*閑話4 チーム岡本(仮)の休日 飯田翔の場合


 とにかくネットでそれらしい画像をかき集める。そして、これは良さそうだ、と思った物を順に保存していく。勿論チームのメンバーの戦い方を思い浮かべて、どんな装備が必要になるか、を考えながらの作業だ。だけど、僕は一つの事実に気が付いている。それは、


 戦闘中のみんなの動き……全然見えて無かった。


 という事だ。僕にとって馴染み深い言葉でみんなの役割を表現するならば、タンクの岡本さん、アーチャーの朱音ちゃん、アタッカーのコータ先輩、ということになる。だが、記号上の役割はそうでも、個々がどのように動くかを、僕は全く見ていなかった。


「だめだ、だめだ、だめだぁ!」


 一度だけのメイズの経験。思い出せるのは自分がいかに不甲斐なかったかだけだ。なんで、こうなるんだ。いつもは「誰も僕を評価してくれない、気にも留めてくれない」とひがんでばかりだったのに、いざとなると、自分が他人を気にも留めていなかったなんて……


 それでも、不甲斐ない僕にみんなは「努力家」だとか「大化けする」だとか、声を掛けてくれた。励ましてくれた。勿論、言葉通りの期待を持たれている訳じゃないことは分かっている。多分、僕が折れてしまわないように、支えるための言葉なんだ。


 だからこそ、このままじゃダメ。ここで折れたら、バイトテロを防げなかったという責任感から逃げ出した3か月前と同じ結果になる。父さんにも母さんにも合わせる顔が無くて部屋に引き籠っていたダメな自分に逆戻りだ。


「このままじゃ、ダメなんだ」


 何でダメなのか、25年も生きていれば何となく分かってくるものがある。まず、僕は心が弱い。綿帽子のようにふわふわと落ち着かないので、平常心というものがまるで無い。なんでそう・・なのかというと、多分ひとつの事を集中して考える時間が短いからだ。ひとつの事を考えていても「あれ、違うかも。こっちかな、あっちかな」となって考えがまとまらない。それで、なんでそう・・なのかと考えてみると、多分自信が無いことが原因だと思う。


 自分に自信がない。難しい言葉だった。でも、この数日その手の本・・・・・を読みまくった結果、余りにも自分に当てはまる事が多くて悲しくなってきた。曰く、コミュニケーションが苦手で成功体験が少なく達成感が希薄、な場合自信を持てなくなるらしい。


 コミュニケーションが苦手なのは、このどもり癖・・・・のせいだ。小学校中学校の頃はもっと酷かった。中には「どもるのは頭の回転が速い証拠」と言ってくれる先生もいたが、それを実感する前に、僕は自分から考えを発しない子供になっていた。そのため、友達といえる存在が少なく、コミュニケーションを通じて得られる共感が希薄で、普通は遊びの中で形成される達成や成功の基礎体験に乏しい。


 正直な感想は、本の中の活字にボロクソに言われた気分だ。読まなきゃ良かったとも思った。でも裏を返せば、成功体験や達成感を積み重ねることで自信が持てて、心が強くなる、ということだろう。なら、やってみても良いかもしれない。


 ただ、ひと口に成功体験や達成感といっても、何をどうすれば良いのか良く分からない。だから、求められている事を少しずつ出来る事にしていくしかない。パーティーの司令塔役なんて正直想像もつかないけど、「岡本さんのサポート」と「マッパー役」2つについては、来週日曜のメイズ行きを前に、装備を整えることで対応出来そうだ。


 まず「岡本さんのサポート」は大きすぎたクロスボウを諦めて、小型で僕の筋力でもコッキングが可能なピストルタイプのクロスボウに変えることにする。ドローウェイトが175ポンドから80ポンドに落ちるから威力も落ちるけど、コッキングできない強さの武器は持っていても意味が無い。あと、命中率を上げるために、エアガン用のレッドドットサイトを取り付ける事に決めている。


 次に「マッパー役」は、便利な道具を頼ることにする。ちょっとマニアックな通販サイトで見つけた品は[PLS-TAB Model:CU-M02]という商品。製造元は米国Parro UAVという米軍向けにドローンと周辺機器を納入しているメーカーだ。この[PLS-TAB Model:CU-M02]は、その名の通りPersonal Locating SystemのPLSで、TABはタブレットタイプ、Model:CU-M02というのはConsumer Use Maze version 02、つまりメイズ向け民生用最新モデルということになる。


 8インチタブレットサイズの筐体に光波測距センサーと超音波反響センサーに加速センサーとデジタルジャイロを組み合わせた測定装置で、元々はGPS信号を妨害された環境下でUAVを制御する技術の派生だという。GPS信号が届かないメイズの中で、自動的にマップを作成してくれる便利装置として、海外のメイズ・ウォーカーには愛用者が多いらしい。値段は50万円と高額だったが、在庫が残り2台だったので、即決で購入した。


 そして最後は……


「よし、話してくるか」


 そう声に出して決心を付けると、メインPCに立ち上がっていたCADソフトのデータをUSBに保存する。中身はある洋物ゲームのMODデータから抜き出し図面化した岡本さん用の[メイス]の図面。そして、コータ先輩用の木刀のホルダーとして自作した図面だ。どちらとも全体図から個別の部品図に落とし込んである。これを、工場を営む父さんにお願いして作ってもらう、というのが最後の準備だ。


 正直なところ、父さんも母さんも僕がメイズに行くことには否定的だ。だから、僕のお願いを聞いてくれるか、正直不安な面もある。だけど、


「そこは説得するしかない」


 食い下がってみてダメだったら、最悪の場合は夜中に自分で工作機を動かすか、下請け繋がりで別の鉄工所に頼むという手もあるけど、出来れば理解して欲しいと思う。


「カケル、ご飯よ~」


 丁度良く、1階から夕ご飯の支度が出来たと母さんの声がする。その場に父さんもいるのだから……飯田翔、いざ出陣だ。部屋のふすま戸を引き開けると、一階からフワッとカレーの匂いが漂ってきた。


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