*33話 挑戦! 北七王子メイズ① 多目的トイレメイズ?


2020年10月4日 9:30


 JR七高ななたか北七王子きたななおうじ駅の北口ロータリー。その中央部分は花壇や木花が植え込まれた小さな緑地になっている。そんなささやかな緑地の中央に公衆トイレを建てたのは一体誰のセンスなのだろうか?


 ついそんな事を考えてしまうが、そんな公衆トイレ内の多目的トイレスペースを出現場所に選んだメイズのセンスも相当だと思う。そして、そんなトイレ内メイズにおもむくチーム岡本も、負けず劣らず相当なものだ。


 元の公衆トイレにぴったりと隣接した真新しいプレハブ小屋が[管理機構]の所謂いわゆる出店でみせになる。周囲の景観を無視した2階建てのプレハブ建築は、2階が男女別の更衣室で、1階はセキュリティーゲートと買取りカウンター、休憩スペース、メイズ手前の認証ゲートと、盛り沢山に詰め込まれた構造になっている。認証ゲートからは多目的トイレの床一面にポッカリと空いたメイズの入口が見えるほどの近さだ。


 着替えを済ませた俺達は認証ゲート前に集合。岡本さんが代表してパーティー登録を行う間に周囲を見渡すが、当然の如く他の受託業者の姿は無い。色々調べた結果、ここが不人気な過疎メイズ・・・・・であることは間違いないようだ。確かこれまでに潜った受託業者の数は1組3人だけはずだ。


 そのような不人気過疎メイズ・・・・・であるが、「斃される機会が少ないモンスターほどドロップを良く落とす」という仮説を立てている俺から見ればまさに「穴場」に見える。もう、場所がトイレとかはどうでもいい。妹:千尋ちひろが抱えてしまった借金300万円の返済開始が10月末。それまでに兄として耳を揃えて金を準備してやりたい。完全に私的欲求が理由だが、残り200万円のために俺は頑張る!


「本当にトイレの中にあるんですね……」

「でででも、く臭くないです」

「そりゃ、去年の9月に出現してからトイレとして使ってないだろうから」


 嶋川、飯田、俺の会話。嶋川は少し嫌そうだが、飯田が言うように臭うことはない。この北七王子メイズは2019年9月に出現が確認され、2020年2月に固定化された。いわば出来立ての若いメイズということになる。若いという事はそれだけ成長しておらず、したがって底が浅い可能性がある。つまり、


(魔坑核が取れる可能性もあるのだ!)


 というハム太の助言も、このメイズに足を運んだ理由だったりする。


「しかし、パーティー登録って何の意味があるんだ?」


 と、そこに登録を終えた岡本さんがやってきた。10月から突然始まったパーティー制だが、現時点では目的が今一つはっきりとしていない。「優秀なパーティーに買取り価格の恩典が付く」や「多人数でメイズに潜ると受託者共済の掛け金が安くなる」や「ソロ業者を排除するつもり」など、噂は出回っているが、今の所管理機構からの正式アナウンスは無い。


「さぁ?」

「うちは関係ないですよね~」

「いい、行きましょう」


 結局、チーム岡本には余り影響のない話なので、パーティー制の話題はそこまでとなる。そして、俺達は認証ゲートを通り、多目的トイレに出来上がったメイズの入口へと向かった。


 多目的トイレって言葉を一時期ネットで良く見た気がしたけど、何でだったっけ?


**********************


 北七王子メイズマップは現在2層目まで公開されている。しかし、そのマップの広さは1層と2層を合わせてもアトハ吉祥メイズの1層よりも狭く感じるほどだ。こんなところも、このメイズが不人気な理由なのかもしれない。


「随分単純な造りだな」


 1層に降りたところで岡本さんがそう呟く。降りてすぐのホールから正面に伸びた通路の先に、早くも2層へ降りる階段が見えているからだ。


 内部の雰囲気は、やはり出現場所がトイレなだけあって細かいタイル敷きの床と壁、天井はコンクリ風といったところ。明るさや通路の広さなどは感覚的にアトハ吉祥メイズと変わらない。


「ささ、左右のつつ通路は、奥で繋がったかか回廊です」


 予めマッピングデバイスに入力していおいたマップを覗いて飯田が言う。そして、


「1層、どうしますかぁ?」

「折角だからぐるっと回りませんか?」

「そうだな、じゃぁ適当に左側の通路から入って一周して右から出る感じで行くか」


 そんな会話で、とりあえず1層をぐるっとひと回りすることになった。すると、


「通路に入って直ぐの所に……多分メイズハウンドが居るのだ!」


 とハム太が言う。ちなみにハム太は俺のリュックから頭を出している状態だ。本人は「サポートはするが戦闘には加わらないのだ」とのこと。なんでもハム太が戦闘に参加すると俺達には全く修練値の加算が無くなるそうだ。意外と高レベルなハムスターである。


