第47話 三角関係
三月も終わり、今日から四月になった。
無事に単位も取れて二回生に進級することができてホッとしていた。
大学はまだ春休みで授業はないけれど、演劇サークルはあるから完全な休みというような感覚はあまりない。
サークルに行くと何やら騒がしかった。
「敦君。どういう事?ちゃんと説明してよ」
山口さんの声が響く。
ってか敦君って誰だろう。
その答えはすぐに分かった。
山口さんの声が向かっている先に、渡辺さんがいたからだ。
「い、いやー。そのー、あれだよ……。えーと……」
渡辺さんは言葉に詰まっている。
「どうして大谷ちゃんと浮気したの?あたしの事は遊び?」
「ええーと……そのー……いや、遊びとかではない」
「ひどいよ……」
山口さんが泣き出してしまった。
なんだ、なんだ。
一体何が起こっているんだ。
「あ、あの……。どうしたんですか?」
俺は声をかけた。
「大下君……。敦が大谷ちゃんと浮気したの」
「ええ、ってか二人はそんな関係だったの!?しかも浮気?大谷さんと?」
もう混乱してきた。
何がどうなっているんだ。
「えっ?大下君、知らなかったの?嘘でしょ?二人を見てれば大体分かるでしょ。鈍すぎでしょ」
津田さんも会話に入ってきた。
「もう最低。敦のバカ。大谷ちゃんもひどいよ。あたしが敦と付き合ってるの知ってて」
「いや、俺が悪いんじゃないし。大谷ちゃんが誘惑してきたのが悪い。俺だけ悪者にしないでくれ」
「渡辺さん。何を開き直ってるんですか。浮気するなんて最低じゃないですか。しかも山口さんと一番仲の良い大谷さんが相手だなんて」
俺は開き直った渡辺さんの言葉に対して、かなり頭にきた。
「大下君、君には関係ないだろ。これは俺達の問題だからな」
そんな話をしているところに、大谷さんがやってきた。
すると山口さんが突然、大谷さんに掴みかかった。
「あんたのせいなんだからね。この泥棒猫」
「男取られるあんたが悪いんでしょ」
「なんですってー」
二人が喧嘩をし始めた。
これはまずい。非常にまずい。
俺は急いで割って入った。
「やめてください、二人とも。落ち着いてください」
「いいよ、やらせておきなよ。それで二人の気が済むならその方がいいって」
渡辺さんが他人事のように言う。
「何ですか、その言い方は。元々はあんたが浮気するのが悪いんでしょ」
「だから大下君は関係ないだろ。外野は黙ってくれ」
「いいえ、黙りません。皆で楽しくやってるサークルなのに、こんな状況、最悪です」
「はい、オッケーでーす」
「あははははは」
山口さんが笑い出した。
「ぷはははは」
大谷さんも笑い出した。
「いやー、最高。面白かったー」
津田さんもニヤニヤしながら言った。
「えっ?」
俺は何が起きてるのか理解できなかった。
「大下君。今日はエイプリルフールでーす。ドッキリ大成功ー」
渡辺さんがネタばらしした。
「ええー」
「あのさー、あたしが渡辺さんと付き合う訳ないじゃん。タイプじゃないし」
山口さんが言う。
「私も渡辺さんはちょっと……」
大谷さんも言う。
「おいおい、二人とも。それはエイプリルフールネタで本当は俺の事好きなんじゃ……」
「ない」
「絶対ない」
渡辺さんの言葉に二人は即答する。
「脚本はもちろんこの私、大谷が担当しました。そしてエイプリルフール特別記念として、私も役者として出演しました」
エッヘンという感じで、大谷さんが説明する。
「つまり全部芝居だったと……?」
「そうでーす」
山口さんがニヤニヤしながら言う。
「ターゲットは大下君にしようって前々から皆で決めてたの」
なんてこった。
まさかこんな壮大なドッキリを仕掛けられるとは。
しかもピンポイントで俺狙いとか。
完全にやられた。
「大谷ちゃん。意外と役者もやれるじゃん。今度舞台あがっちゃう?」
「あははー。それはパスで。舞台は緊張して無理だー」
確かに大谷さんの演技は凄いものがあった。
普通に騙された。
上手いもんだ。
「脚本書くうえで、役者の気持ちも少しは分かった方がいいかなーとか思って。台詞覚えたり本当に役者は大変。よくわかったよ」
よかった。
結局は、ただの遊びだったのだ。
本当にサークルの人間関係が無茶苦茶になってしまったのかと思い、ビックリさせられた。
サークルを終えて帰ってきた。
「ただいま」
【あら、おかえりなさい。今日はどうだったのかしら】
「今日はエイプリルフールだろ。ドッキリ仕掛けられて見事に騙されちゃったよ」
【あんた何言ってんの。今日は四月二日よ。一日ズレてるわよ】
「えっ?」
【嘘よ】
「…………」
【…………引っかかったわね】
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