第48話 満月由美子、再び

スーパーへ食材を買ってから帰る途中の事だった。

突然、後ろから誰かに腕を掴まれた。


「えっ?」


俺は後ろを振り返った。


「やっと見つけたわ。ずっとあなたを探していたの」


その顔には見覚えがある。

その人は神出鬼没の占い師、満月由美子だった。


「ええ!!ま、満月由美子さん?」


「そうよ」


「えっ?あの……。探してたって……?」


「あなたの事がずっと気になっていたの」


「ええ……すみません。年上すぎる人はちょっと……」


「そういう意味じゃないわよ。あなたを占った時に感じた強力な力。あれがずっと気になっていて仕方なかったの。今までに感じたことがないような感じ。やっぱり気のせいじゃないわ」


やばい。

アルの事で何か感じるものがあるのか。


「えっ……いや……。俺はその……特に変わった力とかは持ってない、ただの一般人なので」


「確かにあなた自体には、不思議な力は感じないわ。さっき腕を掴んだ時に分かったの。私が思ったのは、あなた自体に不思議な力があるのか、それともあなたの近くで不思議な力を持つ何かがあるのか。あなたの近くで何か大きな力の存在があるのは、間違いないと思うの」


「いやー、それはど、どうなんですかね。俺にはわからないなー」


「あなた大学生って言ってたわよね」


「よく覚えてますね」


「それほどあなたは、私の中で印象が強かったの」


「そ、そうなんですか」


「あなた実家暮らしなの?それとも一人暮らし?」


「一人暮らしです」


「今から少し、あなたの家にお邪魔させて頂いてもよろしいかしら?」


どうしよう。

どうにかして断らなくては。


「あー、えっと……散らかってるので、今は部屋を見せられるような状態じゃないんです」


「大丈夫よ。そんなことは気にしないわ。私は占いする為にゴミ屋敷に入ったことも何度かあるわ」


「いやー、そのー……」


「あの大きな力の正体がどうしても知りたいの。私達人間に害を及ぼす存在なのかどうか。お願い、協力して。あなただけが頼りなの」


全然引き下がらないな。この人。

さすがにこれ以上断るのも、怪しまれるか。

でもまあアルなら自分で何とかするだろう。


「わ、わかりました。でも本当に何もないと思いますよ」


「ありがとう。それじゃ、案内してもらえるかしら」


俺は満月由美子をマンションへと連れて行った。

こんなところ芸能人のスキャンダルの瞬間を写真に収めようとしている、マンデーの関係者に見つかったら誤解されるんじゃないかとか一瞬考えた。


「どうぞ、あがってください」


「お邪魔します」


【あらあら……。不思議な気配がすると思ったら、やっぱり占い師の子じゃない】


「近い。やっぱりこの部屋ね。間違いない」


【あたしの気配を感じてるのかしら。でも姿は見えないわよ】


「どこかしら……。台所でもないわね。ベッド。いや、違うわ。……この水槽だわ」


バレた。

おいおい、アル。

どうするんだ、バレたぞ。


【ほほほ。大正解。あたしはここよ。あんたやるわね。人間であたしのいる場所が分かるなんて大したものだわ】


「金魚ね。金魚を飼ってるのね。この金魚が強い力を持ってるわ」


【一瞬、あんたの力を消そうかと思ったんだけど、でもあんたは、その力で生計立ててるのよね。だからそれを奪うのは、ちょっと可哀想よね。例えるなら大工から腕を切り落とすくらい残酷な事だわ。あたしはそんな残酷な事はしないわ】


それでどうするんだ、アル。

なんか良い方法があるのか?


「あれ……消えた……?」


【あたし自身の力を隠したのよ。もうこの子は、あたしの力を感じることはできないわ】


「全然感じなくなったわ。なぜ……?」


「ど、どうですか?」


「ごめんなさい。わからないわ。不思議と今は、何にも力を感じないの。あんなに大きな力だったのに」


「あ、えっと……。ちょっと休憩に、お茶か珈琲でも入れましょうか?」


「ありがとう。じゃあ珈琲頂こうかしら」


珈琲を飲みながら満月由美子は、まだ納得がいかないのか水槽の方を見ている。


「おかしいわ。あんなに強い力が突然消えてしまうなんて」


【きっとどこかに移動したんじゃないかしらって言いなさい】


「きっとどこか別のところに移動したんですよ」


その時、ぐぅーとお腹の鳴る音が聞こえた。


「ごめんなさい。力を使うとお腹が減ってしまうの。気にしないで。そろそろ帰るわ」


なんだか嘘をついてるような罪悪感から少し負い目を感じてしまった。


「あ、あのー、もしよかったら晩御飯食べて行きませんか?俺、なんか軽い物作りますよ」


「え、大丈夫よ。いきなり部屋に押し掛けた上にご飯まで頂くなんてできないわ」


「いいんです、いいんです。いつも一人で食べるのも寂しいんで、ちょっと座って待ってて下さいね。サッと作りますんで。テレビでも見てて待ってて下さい」


俺はキッチンでご飯を作り始めた。

今日は野菜のかき揚げ丼ぶりを作った。


「野菜のかき揚げ丼です。温泉卵も乗せて食べると美味しいですよ」


「美味しそう。凄いわね。料理上手なのね」


「一人暮らしするようになってから結構ハマッてしまって。今では色々作れるようになったんですよ。味の方はどうですか?お口に合いましたか?」


「美味しいわ。特にゴボウと人参を使ってくれてるのが凄くありがたいわ」


「ありがたいって?」


「私、なんだか力を使った後、根野菜が凄く恋しくなるの。なぜか分からないけどね」


そう言って満月由美子は微笑んだ。

そういえばアルが言ってたな。

満月由美子は、大地の力の影響を受けやすい特殊体質なんだって。

だからゴボウとか人参とか根野菜を体が欲しているってことのか。


かき揚げ丼を食べ終わり、満月由美子は言った。


「ご飯まで頂いてしまって本当にありがとう。あなた料理も上手だしモテるでしょ」


「いや、全く。彼女いた事ないですから」


「私が言うんだから大丈夫。あなたは魅力的よ。まだあなたの魅力に周りの女の子は気づいてないだけよ。あなたには、いつか良い出会いが必ずあるわ。優しい子ときっと巡り合えるから落ち込んだり焦ったりしなくても平気よ。自然のまま、堂々とかまえてなさい」


「それは占いですか?」


「そうね。ご飯作ってくれたから恋占いのサービスしておくわ」


「ありがとうございます」


そして満月由美子は、帰っていった。


「アル、ごめんな。いきなり連れてきて。断れなかったんだよ」


【別に大丈夫よ。人間に精霊をどうこうなんて出来ないから問題ないわ】


「そっか……。それならいいんだ」


【………………】

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