「そんなことも分かるんだ、ハムちゃんすご~い」

「えっへん、なのだ!」


 ハムちゃんって……ハム太、お前はそれで良いのか? ナントカ王国の聖騎士なんだろ、一応。


**********************


 その後、1層をひと回りした俺達は難なくメイズハウンド3匹と少し大きめのスライム2匹を斃し、メイズストーン2個とポーション[回復薬:小]を入手。やはり一般的に通説になりつつある「ドロップ率5-10%」というのは頻繁に間引かれているメイズに限るようだ。


 その後は特に休憩も挟まずに2層へ降りる。2層は少し複雑な造りだが、それでもアトハ吉祥メイズの1層よりも狭い。降り口ホールから続く右手通路は直ぐに行き止まり、左手側通路は奥で分岐しているが、いずれも行き止まり。中央通路の先に3層へと降りる階段がある構造だ。


 この2層では、ハム太の【気配察知】が効果を発揮した。もう隠す必要が無くなったハム太は、率先してモンスターの気配を全員に伝える。そのため、俺達は背後から不意を突かれることも無く、常に先手を取れるような状況になっていた。しかも、この時点で飯田を除く残り3人修練値200越えの状態であったため、単独で出現するモンスターはそれほど強敵ではなくなっていた。


 結果的にメイズハウンド5匹、大黒蟻5匹、スライム3匹を斃し、メイズストーン4個とメイズハウンドの皮1枚、大黒蟻の頭殻1個を拾得することができた。上々なドロップ率だと思う。


 ちなみに、今の各自のステータスはというと、


**********************

遠藤公太(26歳)

種族  人間(男性)

耐久値 58/58

魔素力 46/46

力   11 (x1.10)

敏捷  12 (x1.10)

技巧  10 (x1.12)

理力  10 (x1.10)

抵抗  13 (x1.12)

修練値 168/218

習得スキル(常時有効型)

・戦技(刀剣)Lv2UP!

習得スキル(使用型)

・能力値変換Lv2

**********************


**********************

岡本忠司(32歳)

種族  人間(男性)

耐久値 71/71

魔素力 32/32

力   12 (x1.15)

敏捷  10 (x1.07)

技巧  11 (x1.10)

理力  10 (x1.07)

抵抗  12 (x1.12)

修練値 5/205

習得スキル(常時有効型)

・戦技(最前衛)Lv1 New!

習得スキル(使用型)

―――

**********************


**********************

嶋川朱音(23歳)

種族  人間(女性)

耐久値 51/51

魔素力 49/49

力   9 (x1.10)

敏捷  11 (x1.15)

技巧  13 (x1.15)

理力  10 (x1.10)

抵抗  10 (x1.07)

修練値 212/212

習得スキル(常時有効型)

―――

習得スキル(使用型)

―――

**********************


**********************

飯田翔(25歳)

種族  人間(男性)

耐久値 48/48

魔素力 45/45

力   9 (x1.05)

敏捷  10 (x1.10)

技巧  9 (x1.07)

理力  11 (x1.10)

抵抗  8 (x1.10)

修練値 187/187

習得スキル(常時有効型)

―――

習得スキル(使用型)

―――

**********************


 となっている。俺の【戦技(刀剣)Lv2】は、2層でスライムを叩いている時に上がったものだ。


 能力値的には岡本さんの[力]が補正も含めて一番高いが、この変化に岡本さんは気付いたようだ。


「外では重く感じるけど、中では随分楽に振り回せるなぁ……不思議だ」


 と言いながら、飯田金属製[試作1号フランジメイス](ヘッド部緩み対策品)をブンブン振り回し、メイズハウンドも大黒蟻もバコバコ殴り倒している。一方、そんな岡本さんの様子を見たからだろうか? 釣られるように嶋川も、


「私も弓が軽く感じますぅ、これならもうちょっとドローを重くしていけるかも」


 と言い出した。魔坑外套による能力補正で[力]が10%上がっているのは俺も嶋川と同じはずだけど、俺の方はサッパリ実感が無いから不思議なものだと思う。


「コータ殿の木太刀の振り方は余り力に頼らないやり方なのだ。そもそも訓練用の重たい木太刀は力を鍛える意味もあるけど、疲れない自然な振り方を身体に覚え込ませるのが目的なのだ! 剣術という面ではそれで正解なのだ」


 とはハム太先生のお話だ。本当だろうか? とも思うが元々【戦技(剣)Lv10】だと(本人が)言っているのだし、そうなのかもしれない。今度豪志ごうし先生に訊いてみよう。そう思いつつふと見ると、飯田が納得いかない様子で自分の手を見ていた。まぁ飯田、頑張れ……


「さぁ、3層行くか!」


 そんなこんなで気が付けば3層へ降りる階段は目の前。岡本さんの掛け声にチーム岡本の面々は頷くと、3層へ足を踏み入れて行った。


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