*閑話3 チーム岡本(仮)の休日 岡本忠司の場合
「じゃぁアナタ、行ってくるわね!」
「おう、気を付けてな」
「ねぇ……たまには」
「お、おぅ……」
「あ~パパとママがちゅーしてる」
「ちゅ~、ヒトもちゅ~する~」
「邪魔しちゃだめなんだぞ、ヒト~」
「……プッ」
「うふふ……じゃぁ、後よろしくね」
あれだけ機嫌のいい
と、妙な妄想は脇にやって
「おーい、
「磨いた~」
「みがいた~」
流石に小学3年の琢磨はちゃんとしているが、保育園の年中組の仁哉は……それは磨いたんじゃなくて、歯磨き粉を舐めただけだ……イチゴ味が美味しいのは分かるけど。
「ヒト~、磨くってのは……こうするんだぁっ!」
「きゃ~、きゃ~」
結局、逃げ回る仁哉を捕まえて、強制歯ブラシをすることになった。そして、もうすぐ保育園のバスの時間だ。
「よし、仁哉のお弁当は良し!」
「パパ、ボクもお弁当がいい~」
「う~ん、じゃぁ今週の土曜日はお弁当作ってお出かけだな!」
「やったぁ!」
「あ~ん、ヒトも~」
「分かってるよ、琢磨と仁哉とママと、四人で行こうな!」
「うんっ!」
まぁ、息子二人の機嫌が良い時はこんなもんだが、これが一旦ぐずり出すと手に負えない。特に4歳の仁哉は何でもお兄ちゃんと一緒じゃないと気に入らないらしく、一旦火が着いたら、まるで消防車のサイレンだ。
一方、8歳になる琢磨は、その辺はお兄ちゃんとして振る舞っているが、たまに「赤ちゃん返り」する時がある。特に俺と鳴海の注意が仁哉に集中した時なんかは、どうも注意を惹くためにそうなるようだ。「お兄ちゃんなんだから」と厳しくするのは程々にね、というのが鳴海の言う[コツ]らしい。
と、そうこうしている内に、保育園のバスの時間になる。荷物を確認して服装も確認して、目ヤニと鼻くそが付いてないことも確認して、俺は二人の手を引いて部屋を後にする。その後は、滑り込みセーフで保育園のバスに仁哉を放り込み、保育士さんに朝の挨拶。そして、琢磨を小学校に送り届けて朝のミッション完了だ。友達と合流してワイワイ言いながら校舎の中へ姿を消す琢磨を見送り、
「今晩はカレーでいいか……作ってやったら鳴海も楽だろう」
という思考になる。まぁ、これぞ世にいう主夫なのだろう。高校卒業から定職に就かず、半グレ状態だった俺が、よくもまぁ、こうなったものだと思う。そんな感慨で見上げた空は、すっきりと青い秋の空だ。
――お前ら! そんな生き方に未来があると思ってるのか!――
ふと、懐かしい怒鳴り声を思い出した。アレは21歳の秋ごろだったかな。対立するグループとのイザコザが流血沙汰になった。それで対立グループが
結局金は貸してもらえなかった。その代わりに、そのオッサンは対立グループのケツ持ちの事務所に俺達を連れて行き。
――ガキの喧嘩に口を出すなよ、背中の
と啖呵を切ってくれた。それで、相手のケツ持ちはアッサリと身を引いたのだから、相当驚いたものだ。
まぁ、今だから分かるが、多分あのオッサンはそれなりに打算があってそんな事をしてくれたのだろう。ガキグループ同士の喧嘩に
結局流血沙汰の遺恨は、双方のケツ持ちが夫々のグループを解散させる、ということで手打ちとなった。その後も少なくない紆余曲折はあったが、結局グループという薄っぺらい帰属集団を失くした俺達に、そのオッサンは
中にはそんな親切にまで反発する根っからの馬鹿野郎もいたが、俺達の大部分はそんなオッサンに感謝した。そして、紹介された仕事がいかに理不尽で糞っ垂れなものでも、俺はオッサンの親切に報いるつもりで、岩に齧りつくようにして耐えることが出来た。結局リストラされたけど、今の俺があるのは……
「……田中のおっさん、元気にしてるかな?」
その内連絡を取ってみよう。まだ、あの小汚い下北のビルに事務所があるのだろうか?
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