*9話 助っ人使い魔「ハム太」参上!
その光景に俺は絶句するが、鏡の向こうではそんな俺を無視したやり取りが繰り広げられる。
『お久しぶりなのだ、大輝様!』
『ああ、久しぶりだな
『また一緒に戦えるのだ?』
『いや、一緒という訳ではなく、ハム太にしか出来ない事をやって貰おうと思ってね』
『そうなのだ……しかし、大輝様のお役に立てるのであれば、吾輩頑張るのだ!』
『頼りにしているよ』
「あの~、置き去りにされている気がするのですが?」
再会を喜ぶ人間とハムスターって変わった光景だと思うが、他にも色々。まず、何でハムスターが鎧兜を身に付け、腰には体長相応の剣を差しているの? それに、そのハムスター普通に喋っているよね? で最後にその名前、ハム太ってなんだよ!
色々言いたいことがあるが、何処から突っ込んでいいか分からない俺。対して鏡の向こうのハム太は、
『この方は誰なのだ?』
と不思議そうにこちらを指差す。何処となく
『あの人の名前はコータ、遠藤公太だ。あの人の持っている3冊のノートをあの人が読まないように確保して欲しい』
『この方がコータ殿……名前は何度も聞いていたのだ……しかし、それだけなのだ?』
『あとは……そうだな、それ以外はコータの言う事を聞いて、彼を手伝ってほしい』
『はぁ……わかりましたのだ』
しかし、落胆したハム太は俺の気持ちを他所に、次の大輝の言葉で俄然やる気を出し始めた。
『いつか話したチー鱈をおぼえているか?』
『まさか忘れる筈もないのだ。幻の珍味チー鱈、この口で一度は味わってみたいのだ』
『ならば、コータの下へ行き彼を手伝うんだ、そうすれば褒美としてチー鱈を授かるだろう』
『な、なんとぉ!』
……要するに「チー鱈」で釣るのね、分かったよ。何となくハム太の扱い方を把握した俺である。
一方、鏡の向こう側では大輝がハム太を
『よし、終わった……ハム太は俺がこっちの世界に来てから初めて造った使い魔だ。魔坑討伐にも同行させていたから知識と経験は豊富だ』
「……なるほど」
『しかし、身に付けたスキルが多すぎて鏡同士の細い繋がりでは送り込めないから、有用なスキルを縮小化して残し、後は初期化してある』
「……何気に凄い事言ってるよね?」
『ちょっと独特の性格だが、多分コータとの相性はいいだろう。そちらで言うメイズにもしも行くことがあったら、連れて行けば役に立つと思う』
「それより、なんで初めて創った使い魔がハムスターで、その名前がハム太なの? しかも語尾の癖が独特過ぎないか?」
『……』
崩れ掛けた鏡の映像の中で……大輝のヤツ、目を逸らした。この質問には答えないつもりか……
『そろそろ時間干渉の結界が切れる。これ以上は事象の
「そうなのか……じゃぁ」
『ああ、俺もこちらの世界に魔坑が現れた当時の出来事を調べてみる、コータも出来るだけ情報を集めてくれ』
「わかった、でも何でハム――」
『また会おう!』
俺の疑問を再度無視した大輝は、そう言うと
**********************
「……いやぁ~妙にリアルな夢だなぁ、いつになったら目が覚めるんだろう?」
とりあえず、俺はこの一言で今晩の出来事を無理やり片付けようとする。しかし、
「コータ殿、これは夢ではないのだ!」
鏡の横に立った完全武装のハムスターの言葉によって、俺の現実逃避は否定されてしまった。
「……やっぱり居るんだ、それで喋るんだ……」
「吾輩は結構お喋りなのだ、大輝様がそう言っていたのだ」
「……そ、そう」
一人称が「吾輩」で語尾が「のだ」、しかもお喋りと……大輝、異世界に飛ばされた最初の頃に造ったって言っていたけど、色々と溜まってたんだろうな……と、俺が過去の親友の心情に想いを馳せる。一方、ハムスターは勝手に話を進めていく。
「改めて自己紹介をするのだ。吾輩の名はハム太、大輝様の一番の子分であり、造魔生物としては唯一、メラノア王国の聖騎士位に叙されているのだ。大輝様の命によりコータ殿をお助けするのだ」
誇らしげにそう言うハム太は、胸を張って前歯をキュっと見せつつ腰の剣をパンッと叩いた。いやいや、お助け云々は置いておいて、その聖騎士ってのが何か知らないが、ハムスターに与える称号ではないと思うぞ。メラノア王国ってどんな国なんだよ、猫どころか鼠の手も借りたいほど人手不足なのか?
