*22話 チーム岡本(仮)IN アトハ吉祥メイズ⑦ 秘められた飯田の可能性?
岡本さんの言葉は少し突拍子が無いように聞こえたが、しかし、嶋川が直ぐに賛同するような意見を述べた。
「私もそれが良いと思いますぅ、コータ先輩の位置からだと撃つタイミングも指示しやすいと思いますしぃ……なんか、コータ先輩の指示は安心感がありました」
嶋川でなくても、可愛らしい女の子にそう言われるのは嬉しいが、安心感の大部分は(大輝曰く経験豊富な)ハム太の指示を俺が復唱しているからだと思うぞ……
(そんなことは無いのだ。コータ殿もしっかり考えていたのだ……60点というところなのだ! それに、司令塔の役割は大輝様もパーティーで行動している時にやっていたのだ!)
とは、ハム太の声。勿論俺だけに聞こえる【念話】スキルの賜物だ。本人(?)はリュックの中で、俺がこっそりと差し入れた枝豆と唐揚げを食べているはずだ。(うめ、これうっめぇ)って思念が漏れ聞こえていたから、間違いない。リュックの中がベトベトになりそうだが、まぁ、その時はその時だ。
それはさて置くにしても、確かに最後衛というポジションは全体を見渡すのに丁度良い位置取りだと思う。それに、岡本さんに負担がかかり過ぎないように、俺が指示出しをするのは
「当面は
ということだ。別に、パーティー内での立ち位置に不安を覚えて自信を無くしている飯田に役割を与えてやる、といった傲慢な考えではないし、勿論装備を笑われた仕返しでもない(少しあるかもしれない)。どういう事かというと、
「必ずそうしてくれないと困る、という訳ではないんですが……まず嶋川のマッパー役は、今はまだ[管理機構]のマップを見ている段階だから良いけど、これから先、マップが無い層を進む時には、少し困った事になりそうです」
というのが第一の理由。そもそもチーム岡本(仮)が初メイズを無難に終えることが出来た大部分は、嶋川(と一応飯田も)の弓による初撃という要素が大きい。遭遇したモンスターに素早くダメージを与えてその後の展開を有利にしたり、斃し切れてない所にトドメを放つという活躍で、今日の嶋川はMVP級の活躍だったと思う(褒めると調子に乗りそうだから言わないけど)。
しかし、そんな彼女がモンスターとの遭遇直前までマップに気を配っているという状況は、今後マップ情報が無い4層以下で、さらに敵が複数同時に現れる環境では、あまり好ましくない。
そして、次の理由というのが、
「飯田は自信を無くしているみたいだけど、こいつは結構努力家じゃないですか、岡本さん」
「ああ、そうだな。人付き合いはイマイチだけど、仕事を覚えるのは早かったなぁ」
そうやって岡本さんをワンクッションさせて話を続ける。ちなみに、突然のフリを否定したり変に動揺したりしないところが、岡本さんの安定感だと思う。
「そうなんです。だから、そういう役割を期待されていると知ったら、そうなるように頑張るはずなんです。それに、魔法を使いたいって希望しているみたいだし、司令塔って頭脳プレーが出来るポジションだから魔術師っぽいですよね」
最後のが殺し文句になるか良く分からなかったが、俺はそう言うと飯田を見る。そして、
「魔法スキルが取れるまでは、岡本さんのサポートをしつつ、常に全体に気を配るように努力すればいいと思う。そしたら、きっと飯田は大化けする。何もモンスターを斃すことだけがメンバーの役割じゃない」
と、断定した。正直今後は飯田次第だが、今のように
「コータ先輩……お、お、お、おれやります!」
恐らく三杯目が空になったカルアミルクのせいもあるのだろうが、飯田は目に熱い闘志を燃やして、そう気勢を上げる。そして、おもむろに立ち上がると、
「ととと、トイレ!」
といって半個室を出て行った。牛乳の飲み過ぎだ。
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トイレから帰ってきた飯田だが、俄然やる気を出したようで、こんな事を言い出した。
「お、お、岡本さんのバット、似たような武器にめめめ、メイスっていうのがあるんですけど、あれ、ウチで造ってみます」
とのこと。「ウチで造る」ってどういうことだ? と思うが、なんでも飯田の家は金属加工工場を経営しているらしい。従業員15人ほどの工場で、主に産業機械メーカー向けの部品加工を下請けしながら、自分のところでも簡単な装置ものを造っているとのことだ。
だったら、なんで家業を継がずに外食産業に就職したのだろう? と疑問に思うが、どうも父親の方針だったらしい。余りにもコミュニケーション力が低い我が子に会社を継がせるまでの修行として、対人スキルが求められる分野で働くように言ったとのことだった。
「あ、あと、ここコータ先輩の木刀の鞘みたいな良く分からない変なヤツも、つつつ造ってみます」
有難いが、苦心の100均工作を笑われた気がするのは……まぁ、気のせいだろう。実際に動く時に足に纏わりついて邪魔だったのは事実だし、飯田の申し出を有難く受けることにする。
そして、反省会という名の飲み会は、その後「装備が壊れた時の費用負担」とか「税金が高い」とか「青色申告って何かね?」とか「荷物が重い」とか「彼氏が欲しい」とか「嫁が厳しい」とか「息子が可愛い」とか、そんな話をしつつ最後に次回のメイズ行きを一週間後と決めてお開きになった。
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その後は特に二次会などは無く(嶋川が2軒目とかなんとか言っていたが無視した)、各自が吉祥駅から家路についた。その帰路で連休中日の日曜午後7時という比較的すいた電車に揺られながら、俺は適度な疲労感と酔いを感じつつ、考え事に意識を割いた。内容はステータスとか能力値とかスキルとか、そんな感じだ。
