第23話 傷心

復帰初日は、加藤先生の講義だった。

茜ちゃんに会うのが気まずいな。

そう思いながら講義室に入ったが、やっぱり目では、茜ちゃんを探してしまう。


あれ?いないな。

と思っていたら後ろから声をかけられる。


「彰君、おはよう」


「お、おはよう」


普通に接してくれている。

ありがたい。

授業が始まるまでの休み時間は、加藤先生の授業内容の事だったり、昨日は新しいレパートリーを増やすために普段作らない料理に挑戦しただのという会話をしたような気がする。たしか。

フラれた時のことをまだ引きずっているせいか、ほとんど内容は覚えていない。

授業内容もあまり頭に入らないまま終わってしまった。

そして気が付いたらマンションに帰っていたというくらいボーッとしていた。

帰ってきてからもフラれた時のことをずっと思い出してしまう。

告白しなければよかったかな。

まだ言うのは、早かったのかな。

もし告白しなければ、まだ楽しい時間を過ごせていたはずだ。

あの時は楽しかったな。

料理作って一緒に食べてマジックソルト観に行って、丹波イリュージョン。

考えても仕方ないと思っていても考えてしまう。

何度も何度も思い出してしまう。

気を紛らわせるために、早めに大学のレポートをやってしまおう。

何か別の事をやらないと。

ノートパソコンを立ち上げて課題のレポートを書き始める。

レポートを書いていてデータを調べる必要があったからネットで検索しようとした。


「あっ……」


検索エンジンのニュース欄の見出しに目がいく。


リトルビッグフラワー、マジックソルト主題歌の「やさしさ」を収録した新アルバム「大きくて小さい」発売開始


そういえば、やさしさってエンディングで流れてたな。

マジックソルトの主人公の人を思いやる優しい心を表現してて、とても良い曲だった。


動画サイトで検索して、やさしさを聴いた。

改めて聴いてみても本当に良い曲だ。

傷ついている今の自分の心を優しく包み込んでくれるような気がした。

気が付いたら何度も聴いていた。

涙を流しながら。

アルは黙って何も言ってこなかった。

そっとしておいてくれた。

アルなりに気を使っていてくれたってことなのかな。


気持ちが随分と落ち着いてきた。

茜ちゃんが普通に接してくれているのも、俺を気遣ってくれてのやさしさなのかもしれない。

だから俺も茜ちゃんと何事もなかったかのように普通に接しなければ。

俺は大丈夫だよっていうのをきちんと分かってもらわないと。

そう思えるようになった。


ああ、そうだ。

レポートやってたんだった。

課題なんてさっさと終わらせて、何か別の熱中できることがないかを考えてみよう。


大丈夫。

俺ならきっと何か見つけられるはずだ。

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