*40話 北七王子メイズ2回目① チーム戦略と装備変更
2020年10月11日
例年ならば3連休の中日に当たる日曜日も、オリンピックを見込んだカレンダー変更を受けて、今年は只の日曜日となっている。オリンピック自体は来年に延期されているが、変更になった休日はそのままだ。もっとも、メイズに行く日以外は毎日が休日状態の俺には(他の3人はどうか知らないけど)あんまり関係がない。つい数か月前までは「休日なんて無いよ」という逆の意味でやっぱりカレンダーはあまり関係無かった気がするけど……深く考えないでおこう。
午前9:00に北七王子駅に集合したチーム岡本はそのまま北口ロータリーの緑地内にあるメイズへ直行する。今日の目標は3層で疑似的に前後から挟撃されるシチュエーションを作って対処に習熟するというもの。その上で調子が良ければ4層を少し覗こう、という事になっている。何となく運動部的なノリがあるような気もするが、目的はあくまでも4層以降に潜行しドロップを多く得る、という実に
調べたところ[受託業者]で4層以下に潜った者は、[受託業者]制度開始直後に無理をして前進突貫を行った少数を除き、どうも居ないらしい。ちなみに、無理をした連中の多くは病院送りになっており、死者を出したのもそんなグループだったようだ。
現時点で、メイズの人気は[霞台駅メイズ]や[国立西駅前ビルメイズ]、[アトハ吉祥メイズ]といった、比較的アクセスが良いか、又は各層が広いメイズに集中している。それらの内で、アトハ吉祥メイズと霞台駅メイズで3層まで進み安定的にドロップを収拾する[受託業者]が出始めたようだ。
しかし、[管理機構]のWebサイトにも外部掲示板の[メイズ板]にも第4層に進んだ、という情報は見られなかった。そのため、いち早く4層以降に潜り先行者利益を得ようというのがチーム岡本の基本戦略だ。恐らく、他のパーティーやクランといったグループの中にも「間引かれる機会が少ない深い階層や、不人気メイズのモンスターの方が、ドロップ率が良い」と気付く人たちが出てくるだろう。そんなグループが行動を起こす前に、出来れば各メイズの4層、5層を回ってしまいたいところだ。
そのためにも、複数モンスターが同時出現する3層以下の環境に慣れる必要がある。そして、慣れるという意味で都合が良い一本道構造をしている北王子駅メイズ3層は重要な練習の場になる訳だ。
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また、そういう目的(物欲)があるからこそ、各自の装備は前回と少し違った感じになっている。俺も含めて各自が改善に取り組んでいる、といったところだろう。
まず防具だが、前回腕を負傷した飯田の発案によって、飯田本人と岡本さんは今回飯田金属(株)製、試作アームガードとレックガードを装備している。両方とも警備会社が使うような市販品を利用しながら
「しし試作をたっ試した後で、コータ先輩にも朱音ちゃんにも作ります」
というのが飯田の言葉だ。後は、太腿部分と体幹部を守るアーマーも構想中とのことだ。
また、防具に関しては岡本さんのポリカ盾も奇妙な変更が加えられていた。前回は全面が透明だった盾の表面に黒色のカッティングシートで渦を巻くような模様が描かれているのだ。
「岡本さん、それ……なんですか?」
と思わず訊く俺に、岡本さんは、
「
とのことで、余り気に入っている訳ではなさそう。なんでも、飯田が盾の表面に幾何学模様を描くことで距離感を狂わせる、という提案をしたらしい。というか、飯田と岡本さんて普段から連絡を取り合ってるのか、なんか意外だ。
一方、武器については、先ず俺が木太刀装備を改めてカタナソード[時雨]を装備している。ただ、ハム太が言うには「スライムを叩く場合は木太刀の方が良いのだ」との事なので、そちらはハム太の【収納空間(省)】に入れてある。初めて
「みんな驚くと思って内緒にしてましたぁ~」
との事だった。いや、驚かせてどうする?
そして、そんな朱音は外観こそ変わらないものの2ポンドほどドローウェイトを強くしたベアボウタイプのリカーブボウと共に、普段の12本入り
「でも、後でハムちゃんに収納してもらいますから」
という返事。流石にちゃっかりしている。
そして最後に飯田だが、ピストルタイプのクロスボウはスリングを取り付けて首からぶら下げた状態にして、その上で前回の予告通りに槍のような長尺の武器を手にしている。長さは1.8mほど。飯田や俺の背丈よりは大きく、丁度岡本さんの背丈と同じくらいだ。飯田が言うには、3分割の組み立て式の槍らしい。柄の部分は岡本さんのメイス同様にジュラルミン製のパイプ材に発砲硬質ウレタンを流し込んで補強した物。連結部分は鋼鉄製のジョイントを差し込むタイプだそうだ。
「ね、ねネジ込みにすると、その部分にウレタンフォームが入れられないので」
との事だ。そして穂先に当たる部分は飯田のコレクションから秘蔵の(メイズ関連法施行前はバッチリ違法な)中型ダガーナイフを1本潰して袋穂状の穂先に仕上げたとのことだ。いや、ダメだろ、結果オーライだけど。
「だだ、だ大丈夫です、自分の家でつつ作ったって言いますから、ムフフ」
最近活き活きとした目をする飯田の言葉だった。
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各自が装備を確認して準備が整ったところで、
「今日の結果次第だが、週1回から2回に頻度をあげようと思っている」
と岡本さんの発言。これには基本的に大賛成だ。俺個人の事情として妹・
岡本さんの提案に関しては飯田も朱音も同じように異存は無さそうだった。そして、
「まぁ、あくまで今日の結果次第だ。まずは3層、出来れば4層の様子も覗こう」
ということで、俺達は認証ゲートを潜り北王子メイズに足を踏み入れた。
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