因みにチーム岡本(仮)の各メンバーの能力値だが、メイズから出る間際、丁度大型スライムからのドロップ品を拾い終わった辺りでハム太がこっそり鑑定したところ、次のようになっていた。
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岡本忠司(32歳)
種族 人間(男性)
耐久値 48/48
魔素力 25/25
力 12 (x1.08)
敏捷 10 (x1.07)
技巧 11 (x1.07)
理力 10 (x1.05)
抵抗 12 (x1.05)
修練値 132/132
習得スキル(常時有効型)
―――
習得スキル(使用型)
―――
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嶋川朱音(23歳)
種族 人間(女性)
耐久値 42/42
魔素力 30/30
力 9 (x1.05)
敏捷 11 (x1.10)
技巧 13 (x1.12)
理力 10 (x1.05)
抵抗 10 (x1.05)
修練値 146/146
習得スキル(常時有効型)
―――
習得スキル(使用型)
―――
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飯田翔(25歳)
種族 人間(男性)
耐久値 25/32
魔素力 20/20
力 9 (x1.02)
敏捷 10 (x1.02)
技巧 9 (x1.05)
理力 11 (x1.02)
抵抗 8 (x1.05)
修練値 87/87
習得スキル(常時有効型)
―――
習得スキル(使用型)
―――
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遠藤公太(26歳)
種族 人間(男性)
耐久値 44/44
魔素力 20/30
力 11 (x1.10)
敏捷 12 (x1.08)
技巧 10 (x1.08)
理力 10 (x1.05)
抵抗 13 (x1.08)
修練値 102/152
習得スキル(常時有効型)
・戦技(刀剣)Lv1
習得スキル(使用型)
・能力値変換Lv1
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俺としては、3人のステータスを覗き見した感じだが、概ね各人の個性が出ているんだな、と納得した。その一方で、元々50以上あった俺の修練値が他の三人と比べて余り伸びていない事に疑問を感じた。この疑問に対してハム太の説明は、
(浅い層にずっと籠っていても修練を積んだことにはならないのだ。だから、或る程度からは伸びが悪くなるのだ。強くなりたかったら深い階層に挑むか、別のメイズに挑むのだ)
とのことだった。
分かりにくいが、同じメイズの同じ階層に留まり続けていると或る程度から修練値は伸びにくくなるらしい。そこから修練値を伸ばそうとする場合は、より深い階層を目指すか、または別のメイズに潜ることが必要になるとのことだ。ただし、別のメイズの浅い階層に行くよりも、同じメイズでも深い階層に行くことの方が効果的で、つまり、メイズAの5層からメイズBの5層に行くよりも、メイズAで6層を目指した方が修練値は伸びる、のだと。まぁ、RPGなどでスタート地点の魔物を狩りまくってレベルを上げるのは非効率的、という事例を極端にした感じだろう。
また、能力値については括弧内の補正値が以前より上昇しているが、最も伸びている[力]でも10%アップの恩恵を意識することは出来なかった。この辺は、
(もう少し補正値が大きくなれば効果が実感しやすくなるのだ。あと、補正値は掛け算だから、元の能力値を鍛錬することはとても効果的なのだ)
というハム太の説明。更にハム太
(飯田殿の耐久値を見てみるのだ。あの時点で25/32なのだ。大型のスライムに攻撃を反射されたことで減っているのだ)
ということ。これを参考にすると、耐久値は思った以上に減り易いことが分かる。
(防具などで防御力を高めると良いのだ)
なるほど……となると、俺の貧相な防御力が心配になる。かといって岡本さんのようにパンク風のレザー装備も着たくないし、飯田のようなタクティカル路線も何か違う気がする。うぬ……困ったものだ。
(後は、コータ殿の【能力値変換Lv1】だが、これは積極的に使うとレベルが上がるのだ。上がれば使い勝手が良くなるのだ。それに【戦技(刀剣)Lv1】になっているのだ。こっちは分かりやすいはずなのだ)
とのことだ。【能力値変換】がLv1とのことだが、あの使い勝手の難しさがどう改善されるのかは気になるところだ。それに括弧内が空欄だった戦技スキルが【戦技(刀剣)Lv1】になって効果が分かりやすくなるとハム太が言うが……正直実感が無い。
メイズの外で木太刀は振り回せば分かるのだろうか? 流石に電車の中で試すという訳にはいかないが、今度道場に行った時に試してみよう……
と、つらつらと考え事をしていると、不意に小さい女の子の声が聞こえてきた。
「ねぇおかーさん、あの人ずっとブツブツ言っているよ」
「こら、エリちゃんコッチに来なさい」
「ねー、変なオジサンなの?」
「ダメよ指さしちゃ!」
……まさか声出てた?
そう思い顔を上げると、まるで我が子を変質者から守るようなお母さんの視線を受けた。なんとも刺すような強い視線に、俺はそそくさと車両を移動するのだった。
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