第40話 平等戦隊ジャンケンジャー
日曜日がやってきた。
津田さんと待ち合わせて商店街へと向かった。
商店街に着くと、バイト内容の詳しい説明を受けた。
内容を要約するとこうだ。
商店街名物の豪華景品が当たるジャンケン大会をするが、今回は前座としてヒーローショーが用意されている。
そのヒーローの名は、平等戦隊ジャンケンジャー。
グーレンジャー、チョキレンジャー、パーレンジャーの三人で構成されたヒーローだ。
平等の精神を愛し、何か物事を決める時、誰もが納得するジャンケンという決め事を守る為に悪者と戦っているという設定らしい。
争いのない世界を目指す。
これもある意味で世界平和の為に戦うヒーローの姿のうちのひとつなのだろう。
普段は着ぐるみがやってくるイベントばかりだが、今回はヒーローショーという初めての試みなんだそうだ。
そして台本と衣装を受け取った。
顔はマスクで隠せるようだ。
台本を読んでいく。
俺の役はパーレンジャーらしい。
津田さんはグーレンジャーだ。
「……津田さん。これヒーローショーっていうかコントじゃないですか」
「まあ子供達を笑わせて楽しませればいいんだよ。アドリブも全然大丈夫なんだって」
「なるほど。だから当日にいきなり台本渡されてやれって事ですか。無茶ぶりですね」
「ところでチョキレンジャーの人は?」
「遅刻してるのかな。遅いな」
台本を読み込んで立ち位置などを確認していたら、チョキレンジャーの人がきた。
なんかヒョロッとして背の高い若い男の人だ。
「すみません。遅れました。おばあさんが道で倒れていて救急車呼んであげてて……」
なんという典型的な言い訳だろう。
「それは大変でしたね。今日はよろしくお願いします」
ってとりあえず返しておくか。
「津田さんの知り合いの人?」
「演劇サークルの後輩の大下君だよ」
「ああ、そうなんですね。じゃあ人前でのショーもバッチリなわけだ」
「えっと……」
「大下君。この人は、時田さん。普段は着ぐるみショーとかに出てる人だよ。この商店街では、よく知られてる人だよ」
「大下君、今日はよろしくお願いしますね」
挨拶をして台詞や立ち位置を確認していく。
まあグダグダになっても、とにかく面白くて盛り上がってくれたらいいよと言われている。
準備をしていると、あっという間にショーの時間が来てしまった。
こんなグダグダで大丈夫だろうか。
そして音楽が鳴りだし、始まってしまった。
ええい、もうどうにでもなれ。
オープニングで、いきなりダースベーダーみたいな黒い鎧を着た見るからに悪者っぽい奴がステージに現れる。
「おや?今日はこの商店街でジャンケン大会があるらしいな。ジャンケンに勝ち続けたら豪華景品がもらえるんだと。何を貰えるんだ?なんだと!?タラバガニが二キロ。コシヒカリ五キロ。空気清浄機。他にも豪華景品が色々あるな。それから……ポケットティッシュ!!欲しい!!」
会場から笑い声が聞こえてくる。
「だが豪華景品を手に入れる為には、ジャンケンに勝たなければならない。そうだ、ジャンケンを支配してこの商店街の景品を全て俺の物にしてやる。グハハハハ」
商店街の景品全部欲しいだなんて随分とスケールの小さな悪者だな。
世界征服とかしないんだ……。
「そうはさせない!!」
ここで俺達もステージへ。
「平等戦隊ジャンケンジャー参上!!商店街の景品は、俺達が守る」
ポーズを決める。
だから商店街の景品とかじゃなくて地球とか守れよ。
お前らも随分とスケールの小さなヒーローだな。
「おのれ、現れたか。ジャンケンジャー。ところで、ジャンケンジャー。お前達に聞きたいことがある」
「な、なんだ」
「前から気になっていたんだが、ジャンケンジャーのリーダーは、その三人の中で誰なんだ?」
