*30話 アトハ吉祥メイズ2回目⑦ 乱戦の第3層!
(スキルレベルが上がったのだ、これで能力値
なるほど「レベルが上がると使い勝手が良くなる」というのはこういう意味か。と納得、[理力]が戻った証拠だ。そして残り1匹へ視線を向けるが、流石にそこは、
「くそぉ!」
「おりゃぁ!」
という井田と上田の二人掛かりの攻撃で最後の1匹は斃されていた。
「はぁはぁはぁ……ありがとうございます、相川が呼んだんですか?」
「ああ、そうだ」
「は、春奈は?」
「大丈夫、それより大井さんは?」
井田の問いに岡本さんが答えて、上田の問いには俺が答える。そして大井の居場所を聞くのだが、
「私はここです!」
東側通路の奥から大井小夏本人の声が聞こえた。見ると、通路の奥に以前1層で遭遇したものよりも更に大きなスライムが通路を塞いでおり、その向こうに大井の姿が見える。しかし、
「てて敵です!」
「こっちにも、コータ先輩!」
俺がスライムに取り掛かろうとするより前に、飯田と嶋川の声が上がる。振り向くと、階段ホールに接続する北と西の通路から夫々メイズハウンド2匹と大黒蟻3匹が姿を現したところだ。しかも、間が悪いことに、
「きゃっ!」
と大井が悲鳴を上げる。今まで無事だった大井だが、ここに来て通路奥からやってきたメイズハウンド2匹に襲われたようだ。北からメイズハウンド2匹、西は大黒蟻3匹、そして東はスライムに塞がれた向こう側に大井が孤立してメイズハウンド2匹と対峙……3層ってこんなにハードなの?
(多分、長引いた戦闘音に引き寄せられたのだ! それより指示を出すのだ!)
とはハム太の意見。ごもっともです。
「岡本さんは蟻を。井田君と上田君はメイズハウンドを押さえて! 飯田、後よろしく!」
俺の指示に岡本さんは「おう!」と答え、井田と上田も返事こそしないが北側通路へ向く。一方、飯田は、
「ふぁっ? あ、ああ朱音ちゃん、おお岡本さんを」
と言うと、自分は井田と上田の後ろに付いた。その分け方は理に
俺はそこで一旦思考を止めると、東側通路へ集中する。スライムの向こう側に居る大井は、槍状の武器を振り回してメイズハウンド2匹を牽制しているが、扱いに慣れている風ではない。その証拠に牽制の効果は薄く、メイズハウンドは2匹とも飛び掛かるタイミングを計っているように姿勢を低く保っている。余り時間が無い、というのが直感だ。大型スライムに砂糖を振ってのんびり炙っている場合ではない。でも、どうする?
([敏捷]を上げて、飛び越えてしまえばいいのだ!)
なるほど、流石は大輝が「経験豊富」と言うだけあって、ただの腹黒いネズミではないな。っと感心している場合じゃない。「能力値……[理力]
――ダンッ!
次の瞬間、踏切の足を
――グシャッ
あ、ラッキー、1匹斃した。
しかし、そう思った瞬間、勢いが付き過ぎた俺は、尻にメイズハウンドを敷いた状態でコンクリ風の床に着地、そのまま仰向けにザーッと床を滑った。
(フギャッ……)
背中のハム太が一瞬悲鳴を上げて沈黙する。潰れたかも……まぁ大丈夫だろう、きっと。
そして、尻と背中の痛さを
「い、いったい今のは何!?」
と言う大井の叫びも無視して、残り1匹のメイズハウンドに対して距離を詰める。流石にメイズハウンドも事態を呑み込めずに動揺しているようだ。ならば今がチャンス。「能力値[理力]の半分を[力]に変換」と念じつつ、木太刀を真横に振り抜いた。
――ガゴッ!
多分クリーンヒットだ。切先下三寸の
結局、大井に襲い掛かっていた2匹は、鳴き声一つ上げる事無く2匹とも絶命していた。
**********************
「ありがとうございます……で、訊きにくいのですが……」
大井の声は戸惑っている。
「どうしましたか?」
俺はそう答えつつも、作業を進める。階段ホール側もひと段落ついたようで、今は北と西の通路奥を岡本さんと飯田の組みと、井田と上田の組みが夫々警戒している。一方嶋川は東側の通路に来て、スライムに取り掛かる俺の背後を警戒するようにリカーブボウを構えている状況だ。
「小夏ちゃん、気になるのは分かるけど……あんまり気にしないほうがいいよ」
そんな嶋川の言葉。まぁ、何が言いたいかは分かるけど……俺は名よりも実を取るタイプの人間だ。ということで、俺は大型スライムの核の真上に砂糖をてんこ盛りに振り終えるとリュックからガストーチを取り出す。ちなみにハム太は無事だった。タフなヤツだ。
(ビックリしたのだ! とっさに魔石に戻ったから無事だったのだ……でも、ちょっと怖かったのだ! 謝罪と賠償に「チー鱈」を要求するのだ! そもそも、もっとスキルに慣れておくべきなのだ――)
などと、先ほどから抗議の【念話】を送り続けている。まぁ、そろそろ買ってやっても良いかもしれないな、「チー鱈」。あと、スキルに慣れるのも考えないとな……と、そんな事を考えつつ、作業化された手順でガストーチの炎を出して、スライム表面の砂糖を炙る。
「……デザート?」
「ブリュレ、だっけ?」
そんな女子同士の会話を小耳に挟みながら、真っ黒に焦げたところで木太刀を構え、【能力値変換Lv2】を使用する。そして、一気に上段から木太刀を振り下ろした。
――ズボッ、バキィッ
流石に大物は手応えが違うが、それでも木太刀の先は核を捉えて一撃で破壊していた。そして、今回は予め予想していたので、だらしなく広がるスライム粘液を寸前で回避することが出来た。余計にスニーカーを買わなくて済んでホッと一安心だ。
一方、床に広がったスライムの粘液はやがて床に滲み込むように消える。そして残ったのは……
「おおっ[スキルジェム]! それに[スライム粘液]! すごいな!」
思わず声が弾む。これでさっきのメイズハウンド2匹のドロップと合わせて[メイズストーン]1個、[メイズハウンドの皮]1枚、それに[スキルジェム]と[スライム粘液]の高額コンボだ。しかも、階段ホール側でも何か出たみたいだし、やっぱり誰も足を踏み入れない階層はドロップが美味しいのだろうか?
「大井! 大丈夫か!」
「うん、上田君……」
一方、通路を塞いでいたスライムが消えたことで、大井と井口、上田が合流する。いい雰囲気で見つめ合っているのは大井と上田、一方の井口は……なんだか悟りきった顔でウンウンと頷いている。すると、
「コータ先輩!」
「お、おう、どうした嶋川……ほら、スキルジェム」
何故か嶋川が走り寄ってきたので、出たばかりのスキルジェムを渡してみた。
「ああ、出たんですねぇ! ……って、ちが――」
嶋川はスキルジェムを受け取り一瞬笑顔になったが、何故か不満げな表情に転じて何か言い掛ける。その声に岡本さんの声が
「みんな、一旦戻ろう! 上で相川君が心配しているかもしれない」
その言葉に全員が頷く。そして、チーム岡本(仮)とTM研の面々は後方を警戒しつつも2層へ続く階段を引き返した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます