第24話 演劇のチケット

レポートも終わり、夕食の食材を買いにスーパーへ行った。

最近では、どの野菜が良さそうかをチェックするようにもなっていた。

コンビニで弁当を買って済ませていた時の自分からすると、我ながら本当に成長したと思っている。

買い物を済ませ、スーパーの駐輪場で自転車のカゴに荷物を入れていた時だった。

二十代中盤か後半くらいの俺よりも少し年上っぽい感じの男性が、自転車の後輪タイヤを見ていた。


「あちゃー、やっぱりパンクしてるよ。参ったな」


独り言が聞こえてきた。

どうやら自転車がパンクしているらしい。

ここから五分くらいのところに自転車屋がある。

この人は知っているのだろうか?

俺は声をかけた。


「あのー、パンクですか?ここから五分くらいのところに自転車屋ありますよ」


「そうなんですか。どこら辺ですか?」


「一緒に行きましょうか?ほんとすぐ近くなんで」


「本当ですか。それは助かります」


男性を自転車屋まで案内した。


「あー、助かりました。ありがとうございました。この辺りは土地勘がないもので」


「いえいえ。それでは」


「あっ!待ってください。お礼にこれよかったら……」


男性が一枚、チケットを渡してきた。

劇団黒薔薇の大江戸恋愛温泉と書いてある。


「僕、この劇団で劇団員やっているんです。よかったら観にきてください。この作品にはかなり思い入れがあるので、きっと楽しんでもらえると思うんです」


「ありがとうございます」


へぇー、演劇ねぇ……。

あんまり興味ないけど。


男性と別れてマンションへと戻った。


【おかえり】


「ただいま」


【少しは気持ちが落ち着いたみたいね。顔を見ればわかるわ】


「精霊も割と空気読める時があるんだな」


【誰だって一人になりたい時はあるものよ】


「俺は一人になりたくても口うるさいのに住み着かれてるからな」


【あら、そんな口を叩けるようになったのなら随分と回復したようね】


チケットを机の上に置いて夕食の準備を始めた。

今日の献立は、鮭のムニエルだ。


夕食を食べ終わった後、テレビを付けた。

色々と適当にチャンネルを変えてみるが、面白そうな番組はやっていない。

次のチャンネルに変えた時だった。


【……あら?待って、変えないで。……この子】


「えっ?何?」


テレビには四十代くらいの女性が映っていて、何やら司会から質問されて答えている。

バラエティのトーク番組か。

誰だろう。こんな芸能人知らない。

いや、まあそこまで芸能人に詳しいわけではないんだけど。


【……なかなか不思議な力を持ってるわね】


「えっ?何が?」


どうやらこの司会と女性の話を聞いていると、占い師のようだ。

満月由美子という名前らしい。

占った人のエピソードを面白おかしく話している。


「この満月由美子って人が凄いの?」


【そうね。人間にしては凄いんじゃないかしら】


「へぇー。精霊が力を認めるお墨付きか。そりゃ本物だな」


どうやらこの満月由美子という人は、土地によって力が変化するから占いの館みたいな店は持たず、その時に応じてパワーが集まる場所に移動し、様々な土地で占いをするらしい。その為、神出鬼没の占い師として、バラエティ番組に呼ばれたみたいだ。

そりゃ一度占って欲しいものだね。

でもどこにいるかわからないなんてな。

占ってもらいたくても占ってもらえないじゃないか。

……ってかなんでテレビには、出てるんだよ。


まあいいや。

そんな事よりも、さっさと風呂入って寝るか。

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