第41話 一万円の使い方
バイトを終えて帰ってきた。
【何よ、あの茶番劇は】
「アル、やっぱ観に来てたのか。いや、そういう台本だったからな」
【まあ良いじゃないの。一万円も貰えるなんて滅多にないわよ】
「ステージに立つよりも準備と片付けで結構疲れたんだよなー。でもラッキーだよ。今年は商店街の利益が例年よりも良くて予算に余裕があったみたいだよ」
【あら、そうなの。どうしてかしら】
「クッキーマンサバイバルじゃないかな」
【確かに近いわね。商店街に人が流れたのかしら】
「あっ、待てよ。違う。そうか、グルメダーツだ」
イケメンのアイドルが日本地図の書いてある的にダーツを投げて、当たった場所の古今東西の美味しい食べ物を食べ歩くというテレビ番組だ。
イケメンアイドルの台詞で
「うーん……これは美味い」
が、何年か前の流行語大賞にも選ばれた。
しかし最近では、これは美味い以外も流行らそうとして、食べ物を食べた後
「うーん……高まるぅう。美味いー」
って言いながら、拳を上に突き上げるポーズを決めるってのもやっている。
あのイケメンアイドル、名前なんだっけ……。
えーと、ああ、そうだ。思い出した。
上白滝隆一だ。
【そういえば来てたわね。確か蒲鉾食べてたわよね】
「そうそう。グルメダーツって番組で来てるんですけど、ここに矢が刺さったんですよ。ここで何か美味しい食べ物ありますか?って毎回やってる。それで番組が放送された後は、大体問い合わせが殺到するんだよ」
【あの子、本当に何でも美味しそうに食べるわよね】
「グルメダーツであれだけ色々食べてるのに、全然太らずにスタイルをキープしてる辺りは流石だよ。太らない体質の人は良いな」
【あら、違うわよ。彼はスタイル維持の為に毎日トレーニングしてるのよ】
「そうなの?」
【そうよ。上白滝隆一の一日に密着する番組でやってたわよ】
「案外努力してるんだな。ただ生まれつき顔が良いだけかと思ったよ」
【顔が良いのは確かね。でも顔だけで芸能界生きていくのは厳しいわよ】
「でもまあ上白滝隆一のおかげで、俺も割の良いバイトに出会えた訳だし、ありがたいね」
【それであんた、バイト代の一万円はどう使う気なのよ】
「そりゃもうゲーム買うに決まってるじゃん」
【もっと考えた使い方しなさいよ。ったくこれだからあんたは】
「えー、いいじゃないか。俺が汗水流して働いて稼いだ一万円なんだからさ」
【だからよ。汗水働いて稼いだ一万円でゲーム買うよりも、もっと良い使い方がないかよく考えなさいって言ってんのよ】
「えー、精霊さん。今度はお金の使い方についての説教ですか?」
【あんた一万円がどんな物か価値分かってるの?】
「日本円で最高額の紙幣ですね」
【そうよ。それをあんたは手にしたの。だからこそ生きた使い方をしなさいって事をあたしは言いたいの】
「なんだよ、生きた使い方って」
【歯医者に行ってきなさい】
「……は?」
【だから歯医者に行ってきなさいって言ってんの】
「なんで。虫歯じゃないって」
【歯のメンテナンスよ。毎日の歯磨きだけでは、人間の歯は完全に綺麗にはならないの。歯周病予防よ。そうね、一回で三千円くらいあればやってくれるわ。大体年三回か四回ね。一万円あれば約一年間、定期的に歯のメンテナンスをしてもらえるわ】
「いや、いいよ。別に歯に異常とかないし。健康だし」
【あたしはね、あんたの自分の健康の為に一万円投資しなさいって言ってんのよ。健康を維持する為の投資。それが一番生きたお金の使い方でしょうが】
「えー、そういうもんかなー」
【いいから一度、歯のメンテナンスしてもらってきなさい】
まあ三千円使ったとしても残り七千円。
それだけあれば、まだゲーム買えるくらい残ってるし。
アルうるさいから一度くらい歯のメンテナンスやってもらうか。
「わかった、わかったよ。じゃあ明日にでも歯医者行ってくるよ」
次の日、大学が終わってから歯医者へと行った。
虫歯でもないのに歯医者に行くというのは初めての事だった。
受付で歯のメンテナンスをして下さいと伝えた。
そして歯石を取ってもらい、帰ってきた。
「アル、歯医者行ってきたよ。うん、確かに気持ちがいい」
【そうでしょ。人間は年を取って自分の歯が健康的に残っている人は、約二割くらいと言われているの。歯のメンテナンスに通って定期的に歯石を取ってもらう事で、その二割の人になれる確率があがるの。これが将来の健康への投資ということよ】
「そうなのか。まあ確かにゲーム買うより良い使い方なのかもしれない」
残りのお金でゲームを買おうと思っていた。
でも同じお金で歯のメンテナンスに通う事で虫歯を予防できる可能性があるなら、確かにこっちの方がいい。
なんとなくアルの言いたいことがわかった。
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