差になっている。同じ階層に留まると修練値は頭打ちになる、ということが影響しているのだろう。それにしても、前回確認したときよりも修練値の伸びが悪い。前回は北七王子メイズの3層で嫌というほど複数モンスターと戦ったのだが、どういう事だ?


(修練値は分母の数字が大きくなるほど伸びにくいのだ。あとは、複数出たといっても各個体は1層にも出るモンスターだから、その影響もあるのだ)


 というハム太の【念話】によるアドバイス。という事は、初めの修練値が貯まりやすい状況で取得するスキルを選別するのって、相当重要なことだ。ゼロから200まで貯めるより、200から400まで貯めるほうが難しい。最初に変なスキルを取ってしまうと、最悪詰んでしまう・・・・・・可能性もありそうだ。


(正解、鋭いのだ!)


 やった、正解だ、あざーす。となると、岡本さんが取得した【戦技(最前衛)】は修練値を200も使用した。あれって大丈夫だったのかな?


(大丈夫なのだ。【戦技(最前衛)】は、普通の【戦技】に、【防御向上】【耐久成長】という常時有効型パッシブスキル3つ分の効果を併せ持ったお得スキルなのだ。別々に取ると多分修練値350くらい必要になるところが200で済むお買い得スキルなのだ)


 スキルってそんなバーゲンセールみたいな事するのか? と疑問に思うが、まぁハム太が言うならそうなんだろう。確かに岡本さんのステータスは[耐久値]の伸びが大きい。しかし、現状岡本さんの修練値はスキル習得に使える部分が35しかない。当面新しいスキルを習得することは出来ない。俺のように[魔坑核メイズコア]を経由してスキルを習得することは出来るだろうけど……


(だから、メイズコアを得ることはとても重要なのだ)


 この辺はハム太から何度も聞いているが、まぁそう言う事なんだろう。


 と、俺が【念話】でハム太と修練値について話している内に、チーム岡本は3層へ降りる階段に辿り着いた。


「休憩してから3層行くか?」

「私は大丈夫で~す」

「ぼぼ僕も大丈夫」


 まぁ、一度3層で複数モンスターの挟撃を経験していると、2層までの単体出現はそれほどプレッシャーを感じない。そのため、飯田も朱音も随分と平気そうな感じでそう答える。


「じゃぁ」

「行きましょう」


 ということになった。


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