*27話 アトハ吉祥メイズ2回目④ ドロップ率とかリスポーンタイムとか
その後チーム岡本(仮)は特に危な気なく2層左側の通路を奥へと進んだ。
T字路の行き止まり側でスライム3匹を斃した後、通路を奥へ進むにつれて更にメイズハウンド5匹と大黒蟻3匹に遭遇したが、単独で出現するモンスター達は大した障害にならなかった。嶋川・飯田の遠距離攻撃で削られた挙句に岡本さんのメイスの餌食になるだけだ。特に飯田の牽制から続く嶋川の一撃は強力で、防御力の劣るメイズハウンドは、ほぼその連携攻撃で斃されていた。
一方俺はというと、通路の奥に存在する2か所の行き止まりで、
ただ、モンスターからのドロップでいうと、メイズハウンドや大黒蟻よりもスライムのドロップの方が、格段に確率が良かった。メイズハウンドは全部で6匹斃したが、ドロップはゼロ。大黒蟻は全部で4匹斃してドロップは[メイズストーン]1個のみ。対してスライムは全部で8匹斃してドロップは[メイズストーン]3個と[ポーション]1個だった。確率で5割を超えるドロップ率になる。
ネット上の大型掲示板にはドロップ率に関するスレッドが幾つか見られた。ざっと目を通したところ、
その情報に基づくなら、メイズハウンドと大黒蟻を斃した結果のドロップ率は概ねスレッドの情報通りになる。その一方で、スライムからのドロップ率は異常に高いという事が出来る。モンスターによってドロップ率の違いがあるのだろうか? と疑問を感じたのでハム太に確認してみたが、
(う~ん……吾輩
という返事だった。まぁ、そもそもメイズに潜る目的が違うから仕方ないのだろう。
(でも、斃されずに長時間存在しているとメイズの魔素が凝集してドロップになる可能性は……あるかも、なのだ)
なるほど……そうだったら、斃しにくいスライムのドロップ率が高いのは頷ける。あと、初めてアトハ吉祥メイズに潜った前回のドロップ率も納得できるものがある。なんといっても、前回俺達が潜るまで、アトハ吉祥メイズは長時間放置されていたという話だ。
「階段ですね」
「一応、2層最奥到着だな」
「どどどうしますか?」
俺がそんな考え事をしている内に、チーム岡本(仮)は3層へ降りる階段までたどり着いていた。
「飯田、どれくらい時間が経ってる?」
という俺の問いに、飯田は首から下げたタブレットタイプの[PLS-TAB Model:CU-M02]という装置に目を落とす。マッピング機能の他に時間管理、移動距離管理、推定消費カロリー、休息時間のリコメンド等、多数の機能が有るらしい。更にオプションのリストバンドを付けると、パーティーメンバーの体温、心拍数、血圧、血中酸素濃度を測定してコンディション管理までできるという優れモノだ。一体お幾ら万円したのだろう?
「く、きゅ、90分です。だいたい」
飯田の答えを聞いて、俺は岡本さんの方を見る。岡本さんはちょっと考えている様子だ。多分、この場所でモンスターのリスポーン待ちをするか、2層入口に戻ってリスポーン待ちをするか、はたまた3層へ進むか、といった選択肢を考えているのだろう。
ちなみに、ハム太の情報では一度斃したモンスターが再度出現する
一方、モンスターのリスポーン待ちも重要だが、俺の場合はスライムを斃す度に【能力値変換Lv1】を使っていたので[魔素力]の残りがほぼゼロになっている(ハム太談)、という事情もある。
現状、俺の魔素力は最大値が40近くに上がっているらしいが、【能力値変換Lv1】は1回の使用で魔素力を10消費するらしい。そうすると4回使用した時点でゼロになるのだが、魔素力は徐々に回復するらしい(ハム太が言うには大体1分に1くらい回復する)ので8匹スライムを斃しても、スキル使用の間隔が10分も有れば問題ない、とのことだ。
しかし、ずっと魔素力の残りが10前後というのは気持ち悪いので、一旦安全が確保できる場所に戻り休憩を入れたいところだ。
「2層入口に戻って休憩するか」
そういう俺の事情は知らないものの、岡本さんの選択は2層入口に戻る、というもの。俺達は一度2層左側の通路入口へ戻ることになった。
**********************
それで、ホール状になった2層入口に戻るのだが、近づくにつれて人の話し声が聞こえてきた。雰囲気的に「揉めている」という訳ではないが、なにやら話し合っているような様子。後から潜ってきた同業者がいるのだろうか? と思ったが、まさにその通りだった。
「あ、戻ってきたよ!」
「こんにちは、お疲れさまです!」
「ども、です」
妙に明るい女性の第一声に俺は一瞬驚いたが、そこは岡本さんが対応してくれた。
「こんちわ……何かあったの?」
外見は(パンク装備とメイスのせいで普段の2倍は)コワイが、口調は
「狩場どうしようかと思いまして~、1層の人達は絶対譲ってくれない感じだし~感じ悪いですよね」
やはり喋ったのは20代そこそこの女性。大学生風だ。そして、
「俺達も朝一からここでやってるから……生活が懸かってるてるしなぁ」
とは、30代半ばの男性。そう言うと「こまったなぁ」とばかりに額に手をやった。どうも女性とは別グループのようだ。
それで、岡本さんがメインになって彼等と話す内に事情が分かってきた。
この時、2層入口のホールに居たのは二つのグループ。その内30代前半を中心とした男性5人のグループが、例のホワイトボードを置いて右側から中央通路を使っていた人達だ。聞けば[脱サラ会]というパーティーを組んでやっているらしい。「本当はリストラ組だけどね」と少しお
そして、後から来た5人のグループは、太摩国際大学[メイズ研究会]という同好会のメンバーだった。
「TM研って呼んでください」
と愛想良く言う女性がリーダーの
「赤竜群狼クランって名乗ってる連中ですね、数は多いみたいですけどマナーが悪いって評判が出始めていますね」
とのこと。喋ったのは[TM研]の
「華があっていいねぇ~」
とは[脱サラ会]の誰かの発言。実に羨ましそうな眼差しは俺達にも向けられていた。確かにウチにも
それで、そんな[TM研]と[脱サラ会]が話していたのは、3層へ降りる左側通路に先行したパーティーがいるんじゃないか? ということだった。後から来た[TM研]が3層へ行くことを決めたものの、通路にモンスターの姿が無いため、そう思い少し待ってみることにしたらしい。
その結果、俺達が左側通路から戻ってきて今の会話になっている、ということだ。
**********************
その後、30分ほど色々と(主に赤竜群狼クランの悪い評判やドロップ率について)話をしてから、[TM研]は3層へ向けて出発した。
「リスポン前に移動しときます」
との事だ。なんと言うか、リーダー江本さんの愛想が良くて、好印象なグループだった。そんな彼女達の背中に[脱サラ会]の加賀野さんが、
「ここ数日は誰も3層へ行っていないはずだから、気を付けてな」
と声を掛ける。「生活が懸かっている」と言うだけあって狩場を譲ることは無かったが、やはり印象は良いようだ。
「分かりました~」
という明るい江本さんの声と共に[TM研]の面々は左側通路を進んで行き、最初のT字路を越えて姿が見えなくなった。
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