*34話 挑戦! 北七王子メイズ② ハム太のダメ出し、なのだ!
3層からはマップが無いので飯田が持つ[PLS-TAB Model:CU-M02]というマッピングデバイスが頼りになる。しかし、基本的に通った場所を記録する装置なので、進む先のマップまで表示することは出来ない。そのため進む速度は遅くなった。ただ、ラッキーなことに3層の通路は降り口の階段から一本道の構造になっている。いくらハム太の【気配察知】があるといっても、構造的に背後の安全が確保されているというのは心強い。
通路は[PLS]の表示によると西に向かって伸びている。階段を降りて10mほどで一度クランク状に折れ曲がったが、その後は30mほどの直線。その先の様子からして、もう一度クランク状に曲がるように見える。隊列は岡本さんを先頭に左が飯田、右が嶋川、最後尾が俺、といった状況。そして30mの直線通路を半ばまで進んだところで、
「奥から……メイズハウンド3匹なのだ!」
おっと、いきなり3匹出現かよ! と思う間もなく、前方のクランク
「飯田は左側、嶋川は撃てるだけ撃って! 岡本さん、援護します!」
そう指示をして、岡本さんの元に駆け出す。その両脇から
――ビュン、ビュン
という聞き慣れた弦鳴りが響き、
「ギャンッ」
嶋川が狙った1匹が突進から脱落する。しかし、飯田の矢は当たったものの
――ガンッ、
その瞬間、岡本さんはポリカの円形盾を振り払うように動かし、メイズハウンドが繰り出す咬み付き攻撃を叩き落とした。しかし、モンスターはもう1匹いる。そちらの方への対処は出来ず、
「うわっ!」
という声と共に、岡本さんはとにかく後ろへ飛び退くのが精一杯だった。そして、運悪く、岡本さんの援護に回ろうしていた俺と、飛び退いた岡本さんが衝突してしまう。
「うおっ?」
「あがぁ?」
32歳と26歳の男がメイズの床で縺れ合う。どの層にも需要の無い絵ずらになってしまった。
「おおおかもとさんん!」
飯田の焦った声が聞こえる。その瞬間「ピュッ」と矢が鳴らす風切り音が右から響いた。
「ギャン!」
飛び退いて床に転倒した岡本さんに追撃を加えようとしたメイズハウンドは寸前のところで嶋川の矢で斃された。そして、
「コータ先輩!」
そんな嶋川の声を聞きながら、俺は
「ギャ……」
駆け寄ってきた飯田の超至近距離からの接射が、弾き飛ばされたメイズハウンドの頭部を射抜いた。
「はぁ……」
静けさが戻った通路に誰の物か分からない溜息が籠ったように響いた。
**********************
「……すみません」
「まぁ、次から気を付けよう」
「はい……」
なんとなく気まずい雰囲気になる。さっきの衝突は確かに俺が悪いと思う。2匹のメイズハウンドに気を取られ、岡本さんの動きを予測できなかった。対して、岡本さんは「次から気を付けよう」と言い、
「まぁ2匹同時に出たことはこれまでもあったけど、同時に飛び掛かられる状況は今回が初めてだったしな」
と、フォローまで入れてくれる。外見はコワイけど、基本イイ人な岡本さんだ。
「やや矢があたったののに、そっそのまま突っ込んで来ました」
とは、飯田。確かにクリーンヒットではなかったが、これまでのメイズハウンドはあんな一撃でも驚いて突進を止めたりしていた。それが、3層に来てメイズハウンドの動きが変わったように感じたのは事実だ。
「同じ魔物でも階層が深くなると強くなるのだ――」
とはハム太の言葉。そして、
「コータ殿はもっと立ち位置に融通を利かせたほうが良いのだ」
とのことだ。どういう事かというと、一本道の通路では背後から襲われる心配が少ないので、岡本さんの近くに陣取っていても良いということ。いや、仰る通りですよ。
「以後……気を付けます」
ハムスターに頭を下げるのはプライドが許さない、そう思っていた時期が俺にもありました……。ただ、そうなら最初から言って欲しいとも思う。
「ま、間違いから気付きを得ることが大切なのだ!」
ん? なんか、今一瞬焦らなかったか?
「数をこなして慣れるのだ!」
一瞬疑問を感じたが、まぁそう言うものだと思うことにする。
(……ちょろいのだ)
いや、今の【念話】は聞こえたぞハム太……
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「数をこなして慣れる」というハム太の言葉にチーム岡本は前進を再開する。
その後、モンスターは何度も複数で現れた。メイズハウンドが3匹とか大黒蟻が2匹とか、大体そんな感じだ。ただ、4匹以上の集団で出現することは無かったので「3層はこういうものか」と何となく把握することが出来た。
対複数の連携については、最初の1戦で
ただ、嶋川の矢も100発100中という訳ではない。矢を外してしまい、2対3の状況になることが3度ほどあった。その場合は、岡本さんが盾で1匹を抑え、メイスでもう1匹を牽制する間に、俺が【能力値変換Lv2】を使って素早く1匹を処理することで対応する。【能力変換】は「[抵抗]の半分を[力]へ」というのが定番になりつつある。以前[抵抗]ゼロの状態でモンスターの
また、飯田が積極的に前列付近に上がってくるようになったのも、対複数戦の連携に於いて重要な変化だった。元々威力が弱めのピストルクロスボウだったが、3層で防御力高めの大黒蟻に対して高確率で弾かれる状態になっていた。そのため「距離を詰めて威力を出す」という選択をしたらしい。結果として、岡本さんの盾に抑えられているモンスターに至近距離から矢を撃ち込む形になって、効果を上げることに成功していた。
「つ次は槍みたいなもものをも持ってきます」
飯田は新武器開発のヒントも得たようだ。単発のクロスボウより、連続で攻撃を繰り出せる槍の方が良いと思ったのだろう。ただ、クロスボウと槍を持ち替えて戦うって……飯田は大丈夫なんだろうか?
**********************
そんなこんなで、試行錯誤しつつ3層を進んだチーム岡本は2時間半ほどの時間を掛けて3層を踏破すると、4層へ降りる階段へ辿り着いた。
ちなみに3層は幾つか分岐があったものの、どれも直ぐに突き当りになっていて、基本的に「コ」の字のような一本道構造だった。複数敵に対する連携対処の模索段階で、背後を突かれる心配が無い環境は有難いものだ。
そして、4層へ降りる階段を前に「この後どうする?」の話し合いになる。時間的にお昼が近いので、その場(トイレ風の床だけど)に座り込んで携帯食を齧りながらの話し合いだ。
「4層どうする?」
とは、おにぎりを齧りながらの岡本さん。奥さんの手作りらしい。良いですね(棒)。対して一粒で100m走れるらしいお菓子を食べる飯田が、
「ぼぼ、僕はどちらでもいいいです」
主体性に欠ける発言。そして嶋川は、
「私は、コータ先輩とハムちゃん次第かなぁ~」
なぜ、そこで判断をこっちに投げるのか?
「コータはどう思う?」
結局、岡本さんの質問に答える役目は俺にまわってきた。うん、どうしたものか……。3層に留まり連携の習熟度と各自の修練度を上げるという案と、更なるドロップを求めて4層へ進む、という両案が考えられる状況だ。
ドロップは、予想通り潤沢に出た。しかし、今日は高額買取り商品が出ず、ドロップの大部分はメイズストーンと素材類だ。収入的には一人10万円も行かないかもしれない。ならば、更なるドロップを求めて4層に降りてみるのも良さそうだと思う。
3層に留まるにしても、リスポーン時間的に3時間ほど待ったうえで、この階段前から入口へ向けて折り返すことになる。というのも「これから引き返して入口からやり直す」というのはリスポーン的に危ないからだ。構造が1本道なだけに、中途半端に
しかし、そうなると、3時間ほど待ち時間が惜しい。少し勿体無いと感じるのが正直なところだ。
うん、やっぱり4層へ降りよう、と俺の心が固まったところで、
(コータ殿、それは止めておいた方が良いのだ)
というハム太の意見が【念話】で聞こえてきた。なんで?
(少し言い難いのだが、この場で解決できない弱点があるのだ……コータ殿に)
少し言い難そうなハム太の意見。俺の弱点って……なんだ?
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