思わず呆れてしまうが、ハム太は余り気にした様子もなく部屋の中を見渡すと、
「むむ、あれが大輝様の言っていたノートなのだ……」
と言い、三冊のノートの元へ駆け寄る。そして、右手(前足?)を突き出して、
「【収納】なのだ!」
と、言う。すると、その一瞬での三冊のノートは何処かへ消えてしまった。
「え? 今のなに?」
「これは吾輩のスキル【収納空間】なのだ……あれ? でもいつもと違うのだ?」
びっくりした俺に、ハム太は得意気に答えるが、途中で様子がおかしくなった。どうも、何か違うらしい。しきりに首を
「……コータ殿、背中を出してみてくれ、なのだ」
そんなハム太は何か思いついたように、俺にそう言う。
「背中?」
「怪我をしているのだ、治してみるのだ」
確かに怪我はしているけど、何で分かった? それに治すって? そんな風に半信半疑な俺だが、ハム太が「早く、早く」と急かすように両手(前足?)をモキュモキュするので、仕方なくその場で背中をハム太に向ける。
「【
「……ん、おぉ!?」
背中に妙な温かさを感じた俺は、シャツを捲って背中を鏡で確認する。昨晩
「うっそぉ……すごいな」
結局、若干青黒い痕は残ったが、殆ど分からないまでに内出血は消え去ってしまった。しかも、痛みも意識しなければ感じない程度に治まっている。完治とまではいかないが、殆ど治った事に俺は素直な驚きの声を上げる。しかし、
「な……なぜなのだ……あの程度の怪我が完治しないなど、ありえないのだ」
驚く俺とは別の意味でハム太は驚いた様子だ。どうも、思ったよりも効果が低い事にショックを受けているようだ。打ちひしがれた様子で両手を見つめている。そして、
「ま、まさか?」
と言うや否や、腰の剣を引き抜き、ブンッと横薙ぎに振り払った。同時にバシッという音がして、少し離れたローテーブルの脚に20cmほどの切り傷が真横に走る。オウ……それは凄いと思うが、いきなり人の家の家具を壊そうとするなよ。
「な、なんということ……なのだ」
しかし、抗議する気が起きないほど、目の前のハムスターは打ちひしがれている。そして、やおら顔を上げると、
「そ、そうだ、吾輩自身を【鑑定】するのだ」
と香ばしい発言をして、今度はギュっと目を閉じて眉間に皺を寄せる。ハムスターって眉間に皺が寄るんだ、と俺が素朴な感想を心の中で述べていると、遂にハム太はその場で崩れ落ち、両手を床についてしまった。うん、それがハムスターの正しい姿勢だ。
「大輝様……これは試練なのだ……幻のチー鱈を得るための、これはきっと試練なのだ」
「……なぁ、さっきからどうしたんだ?」
これだけ騒いでいるのを横目に全くの無関心も良くないと思い、そう声を掛ける。しかし、ハム太は俺の方を見ると、ゆっくりと首を振り、
「心の整理が着いたら説明するのだ……今日はなんだか疲れたのだ」
と言い、次の瞬間、元の瑪瑙細工に戻ってしまった。
「……いや、疲れたのはコッチだって」
結局、訳が分からないまま一人残された俺は、
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