第34話 一難去ってテストだよ
楽しい打ち上げが終わって帰ってきた。
「ただいまー。いやー、疲れたけど楽しかった」
【観てたわよ。最後のところ台詞が違ってたじゃない。急に変更になったのかしら?】
「いや、俺が台詞飛んじゃってさ。アドリブだよ」
【あら、それでもう泣くしかなかったわけね。あんた意外と役者向いてるんじゃないの。本番でアドリブだなんて結構肝が据わってるわよ】
「追い込まれて俺も必死だったんだよ。多分二度とあれはできない」
【お前がいなきゃ、ダメなんだよ。絶対に死ぬな。頼む……死なないでくれよ……。まだ好きって目を見てちゃんと伝えれてないだろ!!】
「うっせぇ。さっきまで散々いじられてたのに、まだいじるか」
【青春ねぇー。いいわぁー】
「頼む、忘れてくれ。そうだ、アル。皆の記憶をいじって最初からあの台詞だった事にしてくれよ」
【嫌よ、面倒くさい】
「どうせ暇な精霊だろ?いいじゃん」
【なんであんたの恥ずかしい失態をあたしがフォローしなきゃいけないのよ。そんな無駄な力使いたくないわよ】
「ケチ」
その日は疲れていたからだろう。
あっという間に眠ることができた。
次の日、大学に行くと茜ちゃんが話しかけてきた。
「大下君、おはようー。銀のライオンと星観たよぉー。大下君の演技本当に凄かった。感動して泣きそうになっちゃったよ」
「ええ、そ、そうかな……」
「あんな難しい演技よくできたね。最後のシーンの泣くところ、迫力あったなぁ」
「実はアレ台詞が飛んで咄嗟に……」
「ええっ!?あれアドリブなの?凄いね」
「いやー、もう必死で……」
「本当にお疲れ様ー。次はテストだね」
「へっ?」
「もうすぐ期末テストだよ」
あああ、すっかり忘れていた。
演劇の事ばかり考えていてテストの事なんて全く頭になかった。
やばい。単位落とすと大変だ。
「鬼崎の講義……単位取れるかなぁ……」
そう、それだけは何としても落としてはならない。
鬼崎の講義の単位落とすなんて洒落にならない。
「あたしは友達に勉強教えてもらうかなぁ。あっ、大下君。演劇部の先輩に過去問とかもらえるんじゃない?」
「その手があった!!早速聞いてみるよ。茜ちゃん、ありがとう」
早速、渡辺さんに聞いた。
「ああー、尾崎先生の。うんうん、あったねぇ。でもあの先生、毎年、こうやって先輩から過去問を貰う人の対策に違う問題に変えてるから意味ないと思うよ」
「ええ……そ、そんな……」
「しかもさ、そのことを教えてくれるのがテスト開始直前なんだよ。私は不正行為やずるい抜け道を使おうとする人間が一番嫌いなんです。だから先輩から過去問を貰うというようなやり方も気に入りません。毎年問題は変えてありますって言うんだよ」
「さすが……鬼だ……」
渡辺さんの過去問を貰うという手はダメだったが、実は俺には最後の切り札がある。
心強い味方がいるのだ。
そう、困ったら秀才の長尾君だ。
長尾君は普段、地味で目立たない真面目なタイプの人だ。
勉強がよくできて、普段でも図書館で一人で本を読んだりしているような頭の良い友達だ。
この非常時、彼ほど頼りになる友達がいるだろうか。
長尾君に電話をかける。
「あー、もしもし。長尾君。鬼崎の授業ってテスト対策とかできてる?……うん、頼むよー。勉強教えて欲しいんだ。絶対単位落としたくないからさ、助けてよー。うん、俺のマンションでも来てテスト対策しようよ。晩飯もごちそうするからさ」
長尾君がマンションへとやってきた。
【あら、初めて見るお友達ね。随分と真面目そうな子ね】
「まあ上がってよ」
長尾君にウーロン茶を出して早速勉強を教えてもらう。
【あら、勉強するの。そう、テストが近いのね。だからこんな賢そうな子を連れてきたのね】
長尾君は勉強を教えるのが上手かった。
要点を簡潔にまとめてくれていて、自分のノートも写させてくれた。
鬼崎よりも断然わかりやすい。
長尾君みたいな人が教師になればいいのにな。
学生は大喜びだぞ。
彼のような人は将来、きっと大企業に就職できて苦労しないだろう。
俺は授業の分からないところを長尾君にたくさん教えてもらった。
お礼に料理を振舞ったところ、美味しいと言って食べてくれた。
そして試験当日。
長尾君に教わったおかげでテストの出来栄えは、バッチリだった。
ありがとう、長尾君。
このご恩は一生忘れません。
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