「そんなの決まっている。最初はグー。ジャンケンの掛け声はそうだろう?だからこの俺、グーレンジャーがリーダーだ」
前に出て津田さんが決めポーズをとる。
「ちょっと待て。グーレンジャー。いいか、リーダーは一番強い奴だ。最初はグーより強いこの俺、パーレンジャーこそリーダーにふさわしい」
俺は津田さんの前に出てポーズを決める。
そしてなぜかそのポーズは、浣腸をするような恰好である。
台本には浣腸のポーズを決めると書いてあったからだ。
「一番強い奴。グーよりも強いパーよりも強いこの俺、チョキレンジャーこそ最強。つまり俺がリーダーだ」
更に時田さんは、俺の前に出てポーズを決める。
その時、俺の浣腸のポーズのところに座る仕草を見せ、お尻を抑える。
浣腸が刺さったように見せる。
子供達は大爆笑している。
「何を言う。パーよりも強いチョキに勝てるグーこそ最強。やはりグーレンジャーであるこの俺がリーダーだ」
「違う。チョキよりも強いグーに勝てるパーこそ最強」
「だからそうじゃない。グーよりも強いパーに勝てるチョキこそ」
「バカ共め。一生やってろ。よしよし、あいつらが仲間割れしている今のうちに商店街の景品は頂く」
ジャンケンジャーの俺達は台詞もなく、静かに隅っこで揉めて言い争っている仕草をし続ける。
「さあ皆、大変だ。ジャンケンジャーは役に立たない。このままでは、商店街の景品を全部悪者に取られてしまうぞ。こうなったら皆のジャンケンパワーで、悪者から景品を取り返すんだ。ルールを説明するよ。皆、立って」
ここでお姉さんのアナウンスが入る。
観客は立ち上がる。
「悪者の掛け声で最初はグー。じゃんけんぽんで、ジャンケンをするんだ。あいこの人と負けた人は座ってね。勝った人は立ってて。最後まで残った人には、悪者から景品を貰えるよ」
まさかの悪者が景品くれるのか。
「いくぞ、お前達。俺を倒した奴には、このタラバガニをくれてやる。最初はグー。じゃんけんぽん」
負けた人が座っていく。
そしてポケットティッシュを貰う。
「まだかなりの数の人間が残っているな。どんどん倒してやる。次いくぞ、最初はグー。じゃんけんぽん」
どんどん人が座っていく。
「ええい、やるではないか。あと何人だ。さん、しー、五人も残っているのか。俺は疲れた。もうタラバガニはあきらめる。よし、お前らでじゃんけんして決めろ。最初はグー。じゃんけんぽん」
会場から笑い声が聞こえる。
そして最後の一人が決まる。
こんな流れを繰り返していって、どんどん景品がプレゼントされていく。
ちなみに負けた人は、次の景品のじゃんけんにもう一度参加できる。
なのでチャンスはかなり多い。
そして最後の景品がプレゼントされた後、悪者が言う。
「もう景品がないではないか。おのれぇ、まさかジャンケンジャーよりもジャンケンが強い奴らがここにいたとは。覚えてろよ」
悪者は去っていく。
「そうだ、俺達は平等戦隊ジャンケンジャー。三人で力を合わせて戦ってきたじゃないか。皆で足りない部分を補ってやってきた。誰一人欠けちゃだめなんだ。今気が付いたよ。これからも三人で頑張ろう。ここにいる皆もそうだ。お父さん、お母さん、お爺ちゃん、お祖母ちゃん、お姉ちゃんもお兄ちゃんも弟も妹も。君もだ。皆支えあって生きてるんだ。君は皆の為に。皆は一人の為に。ありがとう、また会う日まで」
そしてジャンケンジャーもステージを去っていく。
無理やり強引にまとめ上げたが、会場からは拍手が巻き起こる。
結局、平等戦隊ジャンケンジャーとは何だったのか。
本当にただジャンケンを盛り上げるだけのキャラだった。
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